成果概要

アバターを安全かつ信頼して利用できる社会の実現[3] E3LSI課題・政策展開の研究

2023年度までの進捗状況

1. 概要

日常生活でサイバネティック・アバター(CA)を利用するアバター生活環境の実現に必要な研究を行い、アバター生活の展開に必要な諸課題を克服するとともに社会的受容性を確保するため、E3LSI「倫理的・経済的・環境的・法的・社会的課題(Ethical, Economic, Environmental, Legal, and Social Issues)の略称。イーキューブ・エルシ」研究基盤の構築を目指す研究を実施します。
この目標に向けて、E3LSI課題に取り組んでいます。

1. 倫理的課題(Ethical):
CA研究開発課題の連携(ソシオCAと体内CAを包含する概念拡張と倫理的課題の解決)
2. 経済的課題(Economic):
CA労働と経済活動(労働環境の変化分析)、CA計量経済学(社会的影響評価と受容性の国際比較研究)
3. 環境的課題(Environmental):
サイバーフィジカル・サステナビリティ・センター(CPSセンター)の設置運用
4. 法的課題(Legal):
E3LSI課題・政策展開の研究(CA認証・公証に必要な制度基盤の構築)、サイバネティック・アバター法の醸成に関する研究、CAの知的財産保護及び社会的・政策的展開
5. 社会的課題(Social Issues):
全課題を通じて、CAの社会的受容性の確保と社会実装に向けた研究を実施

2. これまでの主な成果

1. 倫理的・法的課題

新興技術規制の新たな制度構想として、AI規制のための適合性評価制度の構築に向けた制度設計を提案しました。新保史生「AI規正論」情報通信政策研究第7巻第1号PP.69-100(2023)においてその構想を公表しています。
CAの法的課題を俯瞰的に検討し、生成AIと法的課題、トランスヒューマニズムの倫理的・法的問題、人間の尊厳やアルゴリズムによる差別の問題、松尾光舟、齊藤邦史「アバターに対する法人格の付与」情報ネットワーク・ローレビュー第22巻45-66頁(2024)ではCAと人格権や法人格に関する研究など多様な課題の考察が進展しています。
CA法制に向け「人」や「物」といった基礎的な概念の再構築のため、Souichirou Kozuka, The Avatar Law and (Cyber) Transnational Contracts, UNIFORM LAW REVIEW vol.28, pp.281-292 (2024)にて、CAを独立の「人」又は「代理人」として扱う可能性を指摘する成果を公表しています。
現行法制下でのキャラクター使用と保護の現状を調査し、知的財産法によるCA保護の限界を整理し、SNS使用者の権利主体性と人格権の保護の現状を調査しCAの無断使用やなりすましの想定事例を分析しています。
E3LSI(イー・キューブ・エルシ)は、商標登録(第6803372号(T6803372)を行い、E3LSIに関する研究活動等において自由に利用することを可能にしています。

2. 経済的課題

CAと働き方について海外動向を調査し、機械化・ロボットによる生産性、国民所得、所得分配の歴史的趨勢を分析。仮想通貨と金融決済制度の海外動向と国際的な規制の流れを調査しています。
CA計量経済学の研究として、CAの社会的影響評価と受容性、認証の受け入れメカニズムについて国際比較研究を進め定量分析を行い、Shinichi Yamaguchi, Misinformation and Disinformation in Our Society, Internet Governance Forum 2023(2023/10/8)において報告を行っています。

3. 環境的・社会的課題

サイバーフィジカル空間を通貫し持続可能な社会システムと法政策研究のためCPSセンターを創設し、社会的受容活動としてアバターVR体験会を実施しています。
身体の制約からの解放に伴うE3LSI課題の研究についてCAのアイデンティティに関する研究会を開催し、精神(人格)と財産(経済)の両側面を横断する研究枠組みを抽出し、CAとその活動基盤のユースケースを通じて、意思と利益の両側面を包括する研究枠組みを構築しています。

3. 今後の展開

CA認証・公証基盤構築に係る適合性評価制度の提案、CA研究動向の俯瞰・分析データベース構築による研究の加速、ソシオCAと体内CAの包含概念の拡張を定式化するなど、E3LSI課題の研究を具体化します。これにより、CAを安全かつ信頼して利用できる社会の実現に向けた取り組みを加速させます。