成果概要
アバターを安全かつ信頼して利用できる社会の実現[2] CA安全・安心確保基盤の構築
2024年度までの進捗状況
1. 概要
本研究課題では、サイバネティック・アバター(CA)を安全かつ信頼して利用できる社会の実現に向けて、遠隔操作者認証・CA認証・CA公証を核とするCA安全・安心確保基盤の構築を目指しています(図1)。その礎となる認証技術として、個々の検査ポイントでの認証を確実に行うためのショートターム認証・公証技術、継続認証を通じて長期見守りを実現するためのロングターム認証・公証技術(その一部は研究開発項目1で実施)、なりすまし検知やプライバシ保護を実現するための敵対的攻撃対策技術を研究開発しました。

2. これまでの主な成果
① CA安全・安心確保基盤構築設計
CA安全・安心確保基盤の未来像を議論し、2050年におけるCA利用の世界観を「CAビジネスショーケース2050」という形で考察しました。未来のCAサービスを発想し、その内容からバックキャストする形でCA社会のセキュリティ課題を検討しました。1×1操作(遠隔操作者1人が1体のCAを遠隔操作する)型ソシオCAを対象としたCAサービスについては、CA技術によって人間の身体機能(脳・五感・臓器)が拡張される未来におけるセキュリティ技術を掘り下げました。概念証明(Proof of Concept)のための研究を展開し、セキュリティ分野主要国際会議NDSS(Network and Distributed System Security Symposium)等での論文発表を行いました。M×N操作(遠隔操作者M人がN体のCAを遠隔操作する)型ソシオCAを対象としたCAサ-ビスにおけるセキュリティ課題の抽出も開始し、CAのM×N操作によって特殊詐欺がどのように深刻化するか整理しました。
② 無線指紋型ショートターム遠隔操作者認証・CA公証技術開発
スマートフォン等の無線デバイスの電波の特徴を活かして、簡単かつ正確な操作者やCAの認証を実現するために、無線指紋を用いた操作者認証およびCA公証技術の開発に取り組みました。既存研究の中でも最大規模となる独自構築の無線指紋データセットを活用し、無線機器の認証精度の向上を図りました。従来の特徴量に加えて、新たに設計した無線指紋特徴量を導入し、複数の認証アルゴリズムを開発・検証した結果、従来の最高精度(約90%)を大きく上回る98%の認証精度を達成しました。
特に注目すべき成果として、従来の「登録済みデバイスのみを対象とする closed set」認証シナリオを超え、未登録デバイスの検出が可能な open set認証技術を世界で初めて提案・実現した点が挙げられます。この手法をもとに、MACアドレスのランダム化に対応可能なWi-Fi機器の追跡技術を新たに開発し、open set環境においても85%の識別精度を達成しました。
③ CA安全・安心確保基盤に対する敵対的攻撃対策技術開発
有体物CA(物理的なロボットアバター等)の高精度計測により得られる偽造困難特徴量を利用した有体物CAの構築手法として、複数操作者によるCA操作時の認証方式の検証、公平な特徴を持つCA認証用特徴の生成、通信経路におけるなりすましを検知可能な特徴抽出に関する検討を進めました。これらなりすまし攻撃に対する攻撃モデルおよび検出手法を提案し、プロトタイプシステムのなりすまし困難性を検証しました。これらの成果を、仮想現実分野主要国際会議IEEE VR(IEEE Conference on Virtual Reality and 3D User Interfaces)等で発表しました。
④ ロングターム遠隔操作者認証・CA認証技術開発
ロングターム認証は、時系列生体データを利用した継続認証(研究開発項目1で実施)と、長時間の観察から得られる操作者の癖に相当するデータを利用したログベース認証によって実現されます。ログベース認証に活用するCA操作データを管理する実験用共通データベースを構築し、石黒PJが構築するCA基盤と接続しました。一部のデータについて遠隔操作者認証が動作することも検証しています。
オンラインゲームはプレイヤ(遠隔操作者)がキャラクタ(CA)を操作するサービスであり、このログデータを分析することはCAログベース認証を実現するために大いに寄与します。オンラインゲームの一つであるeスポーツの操作ログやCAログを解析することで、ログから個人性を抽出できることを検証しました。また、南澤プロジェクトのロボットアームの操作ログを分析し、このログデータが個人性を持つことを解明しました。
3. 今後の展開
上記の成果が、研究開発項目3で展開している適合性評価制度の技術的側面を支える知見となります。CAセキュリティの重要性を発信し、国際的なムーブメントを起こすためのアウトリーチ活動として、生体認証に関する主要国際会議であるIEEE IJCB 2025 (IEEE International Joint Conference on Biometrics 2025)において、我々の提案と働きかけにより、特別セッションの開催が決定しています。