低炭素社会の実現に向けた技術および経済・社会の定量的シナリオに基づくイノベーション政策立案のための提案書

LCS-FY2019-PP-19

建物と輸送エネルギーシステムのスマート統合がもたらす地域民生部門炭素排出削減の定量評価

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概要

 日本政府は、パリ協定を受けて2030年に向け温室効果ガス排出量についてCO2換算26%削減(2013年比)を約束し、2050年には80%削減さらにはゼロエミッション化を目指している。そのなかで輸送部門と民生部門の排出削減においては、戸建住宅のZEH(Zero Energy Houses)化、業務用建物ZEB(Zero Energy Buildings)化や、電気自動車(EV)と太陽電池(PV)との連携に期待が寄せられている。エネルギー需要の電力化はこれらの普及と拡大の大きな要素であるが、それらは同時に電源構成などエネルギー供給構造にも大きく影響すると考えられる。しかし、これらの効果の定量的解析はこれまでなされていない。

 ここでは、建物のZEB/ZEH化、太陽電池(PV)の普及、電気自動車(EV)による在来型エンジン自動車の置き換えによる民生部門と輸送部門の融合によるCO2排出量の削減潜在性に着目する。本提案では、これを①分析のフレーム、②住宅のZEH化、PV導入によるエネルギー供給およびCO2排出の地域別変化、③乗用車利用状況を反映した住宅用エネルギー需要とガソリン車のEV置き換えによるCO2排出の変化、④住宅と業務部門およびPV、EVの連携によるCO2排出変化の予備的検討、⑤業務部門のZEB化の現状、⑥既存のスマートシティプロジェクトの調査、の6段階で行う。
 まず地域エネルギーシステムのあり方とエネルギー需要の評価手順を示す。続いて、家庭部門の電化、ZEH化によるエネルギー需要変化と低炭素化の効果を地域別に評価する。この結果に東京理科大学で行われた自動車利用状況アンケート調査を適用し、住宅とEV/PVの連携による家庭部門の低炭素化の評価を行う。これによると、まず住宅の全電化とEV導入の効果は戸建て住宅、集合住宅いずれも約30%のCO2排出削減を示した。もし家庭に年間一次エネルギー消費と等しいだけのPVが設置され、かつ余剰電力がすべて系統電力に0排出電源として接続されて既存電源を置き換え、さらにEVがガソリン自動車を置き換えるとするなら、現状と比較し戸建て住宅で87.3%~96.7%、集合住宅では71.5%~94.8%のCO2排出削減が可能となる。
 上記を今後PV運用とEVの連携および需要家間の連携評価に拡張するため、予備的検討として宇都宮市7地域を取り上げ、既開発の地域エネルギーモデルを拡張適用して、地域内の住宅とオフィスや店舗とのエネルギー需給の連携やEV化効果の時刻別評価分析を行った。この結果、建物断熱化やEV導入、需要家間相互融通などを全て導入し費用最小化を行うと地域の年間CO2排出量は従来型システムの約35%に削減された。コストとCO2排出削減のトレードオフ評価では、PVと蓄電池の導入化によるエネルギーコストの8%増加に対し、CO2排出は30%にまで追加削減なされた。この場合託送料金に対する感度が特に高いことが示された。またEV充電の広域マネジメントシステムの必要性も示唆された。
 次にZEBの現状を調査した。ZEB認定は13件のみであるが、もし2020年からすべての新築建物がZEB化され、建物寿命を50年とすると、全建物ストックに占めるシェアは2030年で18.6%、2050年は52.0%になると推計される。業務用ビルの電力使用原単位の変化を関東の中規模ホテルについて2001年推計値を2012~2014年調査と比較すると、新しい建物の原単位データは約21%省エネ化が進んでいることが示された。
 最後に、スマートシティの現状を調査した。消費者への情報フィードバックなどSmart化による地域エネルギーのへの期待は大きいが実装の効果はまだ明らかでない。そこでまず、次世代・エネルギー社会システム実証事業のスマートシティプロジェクト(横浜市、豊田市、けいはんな、北九州市)の報告書を調査した。各プロジェクトは重点分野が異なるため相互比較は難しいものの、需要家応答(DR)の効果はいずれも30%程度のエネルギー消費削減になるとしていた。
 以上からZEB/ZEH、PV、EV化の連携効果は大きいこと、託送料金の設定、EV充電の広域的管理の必要性、特に導入推進策の重要性などの課題も同時に示された。

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