低炭素社会の実現に向けた技術および経済・社会の定量的シナリオに基づくイノベーション政策立案のための提案書

LCS-FY2016-PP-11

家庭・中小業務における「電気代そのまま払い」社会実装のための提案書

概要

 パリ協定も発効し、日本は大幅な低炭素化を国際的に約束している[1]。その実現のためには、再エネの利用はもちろんであるが、省エネルギーが重要である。また、カーボン・バジェットの考え方を鑑みると、省エネルギーを早い時点で実現することは、意義が大きいものとなる。一方で、新築の建築物に対する断熱性能などの基準は整備が行われているが、既築住宅や雑居ビル、小規模店舗などに対する有効な省エネ政策は実現していない。

 低炭素社会戦略センター(LCS)・東京大学工学系研究科松橋研究室・新領域創成科学研究科吉田研究室・プラチナ構想ネットワークを中心に、2014年度から、「電気代そのまま払い」を提案し、協働プロジェクトとして研究・実証を進めてきた。Pay-as-you-save(PAYS)の考え方に基づき、初期投資は不要で、省エネや創エネによるメリットを比較的長期にわたって返済することで、家計にとっては追加的出費なく低炭素化投資が実施できるという枠組みである[2][3]。英国・米国では類似の政策が実施され[3]、英国では頓挫、米国では進展している。我々プロジェクトチームは、諸外国での事例も大いに研究・分析し、参考にしながら、また日本の事業者に対する密なヒアリングも実施し、①静岡ガスによる家庭用冷蔵庫買替プロジェクト、②下川町(北海道)における家庭用冷蔵庫買替プロジェクト、③水俣市(熊本県)における業務用冷蔵庫買替プロジェクトの3件を推進してきた。
 これまで、静岡ガスが主体となった「電気代そのまま払い」プロジェクトでは、20件の冷蔵庫の電力消費の計測をし、5件買替提案を行い、うち2件が「電気代そのまま払い」による冷蔵庫の買替を実施した。静岡ガスの子会社である静岡ガスクレジットによるリースによって、電気代節約分相当(みなし)の金額を、月々リース代として支払うことで、初期投資なしに20万円近い冷蔵庫を最新のものに買い替えた。買替によって60%以上の省エネが実現した。また、静岡ガスの実証実験に加えて、北海道下川町と熊本県水俣市でも、冷蔵庫の電力消費を計測後、高効率の新しい冷蔵庫に買替がそれぞれ1件ずつ実施され、電気代節約分(みなし)による返済スキームを実施している。
 買替を実施した家庭に対して静岡ガスが実施したインタビューによると、実際に冷蔵庫の電力消費を計測したことが、買替の環境性・経済性についての説得力を増したことがわかった。一方で、ガス会社の子会社であるリース会社としては、移動や転売が容易な家電についてのリースの経験がなく、債務不履行リスクについて不確実性が高いことが、本スキームを実際の事業として拡大する際のネックとなることがわかった。
 以上の実証実験による経験、事業者へのインタビューを考慮し、今後家庭や小規模業務における低炭素機器導入を進めるための「電気代そのまま払い」の実現については、①安価な計測器と自動での機器分離技術の活用による見える化・診断・買替・返済プラン・契約までワンスルーのシステム&アプリ開発、②家電の転売・債務不履行リスクについて保証する実証実験の実施、を提案する。
 また、冷蔵庫についてLCSにて進めてきた研究によると、2014年時点において1999年以前の冷蔵庫保有は、全体の冷蔵庫保有の約16~20%と推計され、また、2014年時点のストック効率データによってすべてが高効率冷蔵庫に買い替えられたとすると、家庭からのCO2排出量は、1386万トンの削減が実現できる(家庭からの電力利用分も含む2015年度排出量の約7%)。日本の冷蔵庫保有台数は約6000万台と推計され、この2割が15万円の冷蔵庫購入に結び付くとすると、経済効果は約1.8兆円規模となる。
 「電気代そのまま払い」の実施者にとって、電力価格が今後大幅に下がるというリスクは存在するものの、安定的に省エネ収入が担保できる省エネ投資について、IT技術を生かした家庭・小規模業務におけるポテンシャルを顕在化させることは、経済の活性化にも有効な対策である可能性が高い。

提案書全文

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