低炭素社会の実現に向けた技術および経済・社会の定量的シナリオに基づくイノベーション政策立案のための提案書

LCS-FY2017-PP-18

新しいエネルギー変換・貯蔵機器技術、未利用熱源およびビル省エネルギー技術の導入と技術特性を明示した都市分散エネルギーシステムの在り方に関する研究

概要

 民生部門、特に東京のような大都市部における商業・事業所ビルの省エネルギー化は、低炭素社会実現に向けた大きな課題であることはよく知られている。ここでコジェネレーションシステム(CGS)、太陽電池などの分散型エネルギーシステムは、空調エネルギー需要の増加に対応する技術としての期待が大きい。近年、ネットゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の概念が普及しつつあり、また新型ヒートポンプ(HP)技術の向上により、過去歴史がありつつもあまり実装には顧みられなかった地中熱や河川熱などのいわゆる未利用エネルギー源が再注目され、導入事例も増えつつある。しかしながら、これらの新技術の寄与が経済性、環境性においてどの程度のものなのかなどの定量的評価はまだ行われていない。

 本提案では、これらの動向を踏まえ、ビル単位のエネルギーフローモデルの開発を行い、シミュレーションにより、地域におけるこれらの新技術および未利用熱源の寄与の効果を定量的に評価する。ここでは、東京都江東区湾岸エリアに3棟の大型商業・事務所ビルを想定し、まず暖房・冷房・給湯・一般電力需要を推計する。次いで、ここに外気駆動の従来型AC駆動のHPと次世代型DCインバータ駆動のHP、地中熱利用HP、河川熱利用HP、CGS、太陽電池の導入を想定し、コストとCO2排出がどの程度削減可能かを様々な導入シナリオで比較する。ここで、HPの成績係数(COP)は部分負荷率で大きく変化することが知られている。また地中熱と河川熱利用には東京都の調査データと地理的条件を考慮した。地中熱利用ではHPのCOPは5-6となり在来型大気熱利用のCOP(4-5)を上回ると同時に、部分負荷特性も変化する。そこで、本研究では定式化にあたってこれらの機器の運転特性の非線形性を明示的に扱うこととした。ZEB技術としてダブルスキン導入の有無を比較検討した。
 主な結果として、本研究で想定したパラメータ設定の下で、地中熱利用は費用の10%削減、ダブルスキンを含むすべての技術導入では総費用は7.7%削減、CO₂排出量は8.5%削減可能となった。
 今後の課題として、新技術と未利用熱源の潜在性は大きいと同時に、それらを引き出すにはミクロレベルでの需要や熱源賦存量の調査、天候条件の加味などの詳細化が必要なこと、またEVとの連携やICTの活用による省エネルギー化が鍵となることが示唆された。

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