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研究年次報告と成果


三浦 正幸 (東京大学 大学院薬学系研究科 教授)

「個体における細胞ストレス応答代謝産物の遺伝生化学的解明」

平成19年度  

§1.研究実施の概要

細胞ストレスの研究からそのシグナル伝達機構が詳しく解明されてきた。しかし生体の個々の細胞が受容し、発するストレス応答がどのように作り出され組織・器官に作用するのかといった、細胞間の相互作用に注目した研究はアプローチの難しさから極めて少ない。様々な発生ステージの野生型ショウジョウバエ個体の上皮にニードルで小さな傷を付けても直ちに傷の修復がおこり個体は生存するが、同じ実験をカスパーゼ活性化因子apaf-1の機能欠損変異体に対して行うと、傷の修復はおこるもののその個体は数日の内に致死となることが明らかになった。この現象に関わる責任組織を検討した結果、上皮組織でのカスパーゼ活性が重要であることが示唆された。次に、傷害後のシステミックな影響をもたらす因子を同定する目的でショウジョウバエ体液サンプルの採取法を検討した結果、プロテオミクス解析が可能なサンプルを集めることが出来るようになり、現在解析を進めている。また、apaf-1変異体に傷害を与えた個体から得られた体液には野生型ショウジョウバエの致死性誘導活性が認められ、その活性をもたらす分子の実体にせまるべく解析を進めている。

§2.研究実施内容

1)傷害ストレスに対するカスパーゼを用いた生体防御

ショウジョウバエの様々な発生ステージにおいて、その上皮にニードルで小さな傷を付けると、直ちに傷の修復がおこり、個体は問題なく生存する。しかしながら、同じ実験をカスパーゼ活性化因子apaf-1の機能欠損変異体に対して行うと、傷の修復はおこるものの、その個体は数日の内に致死となることが明らかになった。しかし個体そのものを用いたストレス応答は、個体の遺伝的背景によっても影響されることが考えられたため、この現象におけるdapaf-1依存性を詳しく解析した。dapaf-1のnull変異体は幼虫致死であるため、傷害実験に用いているdapaf-1変異体はP因子挿入による機能抑圧型変異体である。このアレルの表現型がP因子挿入によるものかを調べる目的でP因子が正確に除去された系統を複数作製し、傷害実験を行ったところ、傷害に対する脆弱性が失われた。さらに、遺伝的背景が異なるdapaf-1点突然変異系統とP因子挿入による機能抑圧型変異系統とをトランスヘテロにした場合にも、P因子挿入系統ホモと同じ表現型を示した。これら一連に実験により、傷害ストレスに対する脆弱性はdapaf-1変異に基づくことが明らかになった。Dapaf-1はカスパーゼ活性化因子であるので、この表現型がカスパーゼ活性に依存したものかどうかについて解析した。発生期からカスパーゼ活性を阻害すると致死になるため、実験ではカスパーゼ阻害遺伝子p35を熱ショックプロモーターの制御下で発現する系統を用いた。傷害刺激の数時間前の個体に熱ショックを与えてp35を発現させ、その後傷害を与えた。この実験によってもdapaf-1変異体と同様の結果が得られたため、傷害ストレスによる個体の脆弱性はカスパーゼ活性の低下によることが確認された。

2)傷害ストレスにおけるカスパーゼ活性化と細胞間相互作用の解析

個体レベルで、傷害ストレスによる分子応答を細胞間相互作用の中で明らかにするためには、カスパーゼの活性化が必要な組織の特定と、その組織におけるカスパーゼ活性化ダイナミクスを明らかにする必要がある。この目的のために、上皮、脂肪体細胞、ヘモサイト(免疫担当細胞)といった組織で特異的にカスパーゼ阻害遺伝子を発現させ、致死率に対する効果を明らかにすることで責任組織を特定する。採用した方法は、GAL4/UASシステムを用いて、組織特異的にカスパーゼ阻害因子(p35)を発現させた系統に傷害ストレスを与え、致死率を観察するものである。具体的な研究手法を以下に記す。組織特異的発現プロモーターによって、さまざまな組織にGAL4(転写因子)が発現するトランスジェニック系統(ドライバー系統)が各種系統化されている。その系統から、目的の組織に発現させるドライバー系統を選択し、GAL4結合配列であるUASをp35の上流にもつ遺伝子を導入された系統と交配させ、その子孫に傷害ストレスを与える。致死率の高い子孫を持つドライバー系統においてGAL4が発現する組織が、傷害ストレスから個体を生存させるために、カスパーゼ活性の必要な組織であることが示唆される。この実験によって責任組織が同定できるため、次に同じGAL4系統を用いてUAS-SCAT(カスパーゼ活性化インジケータープローブ)を発現させる。傷害ストレス後のさまざまなタイミングで、カスパーゼの活性化ダイナミクスを明らかにする。今年度はp35 を様々な組織で特異的に発現させることによって、上皮でのカスパーゼ活性が重要であることを明らかにした。

3. 傷害ストレスによる体液変化のプロテオーム解析

傷害ストレスを受けた個体では、体液を介した情報交換によって、ストレス応答をおこなう。野生型、apaf-1変異体それぞれに傷害ストレスを与え、それらの個体から体液を集めてプロテオーム解析を行う。この解析に用いる体液サンプルを取得するには、
  1. 体液取得法の確立
  2. 取得するタイミングの決定
が重要である。ショウジョウバエ成虫腹腔の体液はごく微量であり、ガラスキャピラリーでの取得はキャピラリーのもろさが原因でなかなか安定しなかった。今回、石英キャピラリープラーと針先を研磨するべべラーの導入によって、格段に安定した体液取得が可能になった(それでも1匹からの取得できるのは数10nlが限度である)。取得タイミングの特定を行うためには傷害刺激によっておこる生体反応を経時的に解析することが重要であると考え、cold injuryによって発現上昇があると予想される遺伝子の詳細な発現ダイナミクスを調べた。その結果、傷害ストレスによって自然免疫系で感染によって惹起されることが知られている複数の抗菌ペプチドの発現が上昇していた。その発現を経時的に調べると、傷害後24時間をピークに発現上昇が見られた。蛋白質の変化はこれら転写レベルでの変化に遅れて観察可能になると考え48時間での体液を取得した。この体液サンプルを用い、首都大学東京・礒辺研究室との共同によって分析を開始している。野生型の体液を用いて1000以上の蛋白質の同定が可能であることが明らかになった。今後は様々な傷害刺激、変異体の解析をしていきたい。低分子メタボライトの分析に関しても機能アッセイ系及び分析条件を検討していきたい。

§3.研究実施体制

(1)「三浦」グループ
  @ 研究分担グループ長:三浦 正幸 (東京大学、教授)
  A 研究項目

  ・ 個体における細胞ストレス応答代謝産物の遺伝生化学的解明

§4.成果発表等

1) 原著論文発表

@ 発表総数(国内 0件、国際 0件)

2) 特許出願
   @ 平成19年度特許出願内訳(国内 0件)
   A CREST研究期間累積件数(国内 0件)

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