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研究年次報告と成果


平井 優美 (理化学研究所植物科学研究センター 代謝システム解析ユニット・ユニットリーダー)

「植物アミノ酸代謝のオミクス統合解析による解明」

平成19年度

§1.研究実施の概要

本研究では、植物のアミノ酸代謝をモデル系として、メタボローム研究の本質ともいえる代謝制御予測を行い、これを実験的に検証することを目指す。本年度は、代謝撹乱をおこした実験系、すなわちシロイヌナズナの各種遺伝子破壊株を用いて、種子の代謝プロファイルデータを取得してフェノーム(可視的表現型)データと統合解析した。またアミノ酸代謝制御に関わる未知遺伝子を予測するための発現相関解析を行った。これらの解析結果は現在詳細に検討中である。今後は、種子以外の器官におけるメタボローム、トランスクリプトームデータを取得してデータベース化すると同時に、これらのデータに基づく代謝制御予測と、分子生物学的、逆遺伝学的実験による予測の検証を行う。また、代謝撹乱をおこした実験系の先行例として既知のメチオニン過剰蓄積シロイヌナズナ変異体を用いて、詳細なメタボロームデータとトランスクリプトームデータの統合解析を行い、メチオニン関連の代謝バランス制御機構を予測する。

§2.研究実施内容

研究目的

炭素・窒素・硫黄の同化代謝系が合流し、多様な二次代謝への入り口ともなるアミノ酸代謝は、植物のみならず、アミノ酸を栄養素として摂取する動物にとっても重要な代謝である。しかし、研究の進んでいる微生物と異なり、植物においては未解明な部分が多く、生合成酵素遺伝子すら未同定の経路が多く残されている。これは遺伝学や生化学、分子生物学などの方法論のみでは植物アミノ酸代謝の解明が困難であることを意味する。本研究は、近年発展してきているメタボロミクスを中心とし、トランスクリプトミクスなど他のオミクスを組み合わせて、植物におけるアミノ酸代謝とその制御機構をシステマティックに解明することを目標とする。

研究方法

代謝制御機構の全体像を理解するためには、個別の遺伝子機能や個別の代謝経路、特定の生育条件のみに注目するのではなく、代謝全体を俯瞰する視点が必要である。本研究では、モデル植物シロイヌナズナを用いて、さまざまな条件下で取得されたトランスクリプトームやメタボロームの実データからの仮説構築を行う。前者は、公開されているシロイヌナズナマイクロアレイデータベースを利用し、かつ自分たちでもマイクロアレイ解析によりデータを取得する。後者については事実上、公開データベースは存在せず、自分たちで多数のメタボロームデータを取得し、公開することを目指す。しかし現状のメタボローム解析技術およびスループットでは、トランスクリプトームデータのデータベース登録数に匹敵する数のメタボロームデータを取得するのは非常に困難である。そこで、アミノ酸を中心としたターゲット代謝プロファイリングではあるが、極めてスループットの高い分析系を確立し、数千の単位のデータを取得する戦略をとる。これらのデータに基づき、バイオインフォマティクス技術を開発して代謝制御機構の全体像を予測し、さらに生物学的方法論で予測を個別に検証する。これと平行して、既知のメチオニン過剰蓄積変異体mto1, mto2, mto3について、代謝攪乱の起きた実験系の先行例としてトランスクリプトーム、メタボロームの詳細な統合解析を進める。また、アミノ酸代謝との関連で研究されることの少なかったトランスポーター遺伝子について、別途、新規遺伝子同定のための解析を重点的に進める。

本年度の研究結果

本年度は、次年度からトップスピードで本格的に研究できるよう、これまでの準備状況をさらに完全なものとすることに主眼を置いた。

(1)「理化学研究所」グループでは、アミノ酸を中心とした代謝プロファイルの、ハイスループット分析系を既に確立している(日本農芸化学会2008年度大会ほかで発表)。本年度は、約3,000種のシロイヌナズナ遺伝子破壊株(トランスポゾンタグライン)の種子のアミノ酸プロファイル、および二次代謝産物グルコシノレート類のプロファイルを分析した。その結果、20種のタンパク性アミノ酸のうちのいずれかまたはいくつかの蓄積量が変化しているラインが1割程度の頻度で見つかった。このうち、原因遺伝子(トランスポゾンタグにより破壊された遺伝子)のアノテーションが興味深いものについて、トランスクリプトーム解析を行った。現在、データを詳細に検討中である。さらに、トランスポゾンタグラインのフェノーム(可視的表現型)データは、研究参加者である黒森らにより既にデータベース化されており(Kuromori et al. 2006, Plant J 47:640)、アミノ酸プロファイルと可視的表現型との関連に関する解析を行っている。代謝プロファイルデータの公開法は現在検討中である。
 また本年度は、この高速代謝プロファイル分析系の精度とスループットを向上させるために、新たにUPLCTM-タンデム四重極型質量分析装置を導入した。この装置を立ち上げ、標準品化合物で感度を検討した結果、これまで用いていたUPLCTM-四重極型質量分析装置と比較し、各化合物の検出感度が数十倍−数百倍に増加することが確認できた。本装置を安定して稼働するよう整備と条件検討を現在行っている。これにより、来年度以降、より精度の高いデータを高速に大量取得することが可能となり、新たな大規模リソースの分析への道が拓かれると期待される。

(2)「奈良先端科学技術大学院大学」グループでは、上記で述べた、アミノ酸蓄積量に変化を生じたトランスポゾンタグラインの原因遺伝子について、公開トランスクリプトームデータを用いた発現相関解析を行った。この解析結果を基に、今後「理化学研究所」グループとともに、これら原因遺伝子のアミノ酸代謝バランス制御における役割を推定する。
 また、シロイヌナズナ遺伝子のアノテーションやオントロジー、遺伝子産物であるタンパク質の細胞内局在などを整理し、これらを簡便に検索するためのツール’Arabidopsis Keyword Search’(http://kanaya.naist.jp/arabidopsis/top.jsp)を作成した。これを利用してシロイヌナズナのトランスポーター遺伝子候補について整理し、アミノ酸代謝に関連するトランスポーター遺伝子を推定するための発現相関解析を行った。現在、「東京大学」グループが解析結果を基にトランスポーター遺伝子候補の機能推定を行っている。

(3)「北海道大学グループ」では、メチオニンを過剰蓄積するmto1, mto2, mto3変異体のメタボローム解析、トランスクリプトーム解析を行なうための準備として、それぞれの変異体を親株と戻し交配したバッククロスラインの整備を行なった。mto3変異体については10回の戻し交雑を完了した。他の変異体については、さらに数回の戻し交雑を行う。
 また、mto変異体においてメチオニン以外のアミノ酸について代謝撹乱がみられるかを調べるために、mto1, 2, 3変異体の様々なアミノ酸の含有量の分析を行った。その結果、メチオニン以外にもいくつかのアミノ酸について野生型株と比べて含有量の変動がみられ、mto変異体においてメチオニン以外のアミノ酸の代謝撹乱が起きていることが示唆された。また、mto1変異体については、様々な成長段階において含有アミノ酸量の分析を行なった。mto1変異体と野生型株の間の遊離メチオニン量の差は成長に伴って減少するが、他のアミノ酸の中にも同様の傾向がみられたものがあり、メチオニン量とそれらのアミノ酸量の変動に相関性があることが示唆された。

(4)「東京大学」グループでは、「奈良先端科学技術大学院大学」グループと共同で、シロイヌナズナのトランスポーター遺伝子候補について整理し、アミノ酸代謝に関連するトランスポーター遺伝子を推定するための発現相関解析を行った。現在、これを基にトランスポーター遺伝子候補の機能推定を行っている。今後、特に興味深い候補遺伝子について、実験による予測機能の検証を行う。

§3.研究実施体制

(1)「理化学研究所」グループ
  @ 研究分担グループ長:平井 優美 (理化学研究所、ユニットリーダー)
  A 研究項目

 1.植物体の高速代謝プロファイリング技術の確立
   2. 遺伝子破壊株ターゲット解析とデータベース構築

(2)「奈良先端科学技術大学院大学」グループ
  @ 研究分担グループ長:金谷 重彦 (奈良先端科学技術大学院大学、教授)
  A 研究項目

 1.in silico解析によるトランスポーター遺伝子機能予測
   2.データベース構築

(3)「北海道大学」グループ
  @ 研究分担グループ長:尾之内 均 (北海道大学、准教授)
  A 研究項目

 1.mto変異体のバッククロスラインの整備
   2.mto変異体のアミノ酸分析

(3)「東京大学」グループ
  @ 研究分担グループ長:藤原 徹 (東京大学、准教授)
  A 研究項目

 1. in silico解析によるトランスポーター遺伝子機能予測

§4.成果発表等

1) 原著論文発表

@ 発表総数(国内 0件、国際 1件)

2) 特許出願
    @ 平成19年度特許出願内訳(国内 0件)
    A CREST研究期間累積件数(国内 0件)

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