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研究年次報告と成果


清野 進 (神戸大学 大学院医学系研究科 教授)

「糖代謝恒常性を維持する細胞機能の制御機構」

平成19年度

§1.研究実施の概要

糖代謝は生命活動において極めて本質的で根源的な生体反応である。膵臓に存在するランゲルハンス島(膵島)は血糖調節の中心的役割を果たしている。血糖を降下させるインスリンを分泌するβ細胞を含む4種類の内分泌細胞から構成される膵島は、異なる細胞が集合しただけの単なる細胞集団ではなく、糖代謝恒常性を維持する高次に機能統合されたシステムである。しかしながらこれまでの研究は、個々の細胞における個々の機能分子に着目した還元主義的なアプローチが主流であり、高次機能体としての膵島を解明するには至っていない。様々な代謝状態により制御される膵島機能をより高次のレベルで統合的に解明するためには、メタボローム解析を取り入れた包括的研究が不可欠である。本研究の目的は、様々な代謝条件下で膵島の代謝産物解析(メタボローム解析)を行い、膵島機能や膵島細胞の再生に関わる代謝シグナルを明らかにするとともに、それらのシグナルを制御する鍵分子を同定することである。さらに種々のモデル系を利用して代謝シグナル間の相互作用と膵島機能や膵島細胞の再生との関係、ならびに代謝シグナルによる細胞間の相互作用と膵島機能との関係を明らかにする。これらの研究により高次機能体としての膵島の仕組みを解明することが最終的な目標である。

§2.研究実施内容

清野グループ: 糖代謝恒常性を維持する細胞機能の制御機構の解明

1. 膵β細胞株における比較メタボローム解析
 網羅的な代謝物解析を行うための予備的検討として、独自にクローン化したマウス膵β細胞株を用いて、グルコース刺激による代謝物変化タイムコースの検討を行った。2次元(単層)培養状態の細胞を高濃度(16.7 mM)グルコースで処置し、0分、5分、30分後に回収してアセトニトリル/クロロホルム抽出により水溶性画分を得、できる限り多くの代謝物を検出するために、LC/TOF-MSによる質量分析に供した。その結果、1,000以上のピークが得られ、一部は既存のデータベースに登録された代謝物と一致した。
 一方、網羅的な解析と並行して、解糖系、トリカルボン酸サイクル、ペントースリン酸経路などグルコースによって駆動する既知の主要な代謝経路に存在する代謝物(標準物質が入手可能)に絞った解析も開始した。現在、低分子量化合物の定量解析に有利なGC/MS及びCE/MSを用いて条件検討を実施している。

 

2. 3次元構造の構築による膵島機能の解析
 3次元構造を構築した状態での細胞機能を解析するために、膵β細胞株を用いて偽膵島(pseudoislets)の作製を試みた。ある種のマトリクスを培養器にコーティングすることによって、見かけ上膵島に類似した3次元のpseudoisletsが形成されることを見出した。この培養系を利用して、種々の条件下でのインスリン分泌反応や細胞内シグナルを解析し、2次元培養の場合と比較検討した結果、細胞内インスリン含量の増大やcAMPシグナルの増強が認められ、インスリン分泌反応が著しく上昇した。  さらに、cDNAマイクロアレイによる発現遺伝子(トランスクリプトーム)の比較解析を行い、pseudoisletsと2次元培養の場合とで、種々の遺伝子発現の差異が認められることを見出した。今後、プロテオーム、メタボロームの解析も実施し、それらの結果を統合することで膵島機能を制御する鍵分子および経路の同定を目指す。

溝口グループ: 糖代謝恒常性を維持する細胞の形態学的解析

in vivoで膵島細胞の分化・再生過程をリアルタイムに解析するため、膵島細胞を選択的に蛍光標識した遺伝子操作マウス(MIP-GFP/CAG-mRFPマウスおよびIns2-CreER-T2/ROSA-YFPマウス)を作製し、これらのマウスで膵β細胞が選択的に標識されることを確認した。また、2光子励起レーザー顕微鏡(TPLSM)を用いて膵島の3次元構造を保ったまま、さらに、in vivoで動物を生かしたまま膵島細胞が検出可能であることを確認した。現在、MIP-GFP/CAG-mRFPマウスを用いて、膵島細胞の分化過程を解析中である。

稲垣グループ: 糖代謝恒常性を維持する細胞機能破綻の分子機構の解明

研究初年度である本年度の研究実施内容は、「生命維持システムの基本となる糖代謝制御機構やその破綻による病態の解明」に関連して、脂質の代謝調節に係わる影響に関して検討を行った。脂質は生体膜の重要な構成成分、エネルギー源、生理活性シグナル分子など多くの役割が報告されている。各組織間でリン脂質組成に違いがあることが示唆されており、リン脂質の組織間での偏りは組織での脂質の役割を解明する契機になる可能性をもっている。代謝制御に関わる組織における脂質組成を解明し、新たな代謝調節のメカニズムを検討する目的で、膵島のリン脂質解析を行った。  まず、ラット膵島に含有する各リン脂質に関して、質量分析装置(LC/MS/MS)を用いたリン脂質解析を行うための基礎実験を行った。具体的には、組織からリン脂質含有分画を抽出する(Solid Phase Extraction)ための設定条件の検討およびLC/MS/MSの解析条件設定等である。その結果、比較的少量の組織からリン脂質解析に十分な量の抽出分画を得る条件を見いだした。また、その抽出サンプルを高いS/N比で分離できる解析条件を決定した。その後、病態と代謝調節異常との関連性を検討する目的で、野生型Wisterラットと糖尿病モデル動物を用いた膵島含有リン脂質に関するリン脂質解析を行った。現在、病態と組織含有リン脂質変化との関係および疾患誘発メカニズムとリン脂質との関わりに関して、検討中である。

§3.研究実施体制

(1) 清野グループ
  @ 研究分担グループ長:清野 進 (神戸大学、教授)
  A 研究項目
      ・ 研究の総括
      ・ メタボローム解析
      ・ 膵島細胞機能の解析
      ・ 膵島細胞維持機構の解析
(2)溝口グループ
  @ 研究分担グループ長:溝口 明 (三重大学、教授)
  A 研究項目
      ・ 膵島細胞の形態学的解析
      ・ 膵島細胞機能の形態学的解析
(3)稲垣グループ
  @ 研究分担グループ長:稲垣 暢也 (京都大学、教授)
  A 研究項目
      ・ 膵島の代謝測定
      ・ 膵島の機能解析

§4.成果発表等

1) 原著論文発表

@ 発表総数(国内 0件、国際 0件)

2) 特許出願
    @ 平成19年度特許出願内訳(国内 0件)
    A CREST研究期間累積件数(国内 0件)

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