戦略目標
「水の循環予測及び利用システムの構築」(PDF:15KB)
研究総括
虫明 功臣 (福島大学 理工学群共生システム理工学類 教授)
概要
この研究領域は、グローバルスケールあるいはリージョナルスケールにおいて、大気・陸域・海域における水の循環の諸過程を明らかにし、水循環モデルの構築を目指すとともに、社会における持続可能で効率的な水利用システムに関する研究を対象とするものです。
具体的には、気候変動にともなう水資源分布の変化、人間活動が水循環に及ぼす影響に関する研究に加え、水資源の維持・利用、水循環の変化が社会システムに及ぼす影響の予測、生態系環境を維持・保全・回復する水の機能等に関する研究等が含まれます。
平成15年度採択分
森林荒廃が洪水・河川環境に及ぼす影響の解明とモデル化
研究代表者(所属)
恩田 裕一 (筑波大学大学院 生命環境科学研究科 准教授)
概要
人工林の管理の不備による森林の荒廃が将来の水循環、洪水発生、下流河川環境に与える影響の実態解明と予 測を行うために、気候条件と地質条件が類似した山地に人工針葉樹林と広葉樹林が隣接する国内4ヶ所を試験地として選び、プロットスケール、源流域スケー ル、大流域スケールについて、流出水を測定し、同位体分析等と組み合わせて表面流出の割合を定量化します。さらにリモートセンシング技術を駆使し、それぞ れのスケールでのモデリングを行い、今後の人工林の在り方と維持・管理についての基礎データを提供します。
水循環系の物理的ダウンスケーリング手法の開発
研究代表者(所属)
小池 俊雄 (東京大学大学院 工学系研究科 教授)
概要
全地球の水循環系を記述する「統合地球水循環強化観測期間プロジェクト(CEOP)」の統合データセッ ト、チベット集中観測データ、東京での一次元集中観測データを用いて、(1)大気―陸面結合データ同化スキームの開発、(2)大循環モデルから領域モデル 及び領域モデルから局所モデルへの物理的ダウンスケーリング手法の開発、(3)分布型流出モデルを用いた流出予測システムの開発を行うことにより、地球規 模から地域規模の変動を組み込んだ河川流域の流出予測精度の向上を目指します。
熱帯モンスーンアジアにおける降水変動が熱帯林の水循環・生態系に与える影響
研究代表者(所属)
鈴木 雅一 (東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授)
概要
気候及び気象学的視点から降水の様々な時間スケールでの変動を明らかにし、さらに降水変動が熱帯林の土壌 水分を媒介として陸域水循環や陸上生態系への物質循環に与える影響をタイ、マレーシアにおける熱帯林試験地での観測により把握します。さらに、陸域水循環 や陸上生態系での物質循環を予測可能とする水循環、物質循環モデル構築を目指します。
人口急増地域の持続的な流域水政策シナリオ -モンスーン・アジア地域等における地球規模水循環変動への対応戦略-
研究代表者(所属)
砂田 憲吾 (山梨大学大学院 医学工学総合研究部 教授)
概要
モンスーン・アジア地域では、急激な人口増加と人口の都市集中、農業開発と工業発展に伴う深刻な水問題が すでに顕在化していますが、今世紀半ばにかけてさらに深刻さが増すと予想されています。アジア途上国の水問題解決への日本の貢献を念頭において、湿潤地帯 から乾燥地帯にわたるアジア地域を対象に異なる典型的な水問題を抱える8河川流域を選び、それぞれの流域での水問題の実態を構造的に把握・分析して、問題 解決のための政策シナリオを提言します。また、統合的水資源管理を実現するための人文科学的評価も含むナレッジマイニングシステムを提示します。
各種安定同位体比に基づく流域生態系の健全性/持続可能性指標の構築
研究代表者(所属)
永田 俊 (東京大学 海洋研究所 教授)
概要
自然との共生に配慮した流域管理を行うためには、流域生態系の健全性や持続可能性を指標化し、管理や復元 の目標を明確にすることが重要です。この目標設定のために、水・生物・環境の各種安定同位体比を用いた総合的な流域検査法の確立を目指します。さらに、東 アジア各地の気候や文化的な特性を踏まえてこの検査法を幅広く適用し、共生型流域圏の創出に向けた流域管理計画の立案に貢献します。
平成14年度採択分
北方林地帯における水循環特性と植物生態生理のパラメータ化
研究代表者(所属)
太田 岳史 (名古屋大学大学院 生命農学研究科 教授)
概要
北方林は緯度45°~70°と広範な地域に成立しており、世界の気候変動に大きな影響を与えます。高緯度 森林帯の環境因子に対する応答特性の地域性を、水・エネルギー・炭素循環特性の面から明らかにし、他地域よりも著しいと言われている当該地域の気温上昇 が、水循環変動、ひいては日本・世界の気候変動に与える影響を予測するための基礎データを得ます。
衛星による高精度高分解能全球降水マップの作成
研究代表者(所属)
岡本 謙一 (大阪府立大学大学院 工学研究科 教授)
概要
熱帯降雨観測衛星(TRMM)搭載の降雨レーダ、マイクロ波放射計等の観測データにより降水強度の観測精 度は向上してきましたが、水循環モデリングに必要な全球での降水量分布とその変動データは十分な精度ではありません。本研究では、新しい降水物理モデルに 基づいたマイクロ波放射計を中心とした降水強度推定アルゴリズムを開発し、複数の衛星データを用い全球の高精度、高分解能降水マップを作成、全球降水分布 の変動を解明し、長期水資源管理の基礎資料を得ます。
都市生態圏-大気圏-水圏における水・エネルギー交換過程の解明
研究代表者(所属)
神田 学 (東京工業大学大学院 理工学研究科 准教授)
概要
本研究は都市域の水循環系とエネルギー循環系とを1つのフローとして捉えるところに特長があります。首都 圏における観測と準実スケールの模型都市実験により、大都市圏の大気圏・陸域・沿岸域における水・エネルギーの交換過程を明らかにし「都市生態圏強制力モ デル」を構築します。このモデルにより水循環とエネルギー循環を一体とした解析ならびに予測の精度を大きく向上させることが期待されます。
国際河川メコン川の水利用・管理システム
研究代表者(所属)
丹治 肇 ((独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 チーム長)
概要
メコン川において、流域の水循環の特徴に配慮した持続可能な水利用のルール、社会制度とこれに関わる政策 を検討します。まず、従来の政策研究に不足していた水循環と農林水産業の関係を自然科学的な手法で実態分析し、モデル化します。次に流域と沿岸4ヶ国の社 会科学的なモデルを構築し、持続可能な水利用システムの探索と政策提言を行います。研究結果は、メコン川流域の持続可能な水問題の解決に貢献します。この 知見は、需要の抑制、水資源の再配分、平等性等の解決に対して有益な情報源としてメコン川だけでなく、21世紀の世界の水資源問題に寄与します。
持続可能なサニテーションシステムの開発と水循環系への導入
研究代表者(所属)
船水 尚行 (北海道大学大学院 工学研究科 教授)
概要
2035年には約55億人が衛生状態の悪い状態での生活を余儀なくされると推定されています。水資源不 足、飲料水の量的・質的不足、水環境の悪化はサニテーション問題と密接な関係にあります。非水洗トイレによるし尿の水循環からの分離とコンポスト化による 物質循環ルートの確立を狙いとし、分離と分散をキーワードとした持続可能なサニテーションシステムを提案します。これにより、アジアの開発途上国の社会基 盤施設整備計画立案に貢献し、実質味のある国際援助への道を日本発の技術により開くことが可能となります。
リスク管理型都市水循環系の構造と機能の定量化
研究代表者(所属)
古米 弘明 (東京大学大学院 工学系研究科 教授)
概要
今後の水資源不足の深刻化を想定すると、都市自己水源である雨水や涵養地下水や再生水の利用をさらに推進 することが望まれていますが、それには多種多様なリスクを考慮する必要があります。そのため、望ましい都市水循環系の構築には水質リスクを理解して、それ を管理・制御することが求められます。本研究では、流域外からの水を含めた都市域での水収支、リスク発現物質の動態把握、水質リスク評価を行い、都市域水 循環系の本来あるべき構造や有すべき機能を定量的に評価します。
平成13年度採択分
人間活動を考慮した世界水循環・水資源モデル
研究代表者(所属)
沖 大幹 (東京大学 生産技術研究所 教授)
概要
国際社会の枠組みの中で非常に重要になっている世界的な水危機に関わる情報はほぼ全て欧米からの発信で あったため、水田に代表されるアジア独特の水循環や人間活動の影響を考慮した日本独自の世界水資源モデルを世界に先駆けて開発し、水資源のアセスメントを 行いました。大規模データベースと結合された水資源モデルには、ダム貯水池操作を考慮した灌漑農業をはじめ、生活・都市用水需要の変動、環境用水の概念な どが導入され、それを用いて推算された世界の水危機の現状とその将来展望について米科学誌サイエンス等を通じて発表しました。
階層的モデリングによる広域水循環予測
研究代表者(所属)
木本 昌秀 (東京大学 気候システム研究センター 教授)
概要
水循環予測に対する社会的な期待にこたえるため、本研究では、大気-海洋-陸面過程を総合して表現する気 候の数値モデルを高解像・高精度化し、東アジア域を中心とした広域水循環変動の長期予測可能性を探求してきました。大気大循環モデル、大気海洋結合モデル ともに、これまで困難であった梅雨前線の再現を可能にすることができました。これらのモデルや新たに開発した湿潤線型モデル等を用いて、日本付近の夏季、 および冬季の天候の年々変動について予測可能性があることを示すことができました。
黄河流域の水利用・管理の高持続性化
研究代表者(所属)
楠田 哲也 (九州大学大学院 工学研究院 特任教授)
概要
黄河流域における水循環と水供給、農業生産と土地利用、土壌浸食と土砂供給、物質輸送と浄化を観測・把握 するとともにモデル化し予測評価手法を開発しました。さらに、移出入物質が持つ内包水を考慮の上、国家黄河流域開発計画に基づく水環境変化を予測し、持続 性の高い流域水循環システムの新デザインの決定方法と案を提示しました。これにより、今後、流域圏の安定的な発展が期待されます。
北東アジア植生変遷域の水循環と生物・大気圏の相互作用の解明
研究代表者(所属)
杉田 倫明 (筑波大学 大学院生命環境科学研究科 教授)
概要
乾燥・半乾燥域は、植物生産性が低く気候変動や人間活動などの影響を受けやすい地域です。本研究では、北 東アジアを対象とし水循環プロセスの視点から、これらの影響を解明しました。本地域ではこれまでにすでに気候変化が報告され、また過放牧による砂漠化の危 険性が指摘されてきました。そこでまず現状を観測により把握し、プロセスのモデル化を行い、さらにこれのモデルを利用した将来予測を行い、望ましい土地・ 水利用システムの可能性を提示しました。
社会変動と水循環の相互作用評価モデルの構築
研究代表者(所属)
寶馨 (京都大学 防災研究所 教授)
概要
成長期から安定・成熟期に入るわが国と、人口増大・経済成長・産業転換・都市化の著しいアジア諸国の社会 変動が、河川流域の水循環、国際的な水循環・水収支に及ぼす影響を予測できるようなモデルを構築した。気象・水文ダイナミクス(自然科学的水循環)と社会 のダイナミズムとの相互作用、アジアの淡水資源の利用可能性・リスクを定量的に評価し、わが国の水資源(食糧・産業)政策・国際貢献戦略の将来像を明らか にする研究を行った。
湿潤・乾燥大気境界層の降水システムに与える影響の解明と降水予測精度の向上
研究代表者(所属)
中村 健治 (名古屋大学 地球水循環研究センター 教授)
概要
水循環の基本的要素である降水については、近年特に大気境界層の役割が重要視されています。大気境界層は 海洋・陸面や乾燥域・湿潤域で異なり、さらに陸面でも地形、土壌水分また植生により変化しています。本研究では、アジアの湿潤域と乾燥域の境となる領域に おいて大気境界層が降水システムに与える影響とそれが中緯度アジアの水循環へ与える影響を研究しました。この結果、地面状態が大気境界層の構造に大きな影 響を与えていることがわかりました。これは降水予測精度の向上にも資するものです。