支援課題一覧(ICORP)

1989年度採択

新素材の原子配列設計制御プロジェクト
共同研究相手国:イギリス
研究代表者:
山崎 道夫(帝京科学大学 理工学部物質工学研究科 教授)
Colin Humphreys (ケンブリッジ大学 教授)
Bruce Joyce (ロンドン大学インペリアルカレッジ 教授)
研究期間:1990.3~1995.3
課題概要:

物質の性質に原子配置等の内部構造が深く関与していることに着目し、原子分子レベルの物質に関する基礎理論をもとに、計算材料の科学的視点からコンピューターシュミレーションを行い、物質の構造や特性を理論的に予測するとともに、原子分子レベルの実験実証をあわせ行って、新素材、新物質創出への道筋を明らかにすることを狙いとして研究を進めました。

鉄鋼、超合金、金属間化合物等の全属材料およびGa、As、Si系等の半導体材料を用い、結晶粒界、相平衡、相界面、結晶表面、積層欠陥等を任意に設計し、制御する研究により、Ni基超合金中の原子配置予測法の確立、超強力鉄ファイバーの強化メカニズムの解明、応力と温度が同時に変化する複雑環境下での鋼の相変態シミュレーション法の確立、Ga、As、Si、Geについて分子線エピタクシー(MBE)結晶成長機構の解明、RHEED(反射電子回折)強度の解析に成功するなどの成果が得られました。

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1990年度採択

微生物進化プロジェクト
共同研究相手国:アメリカ
研究代表者:
掘越 弘毅(東洋大学 工学部 教授)
故 矢野 圭司(東京大学 農学部 教授)
James Tiedje(ミシガン州立大学 教授・微生物生態学センター長)
研究期間:1991.3~1996.3
課題概要:

人工化合物は以前の環境中には全く存在しなかったものであり、それを分解する微生物は、この数十年間に急速に分解能力を進化させてきたと想像されます。このような化合物を分解する微生物を探求し、細菌の進化のメカニズムを解明することを目指しアメリカとの国際共同研究を進めました。

その結果、多様な新しいPCB分解菌を取得し、分解酵素と遺伝子を調べることにより、多重遺伝子ファミリーという、新しいタイプの分解遺伝子の存在形態と構 造を初めて明らかにしました。また、強力なPCB分解菌の分解メカニズムや遺伝子、さらには分解酵素の3次元構造を解明するとともに、2、4-D分解菌の 世界的な規模での分布(多様性ならびに汚染環境での適応の様子)を調査し、このような特定の分解菌が汚染によって独立に生じてくることを示唆することがで きました。2、4-D分解菌の新たな酵素反応メカニズムや分解酵素遺伝子種の存在が明らかになりました。

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1991年度採択

超分子プロジェクト
共同研究相手国:フランス
研究代表者:
国武 豊喜(九州大学 工学部 教授)
John Osborn(ルイ・パストゥール大学 教授)
研究期間:1992.3~1997.3
課題概要:

生命の起源において、分子の自己組織化能がどのようにして獲得されたかの解明を目指し、原始生体膜の研究を行いました。また、人工的な系では超分子構造の特性を生かして、触媒反応に有利な分子システムの構築をフランスとの国際共同研究により目指しました。

テルペノイドと膜補強分子の系統的な合成を行い、自己組織性を解明するとともに生体膜構成成分のトポグラフィ解析の手法を発展させました。疎水化多糖によるプロトプラスト安定化、膜融合組織物質の開発、膜タンパクの輸送促進などの成果も得られました。また、コード化された自己組織化分子集合体、自己組織化におけるキラル選択、分子ネットワークの作成や2次元分子パターンの作成、界面における水素結合型の分子認識などについて先駆的な成果が得られました。生体膜機能の分子論的解明により、バイオテクノロジーや医療への応用が期待され、交互積層法による多様な超薄膜の合成は、今後の材料開発へのインパクトが大きいことが予想されます。

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1992年度採択

サブフェムトモルバイオ認識プロジェクト
共同研究相手国:スウェーデン
研究代表者:
渡辺 恭良(大阪バイオサイエンス研究所 研究部長)
Bengt Langstrom(ウプサラ大学 教授・PETセンター所長)
研究期間:1993.1~1997.12
課題概要:

ポジトロン標識化合物を用いて、サブフェムトモル(10-5モル)領域の極微量物質の定量をポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)によって動態的に行い、分子レベルでの生物情報伝達機構の解明を目指して、スウェーデンとの国際共同研究により進めました。

ポジトロン核種(11C、13N、76Br など)を用いて、有用分子に標識する方法論を開発することで、50種類以上の標識化合物を新たに作成し、生きている脳の切片を用いた「インビトロPET法」という新しい評価法を開発することができました。色、時間感覚、におい、睡眠、発熱などに関する脳内の情報処理担当部位を明らかにするとともに、小児 自閉症における治療前後のドーパミンD2受容体レベルの変動を見出すことができました。また、慢性疲労症候群において、細胞内のエネルギー生産に関わる物質であるアセナルカルニテンの取り込みが、脳の前頭前野で低下していることを明らかにしました。

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1993年度採択

量子遷移プロジェクト
共同研究相手国:アメリカ
研究代表者:
榊 裕之(東京大学 生産技術研究所 教授)
James Merz(ノートルダム大学 教授)
副代表研究者:
James Allen(カリフォルニア大学 教授)
研究期間:1994.1~1998.12
課題概要:

電子を10nm程の半導体超薄膜に閉じ込めると、電子の量子的波動性が顕わになり、膜に垂直な方向に特定の振動数を持つ定在波状態(準位)が形成されることが知られています。本プロジェクトでは、電子を極微な細線や箱に閉じ込め、よりよく制御する技術を探索し、新しい機能や物性の研究をアメリカとの国際共同 研究により行いました。

量子細線や箱構造の形成法を発展させ、電子状態の制御性を格段に高めることを目指し、自己形成量子箱やエッジ形細線やステップ細線の形成法に関して大きな進展が達成され、低次元電子の特色を明かにしました。また、各種の量子ナノ構造における量子準位間の電子遷移過程を制御することで新物性や機能の発現を目指し、準位間隔に共鳴するテラヘルツ光への応答をUCSBの自由電子レーザーの活用により調べ、低次元励起子によるテラヘルツ光と近赤外光の混合や動的 Franz-Keldysh効果を発見しました。さらに、準位間遷移による遠赤外・近赤外間の波長変換も達成しました。

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1994年度採択

セラミックス超塑性プロジェクト
共同研究相手国:ドイツ
研究代表者:
若井 史博(東京工業大学 教授)
Fritz Aldinger(マックス・プランク金属研究所 教授)
研究期間:1995.1~1999.12
課題概要:

原子レベルのプロセッシングから合成される新しいタイプの共有結合性材料を開発し、それらが示す新規な高温力学物性(ナノ結晶材料では超塑性、アモルファス材料では粘性流動)や、その優れた耐熱性を探求することを目的として、ドイツとの国際共同研究を行いました。最も硬く変形の困難な共有結合性セラミックスにターゲットを絞り、炭化ケイ素の超塑性化に初めて成功するとともに、粒界液相による超塑性変形の高速化・低温化を達成しました。

また、走査型透過電子顕微鏡(STEM)と電子線エネルギー損失分光(EELS)を利用した粒界局所構造と化学結合の定量的解析技術を開発し、超塑性における3次元粒子スイッチング機構モデルを創出しました。さらに、高分子から変換して共有結合性アモルファスを合成するプロセスを系統的に研究し、高温変形を利用したアモルファスの級密化と、その粘性流動挙動に関する新しい分野を切り開きました。これらの研究は、結晶粒がどんどん小さくなったとき、多結晶体はどのような振る舞いをするのだろうか?それは究極的にはアモルファス固体の性質に近づくのだろうか?という問いかけにひとつの答えを与え、次代の材料開発への新たな視点を与えることが期待されます。

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1995年度採択

神経遺伝子プロジェクト
共同研究相手国:カナダ
研究代表者:
池田 穰衛(東海大学 総合医学研究所 次長・分子神経科学部門 教授)
Robert Korneluk(オタワ大学 健康医学部 教授)
研究期間:1996.1~2000.12
課題概要:

単離・同定した脊髄性筋萎縮症とハンチントン病を代表とする、トリヌクレオチドリピート病原因タンパク質の分子動態と機能解析を基に、中枢(脳)・運動神経系の老化および疾患に見られる選択的な神経細胞死(神経変性)の分子機構を明らかにすることを目指し、カナダとの共同研究を行いました。当該責任物質の生化学的および生体内での機能を知ることによって、神経細胞の恒常性ならびに変性の本態解明を探求しました。

神経変性の分子病態と機構の解明は、脳および運動神経細胞を病的変性から保護し、機能の恒常性を保全する方法の開発につながるものであり、筋萎縮性側索硬化症(ALS)2型の原因遺伝子、ALS2CR6の単離・同定に成功しました。ALS2CR6は、ALSの分子病態解明と治療技術開発への貢献はもとより、脊髄性筋萎縮症原因遺伝子、NAIPに次いで神経の生存・恒常性の分子機構を解明する新たな手掛かりになり、神経変性の分子病態解明に新たな側面を開くことができました。

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心表象プロジェクト
共同研究相手国:アメリカ
研究代表者:
宮下 保司(東京大学 大学院医学系研究科 教授)
Wayne O’Neil(マサチューセッツ工科大学 言語学・哲学部門 教授)
研究期間:1996.1~2000.12
課題概要:

ヒト精神機能の基礎であり高次認知機能の中核をなす視覚イメージ生成や、言語などの知的能力を支える基礎的な心的機構として、脳内表象のニューロン表現とそれを操る機構の解明を目指し、アメリカとの国際共同研究を1996年から行いました。

表象操作能力の大脳メカニズム研究についての実証的研究により、大脳認知システムがイメージ表象の操作に基づくシステム(Depictive System)と言語表象の操作に基づくシステム(Propositional System)から成立しており、各々のシステムの中心となる大脳連合野が存在することを明らかにしました。前者の中心は側頭葉連合野のTE野・36野であり、後者の中心は前頭葉連合野のBroca野であることを示すとともに、さらにこれらが相互作用する機序として、前頭葉連合野から側頭葉連合野へ至る制御信号(トップダウン信号)が存在することを世界に先駆けて発見しました。

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1996年度採択

多価冷イオンプロジェクト
共同研究相手国:イギリス
研究代表者:
大谷 俊介(電気通信大学 電気通信学部 教授)
Joshua Silver(オックスフォード大学 ニューカレッジ 副学長)
研究期間:1997.1~2001.12
課題概要:

多価イオンは、近年になって、にわかに注目を集めるようになった新しい粒子であり、電子をまったく持たない裸になった重イオンや電荷数の極めて高い多価イオンは、中性原子や低価数のイオンにはない著しい特徴を持っています。本研究では、高エネルギー・高密度の電子ビームを用いて多価イオンを生成するとともに それを長時間保持する装置(EBIT)を製作し、(1)多価イオンの精密分光、(2)電子と多価イオンの衝突過程の研究、(3)多価イオンと固体表面の相互作用の微視的理解を行うことを目的とし、イギリスとの共同研究を行いました。

強制的蒸発冷却法と呼ばれる新しい手法を用いて、イオンの価数当たり10eV程度にまで冷やすことが可能になり、これは世界最高レベルであり、他所では不可能な研究を可能にしました。また、多価イオンを固体表面に当てた場合の微視的構造変化に関する研究は、今後表面加工などに応用される際の基礎的知見となることが期待されます。

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分子転写プロジェクト
共同研究相手国:オランダ
研究代表者:
新海 征治(九州大学 大学院工学研究院 教授)
David Reinhoudt(トウエンテ大学 化学技術部 教授)
研究期間:1997.1~2001.12
課題概要:

原子・分子の認識は、分子集合体から生命が誕生する段階で生命体が獲得した機能であり、この認識能力のお陰で、生命体は、自己保存、自己複製など生命を維持する上で不可欠な現象を滞りなく遂行できます。本研究プロジェクトは、これら認識に関する「自然界の知恵」を科学現象として把握することにより、そこで得られた「人間の知恵」を最大限に集積して原子・分子の認識系を人工的に再構築することを目指し、オランダとの国際共同研究を進めました。

生理活性金属、アミノ酸、核酸塩基、糖、ステロイドなどの鋳型となるゲスト群をターゲットとして、適宜分子転写法を適用し、その方法論の一般的指標を確立しました。フラーレンを利用した糖分子の記憶素子の創製に世界で初めて成功するとともに、ゾル・ゲル法による分子記憶の固定化や、カーボンナノチューブを用いた超構造の創生、メゾスコピック2次元集合体の創生など多くの優れた成果が得られました。

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1997年度採択

ナノチューブ状物質プロジェクト
共同研究相手国:フランス
研究代表者:
飯島 澄男(名城大学 理工学部教授/NEC 基礎研究所 主席研究員)
Christian Colliex(CNRS エミー・コットン研究所 所長)
研究期間:1998.1~2002.12
課題概要:

本プロジェクトでは、アーク放電法やレーザー蒸発法を駆使し、ナノチューブ状物質の生成機構と生成方法の解明、生成物質の物理的また化学的修飾法の探索、生成物や他の物質との複合物質を原子レベルで評価する新技術の展開を目指しました。フランス側にはカーボンナノチューブの物性評価を行うという体制を築き、研究員の相互派遣を行いながら共同研究を推進しました。

カーボンナノチューブの魅力は基礎科学から平面表示装置、トランジスタ、燃料電池など次世代産業応用まで広範囲に渡っており、それらの研究が世界的規模で盛んに行われていることから、本プロジェクトで得られた研究成果は、ナノチューブ状材料研究のさらなる発展の礎になることが期待されます。

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一分子過程プロジェクト
共同研究相手国:イタリア
研究代表者:
柳田 敏雄(大阪大学 大学院医学系研究科 教授)
Luigi Ricciardi(ナポリ大学 応用数学科 教授)
研究期間:1998.1~2002.12
課題概要:

生命機能を担う蛋白質は自ら集合し、お互いにダイナミックに相互作用して、生体システムを構成し、エネルギー変換、情報変換、複製など生命活動に重要な働き をしています。この高い機能性を生物分子システムがどのようにして実現しているのか、その仕組みの解明のために、単一生体分子をイメージングし、ナノメーターの精度で捕らえ操作する技術を開発・展開するとともに、実験データを基にした理論を展開して、生体システムの巧妙な動作アルゴリズムの解明を目指しました。

生物分子機械では人工機械では実現できないような高い自律性、柔軟性を示し、非常に効率よく働くことや、生体分子のユニークな挙動が明らかになりました。確実なデータを蓄積し、より高度な生体システムの仕組みの解明に向けて、さらに大きな発展への礎を築くことができました。

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クレイドE型エイズワクチン研究プロジェクト
共同研究相手国:タイ
研究代表者:
本多 三男(国立感染症研究所 エイズ研究センター 第一研究グループ長)
Paijit Warachit(タイ国保健省医科学局 局長)
研究期間:1998.3~2003.3
課題概要:

エイズ(AIDS)はヒト免疫不全ウィルス(HIV)感染を原因とするウィルス感染症で、HIVには、大別してウィルスの遺伝子構造の違いによりA型からK型まであります。本プロジェクトでは、HIV抗原分泌型のリコンビナントBCGワクチンを用いることによりHIV特異的に細胞性免疫や液性免疫が誘導されることに着目し、BCGをベクターとしたクレイドE型ウィルスワクチンの開発の可能性をタイ国との共同研究により探りました。

ワクチン投与の適正化やワクチンの安全性・安定性について、サルを用いた動物実験を中心に行いました。本プロジェクトで得られた研究成果は、WHO(世界保健機関)やCDC(米疾病対策センター)等の専門家から評価を受け、今後のワクチン開発に向けた次のステップ(人に接種する臨床試験)が検討されました。

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1998年度採択

量子もつれプロジェクト
共同研究相手国:フランス
研究代表者:
山本 喜久(スタンフォード大学 教授/国立情報学研究所 教授)
Serge Haroche(エコール・ノルマル・シュペリオール 教授/カレッジ・ド・フランス 教授)
研究期間:1999.1~2003.12
課題概要:

近年、量子力学を元に単一の原子や電子、光子を操作したり、複数の粒子の間の量子相関を利用して古典的なコンピュータと通信の限界を克服しようとする研究が盛んになってきました。本プロジェクトではフランスとの共同研究により、量子光学、核磁気共鳴など様々な実験手法を用いて量子相関(もつれ)の本質を解明するとともに、量子情報システムの中核技術の確立を目指してきました。

微小柱・微小共振器に組込んだ単一量子ドットを光で共鳴励起させることで、効率よく単一光子を発生させる方法を提案し、量子暗号実験を行って長距離でも伝送速度が落ちないことを確認しました。また、固体結晶中の原子核スピンを量子ドットとする全シリコン量子コンピュータを提案し、量子ビットの初期化、原子核スピンへの読み書きを考案して実験的に確認しました。さらに量子レジスタ内での情報保持時間の世界最長を達成するなど、今後の量子情報通信への適用が期待される様々な成果が得られました。

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バイオリサイクルプロジェクト
共同研究相手国:タイ
研究代表者:
工藤 俊章(理化学研究所 環境分子生物学研究室 主任研究員)
Napavarn Noparatnaraporn(カセサート大学 副学長)
研究期間:1999.3~2004.3
課題概要:

シロアリ-微生物共生系が熱帯地域の物質循環(バイオリサイクル)に重要な役割を果たしていることに着目し、これを解明するため、本研究プロジェクトは、タイのカセサート大学との共同研究として実施しました。日本側の研究拠点である理化学研究所におけるシロアリ-微生物共生系の主として分子生物学的手法による解析と、カセサート大学内に設置された実験室を拠点とする熱帯フィールド研究を組み合わせることにより、シロアリを対象とする新しい総合科学的な取り組みを進めました。

本研究は、1)熱帯生態系におけるシロアリ生態系の生態学的解析、2)シロアリ-微生物共生系の構造と共生機構の分子レベルでの解析、および3)バイオマス利用のためのシロアリ共生微生物の探索、の3つの視点から多角的に行い、微生物学、昆虫学、生態学等の幅広い領域にまたがる多くの新しい成果を上げました。今後、これらの成果がさらに発展して、地球上の様々な地域におけるバイオリサイクルシステムが明らかになり、また未利用バイオマス資源を効率的に利用する技術の開発にもつながることが期待されます。

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1999年度採択

細胞力覚プロジェクト
共同研究相手国:アメリカ
研究代表者:
曽我部 正博(名古屋大学 大学院医学研究科 教授)
Frederick Sachs(ニューヨーク州立大学 医学部 教授)
研究期間:2000.1~2004.12
課題概要:

聴覚器や皮膚の感覚器をはじめ、あらゆる細胞は機械刺激を感知する能力(細胞力覚)を持っています。細胞力覚は、外来の機械刺激だけでなく、細胞の成長、分裂、形態変化、運動に伴って生じる内的な力に対しても働き、これらの細胞応答、ひいては生命活動自体を根本から支えています。しかし細胞力覚の主役である機械センサーについてはよく分かっていません。

本研究では、心筋の機械センサーである機械受容チャネル遺伝子の同定に成功しました。また、蜘蛛毒ペプチド(GsMTx-4) が、機械受容チャネルの特異的な阻害剤(ブロッカー)になることを突き止めました。さらに、高等生物の細胞力覚は機械受容チャネル単独ではなく、機械受容チャネルと細胞骨格からなる超分子複合体により実現されることを発見しました。

本研究はニューヨーク州立大学と共同で行われました。日本側が分子細胞生物学的手法から、アメリカ側が生物物理・生化学的手法から、細胞力覚の機構解明を行いました。この成果は、基礎生物学をはじめ、臨床医学・宇宙医学や農学等へ大きなインパクトを与えると期待されます。また、ブロッカーの発見は、心房細動を抑制する新規治療薬開発等、臨床応用への道を拓きました。

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フォトンクラフトプロジェクト
共同研究相手国:中国
研究代表者:
平尾 一之(京都大学 大学院工学研究科 教授)
Ruxin Li(李 儒新)(中国科学院 上海光学精密機械研究所 副所長)
研究期間:2000.2~2005.2
課題概要:

光コンピュータ、超高密度光メモリー等、光通信工学の構築には空間選択的かつ超微細領域に光学材料の作製技術が必須です。「フォトンクラフト」とはフェムト(10-15)秒レーザーと称される強力なレーザーの集光性、コヒーレンス性を活用し、ガラス内部に新しい光学素子の創製を実現しようとする技術です。レーザーを用いて ガラス内部に光導波路を描き込むことで、微細な3次元光回路の作製を可能としました。Ag、Auイオン含有シリケート系ガラスに空間選択的に金属の析出、消去が制御可能であることも確認しました。これは超高密度メモリーの開発につながるものです。

本研究は中国科学院と共同で行われました。日本側がレーザー物理化学と量子光学の研究を行い、ナノ(10-9)メートルレベルの人工光学結晶製作技術、超高速スキャニング技術を開発し、中国側が結晶化学、量子化学の研究を行い、希土類含有光学材料などの材料開発を行ってきました。本研究の成果は、これまでにない光学素子の創出、さらには光コンピュータへの発展が期待されます。

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2000年度採択

カルシウム振動プロジェクト
共同研究相手国:スウェーデン
研究代表者:
御子柴 克彦(東京大学 医科学研究所 教授/理化学研究所 脳科学総合研究センター グループディレクター
Anita Aperia(カロリンスカ研究所 教授)
研究期間:2001.1~2005.12
課題概要:

カルシウムは骨の成分ですが、イオン化したカルシウムイオン(Ca2+)は様々な生理的働きをします。細胞が刺激を受けると細胞内のCa2+濃度が周期的にゆっくりと変動する現象をCa2+振動といい、この振動は様々な生命現象と関わりをもっています。

本研究では、小胞体に存在して細胞内カルシウム(Ca2+)の動因に重要な役割を果たすIP3受容体と いうカルシウムチャネルに焦点をあて、Ca2+振動の発振メカニズムとその機能の解明を目指しました。 IP3受容体のタンパク質構造の決定や構造変換機構の解析、その機能調節に関与する新しいタンパク質分子 IRBIT、CARP, Erp44の発見、さらに、IP3受容体の背腹軸形成における役割や外分泌機構における役割などについて新知見を得ることに成功しました。

本研究はカロリンスカ研究所と共同で行われました。日本側は基礎研究の立場から正常時に、スウェーデン側は臨床医学の立場から異常時に焦点をあて、相互補完的にカルシウム振動の機構解明を行いました。この成果は、遺伝子の転写や免疫、内分泌、外分泌、神経伝達(情報伝達)などの基本的メカニズムの解明や病態時の治療薬の開発に多大な貢献をすると期待されます。

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2001年度採択

エントロピー制御プロジェクト
共同研究相手国:韓国
研究代表者:
井上 佳久(大阪大学 大学院工学研究科 教授)
Kimoon Kim(金 基文)(浦項科学技術大学 教授/CSSセンター長)
研究期間:2002.3~2007.3
課題概要:

化学反応は熱の出入りを表わしているエンタルピーと、系の乱雑さ・無秩序さの度合いを表しているエントロピーの相互関係で成り立っており、従来の私たちの身近にある化学反応は主にエンタルピーによって支配されていることから、エンタルピーを制御する事が中心でした。しかし、本プロジェクトは、今まで着目されなかったエントロピーを積極的に化学反応に利用することを目指しました。

生体系を含む弱い相互作用が関与する反応系では、エンタルピーよりもエントロピーが大きな役割を演じていることがわかり、エントロピーが化学平衡や反応を支配することを光や温度、圧力、溶媒でも発見してきました。それにより、エントロピー制御でキラル分子(分子式は同じだが右手と左手のように鏡像関係の構造を持つ分子)の右手型、左手型の作り分けができる事を示しました。特に、キューカビチュリルを使った系では100%エントロピーのみで制御できるという大きな発見をしました。

本研究は、韓国の浦項科学技術大学と共同で進められ、日本が得意とする光化学と韓国が得意とする超分子化学の融合により、キラルアルコール類やキラル有機酸の絶対配置決定試薬として、高感度キラリティーセンサーの開発をしました。将来は、エントロピー因子の寄与が大きい水を溶媒とした環境調和型反応システムの構築などへの発展が期待されます。

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2002年度採択

超分子ナノマシンプロジェクト
共同研究相手国:アメリカ
研究総括:
難波 啓一(大阪大学 大学院生命機能研究科 教授)
May Macnab(エール大学 リサーチファカルティ)
故 Robert Macnab(エール大学 分子生物物理・生物化学部 教授)
研究期間:2002.12~2008.3
課題概要:

人間から単細胞生物に至るまで、生命活動の基本的機能である生体の動きを駆動するのは、蛋白質や核酸などの生体高分子が集合してつくる複雑な立体構造で、これを超分子ナノマシンと呼びます。超分子ナノマシンのひとつに、高速に回転しながら細菌の動きを自在に制御する「細菌べん毛」があります。それは、柔軟に自己構築する仕組みを持ち、人工機械では得られていない超高効率なモータです。

本研究では、べん毛の分子構造、動作原理の解明、べん毛形成機構の解明を通して、ナノ構造自己構築技術や超高効率微小エネルギー変換機構の解明を目指しました。ナノスケールのべん毛を精密に調べるためにX線構造解析、極低温電子顕微鏡測定技術、光学顕微ナノ計測法の基盤計測手法を開発しながら、べん毛の仕組みの解明に取り組みました。べん毛本体のらせん状スクリューの構造、スクリューとモータの回転軸をつなげるジョイントや自己構築する蛋白質の輸送システムの構造等を明らかにし、また、べん毛が構築される過程の蛋白質輸送の仕組み、ATPエネルギーとプロトン駆動力の役割を解明しました。

本研究は、米国のエール大学と補完的な協力関係の下で行われました。日本側は、べん毛の構造や機能・動態の解明を行い、米国側はべん毛を構成する蛋白質を遺伝子操作によって大量発現させ、構造解析に供する試料を作り出しました。生物の高効率エネルギー変換機構の仕組みは、将来の人工ナノマシンの設計・構築に向けたバイオテクノロジーの基盤作りに貢献すると期待されます。

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ナノ量子導体アレープロジェクト
共同研究相手国:イギリス
研究総括:
青野 正和(物質・材料研究機構 WPIセンター 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 拠点長
Mark Welland(ケンブリッジ大学 工学部 教授/IRC in Nanotechnology ディレクター)
研究期間:2003.3~2008.3
課題概要:

ナノメートル程度の寸法の導電性を持つワイヤーを配列した微細な構造体(ナノ量子導体)では量子効果が現れ、その特性を活かして、人工的に配列したものを「ナノ量子導体アレー」と呼んでいます。現状をはるかに凌駕するコンピュータの核となる可能性を持っています。

本研究では、ナノ量子導体を互いに適切な相互関係を持たせて配列することにより、メモリ機能や演算能力を持たせることを目指しました。数ナノメートルという極微小な距離であるナノ量子導体を計測・制御するため、走査トンネル顕微鏡の多探針を新たに開発しました。これを使い、フラーレンC60の可逆的な重合・脱重合制御に成功し、現状の記録密度の数百倍となる高密度メモリへの足がかりを得ました。また、カーボンナノチューブの量子伝導特性の測定にも成功し、ナノスケール領域で多探針を操作できる走査トンネル顕微鏡としても有効であることを確認しました。シリコン材料を用いた原子スイッチ集積化技術を開発し、約1GHzでの動作を確認し、高速ロジックデバイスへの応用に目処をつけました。さらに、金属や有機分子などいろいろな材料によるナノワイヤー作製技術の開発をし、有機分子(ポリジアセチレン)ナノワイヤーへの電荷注入により、金属-絶縁体転移を観測し、新しいデバイス材料の可能性を掴みました。

本研究は、英国のケンブリッジ大学と共同で行われました。日本側は、多探針顕微鏡のナノ計測技術、英国側は電子ビーム法などのナノ加工技術といった、それぞれの強みを持ちより補完的に研究が行われました。この成果は、新規なコンピュータ・アーキテクチャの実現など、今後、新しいナノエレクトロニクス世界を拓くことが期待されます。

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2003年度採択

計算脳プロジェクト
共同研究相手国:アメリカ
研究総括:
川人 光男((株)国際電気通信基礎技術研究所 脳情報研究所 所長)
Christopher Atkeson(カーネギーメロン大学 ロボティクス研究所 教授)
研究期間:2004.1~2009.3
課題概要:

ヒトの脳がどのように行動を生成するかについての理解が神経科学や心理学研究により急速に深まっています。本研究では、「脳を創ることで脳を知る」ことを主題としてきました。脳の計算理論のモデルを構築し、それをもとにしてヒトの行動をヒューマノイド(人型)ロボットで再現することで、ヒトの行動・認知のメカニズムの理解を目指そうとするものです。

身長155cm、体重85kg、51自由度の柔らかな関節を持つ等身大のヒューマノイドロボットCBi(Computational Brain-interface)を開発し、脳の計算理論モデルの再現を行いました。飛んでくるボールを目で捉え、しなやかに全身のバランスをとりながらバットでボールを打ち返すという、ヒトが持つ認知と運動能力を再現することに成功しました。また、米国デューク大学からリアルタイムに伝送されるサルが歩行するときの脳活動の情報を使って、CBiを歩行させることに成功しました。

本研究は、米国カーネギーメロン大学と共同で研究を行いました。日本側が認知、神経科学、心理学の観点からヒトの行動に関する理解を深め、ヒトの行動を学習する計算理論の構築、アルゴリズム開発により、ヒトのような柔軟な行動を再現させる研究を進め、米国側が、計算理論のヒューマノイドロボットへの適用、工学的研究を行い、ロボットのハードウェア開発や計算理論の検証を行いました。この成果は、脳機能の解明だけにとどまらず、脳情報を用いた歩行機能の再建、生活支援など、今後の社会的展開も期待されます。

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器官再生プロジェクト
共同研究相手国:アメリカ
研究総括:
浅島 誠(東京大学 副学長・特任教授)
Douglas Melton(ハーバード大学 幹細胞再生生物学教室 教授)
研究期間:2004.3~2009.3
課題概要:

再生医療とは、体の組織や臓器を人為的に再生し、これまでに治療の難しかった様々な病気や怪我を完治させることを目指す新たな医療の方法です。胚性幹細胞(ES細胞)は、体を構成する全ての細胞へと分化出来るため、人体を再生する技術の実現へ期待が高まっています。再生医療実現のためには、これらの幹細胞から治療に必要な細胞を分化させる技術の開発と、その分化メカニズムの解析が欠かせません。

本研究はアメリカのハーバード大学と共同で進められ、互いのノウハウを活用する形で、日本側はマウス等の幹細胞からの分化誘導、アメリカ側はヒトES細胞からの分化誘導を中心として、様々な研究を行いました。特に日本側は、他種動物由来の物質を含まない完全無血清培地を用いたES細胞の培養法を確立しました。また、マウスES細胞から心筋細胞や気管の細胞の誘導法を開発しただけでなく、実際の膵臓と同等の構造を持つ膵臓組織を誘導する事にも成功しました。また、アメリカ側はヒトES細胞の持つ多様性を初めて直接証明する事にも成功しました。今後、これらの技術や結果をヒトの幹細胞へと応用することによって、安全な再生医療の早期実現に向けた技術開発が加速されることが期待されます。

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2004年度採択

量子スピン情報プロジェクト
共同研究相手国:オランダ、スイス
研究総括:
樽茶 清悟(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
Leo P. Kouwenhoven(デルフト工科大学 応用科学学科 教授)
Daniel Loss(バーゼル大学 物理学科 教授)
研究期間:2005.3~2010.3
課題概要:

ド・ブロイ波長程度(~0.1ミクロン)以下の構造では電子、スピン、光子などの基本粒子(量子)の個々の性質や、その相互作用が特性を左右するようになります。このような量子現象を制御すると、従来の情報の安全性や情報処理方式を一変させる可能性があり、様々な技術が研究されています。

本研究では、半導体を用いて人工原子(量子ドット)を作製し、量子物理を探求、量子情報処理の基本概念と技術の確立を目指しました。微小磁石と組み合せた2量子ドットを開発し、2量子ビットの独立操作、電子スピンの非破壊的な読み出し等の制御に成功しました。また量子エラー訂正に必要な3量子ドットを作製して物理現象の探索を行い、多重量子ビット化と量子ゲート構成の指針を得ることができました。この他、量子情報転写、核スピン検出と制御など、多くの量子技術応用の足がかりを得ました。

本研究は、オランダ、デルフト工科大学、及びスイス、バーゼル大学と共同で進められました。日本側は量子ドットのスピンに関する基礎物性と量子情報処理の研究を行い、オランダ側は量子情報を乱す要因解明、カーボンナノチューブなど独特な物質での量子物理の研究を行い、スイス側は実験への理論提案等、量子情報理論の構築を行いました。この研究の成果は、今後、量子コンピュータや量子通信などの応用分野に適用していくことが期待されます。

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膜機構プロジェクト
共同研究相手国:インド
研究総括:
楠見 明弘(京都大学 再生医科学研究所/物質-細胞統合システム拠点 教授)
Satyajit Mayor(国立生命科学研究センター 教授)
研究期間:2005.3~2010.3
課題概要:

細胞膜は、細胞を取り囲み、細胞という生命の基本単位が作る空間を定義します。細胞膜は、外界との情報・エネルギー・物質のやりとりを担い、さらにそれらの制御コンピュータとして機能しています。一方、地球上のすべての細胞膜は、「2次元液体」という共通の構造を持っています。したがって、細胞膜が働く仕組み(機構)には、2次元液体の性質を利用し制御する一般的原理のあることが予想されます。このような基本的な機構を、「膜機構」と名付けました。「膜機構プロジェクト」では、細胞が進化の過程で獲得した細胞膜を働かせるための共通の基本戦略、「膜機構」の解明を進めることを目指しました。

本国際共同研究では、日本側の、生きている細胞内での1分子観察・追跡技術と、インド側の、ナノ秒分解蛍光共鳴エネルギー移動画像技術を統合して研究を進めました。その結果、「細胞膜の4つの基本的な物理的性質が、膜機構に本質的にかかわっている 」ことがわかってきました。(1)低次元性のため分子間相互作用が起こりやすい、特に、数ナノメートル大の特異的・動的タンパク質多量体ができやすい、(2)準安定な分子集合体であり、様々な寿命をもつ数ナノから数10ナノメートル大のミクロドメインが協同的に常に生成消滅している、(3)アクチン膜骨格とそれに結合した膜タンパク質からなる拡散障壁によって30-200nmのコンパートメントに仕切られている、(4)3次元空間内に「吸着したあとに、拡散運動できる2次元表面」という反応場を提供する、ということです。最初の3種のメゾ構造(3-300nm)は階層構造をなしています。

これら4つの基本性質の相乗作用で、細胞膜の働き、特に、シグナル変換が可能になっていることがわかってきました。受容体が会合して安定ラフトドメインの形成を誘導し、それがアクチン膜骨格上のシグナル分子と結合してシグナル伝達が起こるというような例です。これらの成果は、生命の基本単位としての細胞がどのようにして働くのかという基本的な疑問に答えるだけでなく、新規薬剤の発見・開発や臨床診断法の開発など医療分野に対して今後、大いに貢献することが期待されます。

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2005年度採択

時空間秩序プロジェクト
共同研究相手国:フランス
研究総括:
吉川 研一(京都大学 大学院理学研究科 教授)
Damien Baigl(エコール・ノルマル・シュぺリオール 准教授)
研究期間:2006.3~2011.3
課題概要:

生命体では、多種多様な分子が自律的に集合することにより、形態形成や自己修復あるいは心臓拍動や概日リズムなどの時空間秩序を自発的に作り出しています。このような生命システムの特質に迫るためには、要素還元論的なアプローチだけではなく、生命の動的構造や機能を実空間上でモデル化するといった方法論による研究が必須となっています。本研究では、ナノメータ・スケールでの"自己組織化の原理"と、より大きなスケールで重要となる"非線形のシステム論"とを統合することにより、階層縦断的なモデルを設計し、生命の動的機能を再現する実験系を構築しました。

本研究はフランスのエコール・ノルマル・シュペリオールと共同で進められ、1)単一高分子鎖からナノ秩序構造体の自己組織化の手法の確立:(日)長鎖DNAの高次構造転移と遺伝子機能の自己制御の実空間モデルの創生、(仏)合成荷電高分子の単一分子テクノロジーを展開、2)生体の動的機能の実空間モデルの構築:(日)化学エネルギーに駆動される運動系や、自律的リズムの創生(仏)ボトムアップ手法によりナノからミクロの秩序の生成をそれぞれ分担しました。

本研究は、学問の境界領域を超えて、生命現象の本質に迫るとともに、ボトムアップ的アプローチにより、自律的機能を有する時空間システムを人工的に創出するための、基盤的な科学的手法の確立を目指しています。そこで得られる科学の普遍的な理解は、バイオテクノロジー、単分子工学、自律ロボット、スマート物質、遺伝子制御など様々な分野に、新たな設計指針を与えるものと期待されます。

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超短パルスレーザープロジェクト
共同研究相手国:ドイツ
研究総括:
小林 孝嘉(電気通信大学 大学院電気通信学研究科 教授)
Ferenc Krausz(マックス・プランク量子光学研究所 ディレクター)
研究期間:2006.3~2011.3
課題概要:

特殊な光の発生技術やその検知技術に関する研究は、光・光量子科学技術を核にした次世代基盤技術を開拓する分野として注目を集めています。本プロジェクトはドイツのマックス・プランク量子光学研究所との共同で進められました。日本側は、超短パルス光源と超広帯域・超高感度の検出装置を開発し、物質の電子状態や分子振動における動的過程の観察や制御を可能とすることを目指し、ドイツ側は、これまで以上に短いパルス幅と短波長のアト秒軟エックス線の発生を目指しました。

これらの共同研究を通じて、本プロジェクトでは、化学者の長年の夢である化学反応の遷移状態の観測を光化学反応だけでなく、熱化学反応においても、成功しました。さらに紫外域、深紫外域の分光用に最適な高性能超短パルスを開発し、基本的な分子に適用しました。さらに医学研究に極めて強力なレーザー顕微鏡用光源の開発に成功しました。複雑な、生態・細胞中の整理・病理過程の研究に必須であり、世界中の研究者から求められる多色イメージング用光源として最適な光源です。本研究で開発された光源では同一光源から同時に最大15色が発生でき、複数の色素蛋白を同時測定可能となることが期待されます。また、日本側で開発したパルスクリーニング法を取り入れて、マックス・プランク研究所における超高強度レーザーの増幅パルスからプレパルス、ポストパルスを除去することも計画されています。このような超短パルス光の発生技術および超広帯域・高感度の検出技術の開発は、将来的にバイオ・工学等への貢献が期待されます。

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2006年度採択

ATP合成制御プロジェクト
共同研究相手国:ニュージーランド
研究総括:
吉田 賢右(京都産業大学 工学部 教授)
Gregory Cook(オタゴ大学 微生物・免疫学科 教授)
研究期間:2006.12~2012.3
課題概要:

ATPは地球のあらゆる生物のほとんど全ての活動においてエネルギー源として使用されています。その合成は生物の行う化学反応(代謝)の基本で、量的にも最大のものです。ATP合成酵素は、細胞の中で ATPを合成している酵素です。身体の中でATPの需要は刻一刻変化しています。それにしたがって、ATP合成酵素は合成を早めたり、遅くしているはずです。近年の研究によってこの酵素の基本的な仕組みはずいぶんわかってきました。しかし、ATP合成酵素がどのように制御されているか、という大事なことがまだはっきりとわからないのです。

本プロジェクトはATP合成酵素の制御に係わる分子機構および細胞生理を解明し、代謝のメカニズム、環境応答ナノ分子マシーン、エネルギー代謝の病態等の理解への貢献を目指しました。日本側チームは、ATP合成制御の基本的な分子機構を生化学、タンパク質化学、遺伝子工学、遺伝生化学、1分子観察と1分子操作など様々な方法を駆使し、個々の機構を明らかにして、統合されたATP合成制御の全体像の解明に取り組みました。また、ニュージランド側チームは、生きている状態の微生物で、ATP合成酵素の制御の欠陥や変異が生物に与える影響の解明に取り組みました。これにより、ATP合成酵素活性が植物では明所・暗所で変化すること、及び枯草菌ではストレス環境によって制御されることを明らかにしました。

この成果によって、細胞生物学また分子生物学の未解決な問題であるATP合成酵素の制御という細胞代謝の根幹の解明が期待されます。今後さらに制御の欠陥と生物の病態との関連を明らかにすることにより、エネルギー代謝の制御に係わる新しい医療領域への視野展開が期待されます。

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RNAシンセティックバイオロジープロジェクト
共同研究相手国:フランス
研究総括:
井上 丹(京都大学 大学院生命科学研究科 教授)
Eric Westhof(国立科学研究センター(CNRS) 分子細胞生物学研究所 所長)
研究期間:2006.12~2012.3
課題概要:

「DNA二重らせん」の発見以降、20世紀後半には、生体分子についての膨大な分子生物学・生化学の研究成果が蓄積されました。ポストゲノム研究の時代となった現在、これらの成果を基盤として生命システムを再構築することにより、生体分子を「人工的に創り出す」という新しいテクノロジーを誘発しようとする「シンセティック・バイオロジー」分野創成の気運が高まっています。

本プロジェクトは、この新分野の先進的な開拓を進め、独自に機能性人工RNAやRNA-タンパク質複合体(RNP)創製のための基盤技術を確立し、これを用いる細胞機能制御技術の開発を目指しました。日本側とフランス側は、RNAやRNPの分子デザイン、構築および細胞機能制御への応用と、それに資する構造生物学、情報生物学、分子動力学の研究を、それぞれ担当しました。これにより、RNPモチーフを活用してヒト細胞内で特定のタンパク質に応答する翻訳制御系を構築し、これをもとに環境変動に応答して細胞の運命(生死)を制御できる様々なRNPシステムの開発に成功するとともに、RNPを利用してRNA単独では形成不可能な構造体の構築に成功しました。本共同研究において、特定の機能を持つRNAやRNPの人工的な創製法が確立されたことにより、RNAおよびRNP分子デザインの有用性が実証されました。

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