伊藤 耕三
超薄膜化・強靱化
「しなやかなタフポリマー」の実現
プログラム・マネージャー
伊藤 耕三 Kohzo Ito
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1986年 東京大学大学院博士課程修了
1986-1991年 繊維高分子材料研究所 研究員
2003年~ 東京大学大学院 教授
2005年~2014年 アドバンスト・ソフトマテリアルズ㈱(ASM)取締役
2014年~ ImPACT プログラム・マネージャー
(東大/JST間のクロスアポイントメント、エフォート80%)
【プロフィール】
1999年に、架橋点が自由に動く高分子材(スライドリング・マテリアル:SRM)を発明。同材料の驚異的なタフネス特性に着目し、2005年にASMを設立。新材料の開発とともに、事業化に向けたマネジメントにも従事。


研究開発プログラムの概要

人類の発明した素材で最も用途が広いとも言われる便利なポリマー。しかし、薄くすると壊れやすく、厚く硬くすると脆くなる性質が課題だった。本プログラムは、従来の限界を超える薄膜化と強靱化を同時に達成する「しなやかなタフポリマー」の実現を目指す。タフネス性・柔軟性・自己修復性(熱や光で元に戻る)という特徴をもつタフポリマーは、自動車部品や輸送機器を飛躍的に向上させるブレークスルーにつながる。さらに高分子材料が利用される産業全般に広い波及効果が期待され、将来的に安全・安心・低環境負荷という社会的ニーズに貢献する。

非連続イノベーション

 現在我が国は、高分子部材の多くの分野で世界市場の中の高いシェアを占めており、産業競争力で優位な立場にあるが、最近、海外では企業と大学が密接に連携して高分子部材の既存技術に関する研究開発を、国の手厚いサポートを受けながら人海戦術により精力的に進めており我が国にとって大きな脅威となっている。これに対して我が国では、アカデミアなどで高分子部材についての革新技術が次々と発見されているが、産学連携などに課題もあり必ずしも実用化に至らないケースも少なくない。ポリマーのタフネス化は高分子材料の信頼性や安全性に直結するため、特に薄膜化や軽量化が急激に加速している現在、高分子産業の極めて重要な共通課題となっているが、企業の研究開発の優先順位からすれば後回しにされがちであり、アカデミアの貢献がきわめて重要となっている。
 用途に応じた機能を発現しつつ壊れない「タフポリマー」を実現しようとした場合、現状の試行錯誤的アプローチでは時間がかかり過ぎて二律背反に陥るリスクがある。またタフネスをもたらすミクロの分子設計とマクロの破壊力学を結びつける破壊の分子理論はまだ未完成であり、タフネスとその他すべての要求条件を満たす高分子材料の創製は一般に極めて困難となっている。これを解決するために本プログラムでは、トップレベルの実験・理論の英知を集結し、SPring-8を用いた破壊の時空間階層的なその場観察による現象解明、京コンピュータを用いたシミュレーションなどを用いてマクロの破壊挙動理論と分子論的機構解明とをつなぎ、タフネスの本質に迫る。これを新規な分子結合と高次構造設計に結びつけ、高い技術的受容性を有する我が国の企業へ実行可能な知見として引き渡し、戦略的かつ効率的に革新的概念のタフポリマーを実現する。以上により、従来の試行錯誤から脱却して飛躍的な開発速度で理想の材料を追求することが可能となり、他国では簡単に真似のできない斬新な材料開発手法が確立できる。
 我が国のアカデミアは本分野において世界最高の技術水準にあり、タフポリマーの分子構造について独創的な提案が次々と登場し、実際に画期的な物性が報告されている。しかし、それらの技術をそのまま利用すると、大幅なコスト増や他の物性が低減するなど実用化の面で困難が生じることから、本プログラムでは、タフポリマーの原理を解明することで、汎用の廉価な高分子を用いて画期的なタフネスの向上を目論んでいる。この点が、本技術の最も困難なポイントとなっている。これを解決するために本プログラムでは、乖離しがちなアカデミアとの面談を頻繁に設定するとともに、重点的な課題について復数のアカデミアとの集中的議論を行なうワークショップなどを開催し、重点課題の迅速で効率的な解決を図っている。

PMの挑戦と実現した場合のインパクト

・実現したときに産業や社会に与えるインパクト
 従来の限界を超える薄膜化と強靱化を備えた「しなやかなタフポリマー」を実現することで、究極の安全性・省エネ自動車の実現など、材料から世の中を変える。ポリマーのタフネス化は、燃料電池やLI電池、車体構造、タイヤなどの飛躍的な高性能化に寄与するため、 自動車を始めとする輸送機器の軽量化・信頼性・安全性を飛躍的に向上させることに繋がる。高信頼性の証であるマスターブランド「しなやかポリマー」の普及により、自動車を含む産業分野全般を劇的に変革。安全・安心、低環境負荷の社会を実現する。

成功へのシナリオと達成目標

成功へのシナリオ

  • 世界トップレベルのアカデミアの最新の研究の知見と、SPring-8や京コンピュータなど大型研究設備を用いて得られる高分子のタフネス化におけるブレークスルーを、高い技術的受容性を有する我が国の企業へ実行可能な知見として引き渡し、企業の高い技術力との融合により速やかに実用化につなげる。
  • 破壊時構造解析と局所的な物性評価ならびに破壊の理論・シミュレーションを組み合わせることで、破壊の分子的機構を解明する。これに基づき、ポリマーをタフにする分子設計・材料設計指針と破壊予知・疲労寿命予測法を確立し、高分子材料の長期信頼性の飛躍的向上を図る。
  • 企業現場での実態を反映したタフネス測定・強靱性評価を簡便かつ短時間で可能とする。このような分子論的破壊理論に裏打ちされた簡便かつ迅速な強度評価標準試験法の開発により、高分子材料開発のスループットが格段に向上し、信頼性や安全性を確保した状態で材料の限界性能を引き出す利用が低コストで実現できる。
  • 独自の合成技術や分子結合技術を開発し、それに基づいた新規分子結合や高次構造設計の概念を導入することにより「しなやかなタフポリマー」を創製し、燃料電池・LI電池の飛躍的な高性能化・軽量化・小型化、車体構造の革新ならびに軽量化および安全性の両立を低コストで実現する。また、開発されたタフポリマーを用いてコンセプトカーを製作するとともに、自動車以外の分野への応用展開も図る。これにより、二酸化炭素排出量の大幅な削減及びポリマーの信頼性・安全性の向上が同時に実現可能となる。

達成目標

  • 燃料電池電解質膜・LI電池用セパレータの超薄膜化、車体構造用樹脂・透明樹脂の強靱化及びタイヤの薄ゲージ化を実現する。
  • 電池や車体構造についてプロトタイプを作製し、自動車メーカーにおける実証実験でシステムとしての総合評価及び耐久性評価を行い、産業適用への適合性を評価する。
  • 破壊の分子的機構解明とタフポリマーを実現するための分子設計・材料設計の指針を確立する。
  • 簡便かつ迅速な強度評価標準試験法と様々な環境下での破壊予知・疲労寿命予測法を開発し、高分子部材の長期信頼性を確立する。
  • 開発されたタフポリマーの社会実装の場としてコンセプトカーというクルマのプロトタイプ製作を行なう。また、車以外の分野でも応用展開を図る。

PMが作り込んだ研究開発プログラムの全体構成

PMのキャスティングによる実施体制


伊藤 耕三PMの実施体制の詳細は公式HPをご覧ください。 公式HPへのリンク

プログラム資料