採択課題
採択課題

コンパクト中性子源とその産業応用に向けた基盤技術の構築

プログラムオフィサー近影
プログラムオフィサー(PO)
吉沢 英樹 (東京大学物性研究所附属中性子科学研究施設 教授)

技術テーマの設定趣旨

●テーマの概要

日本では大型施設による放射光と中性子線の相補的利用により中性子線の特徴の理解が深められるにつれて、その産業利用への期待が大いに高まっています。中性子線の有する高い透過力や軽元素の識別能力などの特徴は、産業利用の分野でも分析・解析ツールとして広く活用されるべきです。しかし、実験室で利用可能なX線発生源と比較して、中性子線の発生源は研究用原子炉や大型加速器であり、その利用機会は著しく制限されています。中性子線の産業利用の裾野が拡大し、我が国の高い技術力・競争力の維持に貢献するためには、高輝度でコンパクトな中性子線源の開発と、その利用技術の高度化が不可欠なのです。

そこで本技術テーマでは、中性子線の産業利用に適した小型高輝度中性子線源から構成される分析解析システムの開発を目指して、その主構成要素であるコンパクト中性子源の基盤技術の確立と実証研究を推進します。

一方、測定・解析・分析技術としての中性子を含めた量子ビームの産業応用に対しては、多様なニーズが存在しています。例えば、イメージング技術と回折技術を駆使する技法の産業応用には、構造物検査、集合組織解析、複合材料解析、残留応力解析、リチウム電池や燃料電池の部材開発・動作環境解析、高分子材料開発などがあり、また、分析技術の応用としても、食品成分分析、多成分組成分析などと、多様な応用が想定されています。

そこで本技術テーマでは、具体的な測定対象、利用分野などを想定した上で、中性子線の特徴を活かした検出・可視化・分析システムの開発・実証研究を推進します。ここでは、コンパクト中性子源からの中性子線の制御・検出技術を高度化し、具体的な利用の用途に応じた計測・分析システムを構成する個々の構成要素の開発へと連なる基盤技術の開発・実証研究を取り上げます。

また研究の推進にあたっては、この制度の特徴である産業界と研究者との対話の場「産学共創の場」を活用することにより、産業界のニーズを常に共有し、研究者の基礎基盤研究に反映していくことで、世界をリードする独創的な基盤技術の構築を目指します。

●公募・選考・研究開発テーマ運営にあたってのPOの方針

本技術テーマは、基礎研究ではなく、企業が本格的な中性子線の活用に利用できるコンパクトな中性子線源の開発、中性子線の制御・検出技術の高度化、および具体的な用途に応じた計測システムの開発とその要素技術開発、利用実証研究から構成されます。

コンパクトな高輝度中性子線源としては、加速器駆動型とレーザー駆動型が考えられます。本研究開発では駆動タイプは問いませんが、応用システムとしての中性子線発生源として構築される方向性を優先し、その小型化と高輝度化、運転時の操作性の利便性などに着目した中性子線源システムの基盤要素技術の開発計画であること、あるいは実証システムの開発計画となっていることが求められます。

また、必ずしも汎用型中性子線源である必要は無く、利用目的を単目的化することにより開発可能となる線源・計測系一体型超小型システムの開発や、その要素技術の実証研究、あるいはパルス線源である特徴を活かし時分割測定技術などを活用した線源・計測系一体化システムへの構築を目指した要素技術の開発など、多様な開発計画の提案を歓迎します。

一方、パルス中性子線の活用を促す要素技術の開発例をいくつか挙げるとすれば、エネルギー分解測定手法を活用したイメージング技法や分析技法の開発研究、コンパクト中性子源にマッチした計測系の開発に資する高度な中性子線制御技法の開発・実証研究、または、ヘリウム3ガスを用いないコンパクト中性子源の中性子強度に適合する高効率中性子検出器の開発研究などが想定されます。

さらに、中性子線の制御技術、検出・可視化・分析技術の実証研究においても、そのような基盤技術の進展により、個々の具体的な産業課題の解決に中性子線の活用が利する計測・分析システムが構築されるものでなければなりません。そこで、コンパクト中性子源の中性子線の活用が、特定の産業領域の開発研究にインパクトを与えることを示唆する中性子線利用の実証研究を推奨します。なお実証研究の特質に鑑み、このカテゴリーで応募する場合には、必ずしも小型中性子源を利用した研究提案である必要はありません。

以上のような観点から、本技術テーマに即した中性子線利用の普及に資する研究課題を「学」から公募します。対象とする研究は、大学などによる基礎に根ざした研究ですが、革新的要素技術につながる基盤技術の創出には、「学」の基礎研究力と「産」のニーズが十分に合致する必要があります。技術テーマ運営にあたっては「産学共創の場」を積極的に活用し、将来的に研究成果が産業界で活用できるよう、研究の遂行中に「産」と「学」との密接な意見交換を行いながら研究を推進します。

本制度の趣旨を理解し、将来的には日本の産業競争力強化につながるような研究提案を期待しています。また、女性研究者、若手研究者からの応募も歓迎します。

このページの先頭へ

プログラムオフィサー(PO)及びアドバイザー

※所属機関・役職は採択当時のものとなります。
役 職 PO・アドバイザー
氏 名 所属機関・役職
プログラム
オフィサー
吉沢 英樹 東京大学物性研究所 附属中性子科学研究施設 教授
アドバイザー 金子 美智代 トヨタ自動車株式会社 材料技術開発部 材料解析室長
アドバイザー 川嶋 利幸 浜松ホトニクス株式会社 産業開発研究所 開発本部
大出力レーザー開発部 研究開発グループ長
アドバイザー 鬼柳 善明 名古屋大学 理工学研究科 特任教授
アドバイザー 佐藤 馨 JFEスチール株式会社 スチール研究所 主席研究員 
アドバイザー 末元 徹 東京大学物性研究所 極限コヒーレント光科学研究センター 教授
アドバイザー 林 真琴 茨城県企画部 科学技術振興課 技監
(元 日立製作所 研究員)
アドバイザー 宮寺 晴夫 株式会社東芝 電力システム社 
電力・社会システム技術開発センター
原子炉・量子応用技術開発部
量子応用技術開発担当グループマネージャー
(五十音順、敬称略)
このページの先頭へ

課題

※所属機関は採択当時のものとなります。
課題名 課題概要 研究責任者
(所属機関)
小型定常中性子源を用いた中性子透過撮像 低速中性子は水分子によって強く散乱を受けるため、燃料電池内部の水の挙動を直接観察するのに適しています。しかし、利用場所が限られており、製品開発に必要な即時的利用が困難である、という問題があります。小型中性子源を用いた計測システムを燃料電池透視に限って高度化することで、製品開発において実用的に利用できるシステムの実現を目指します。特に、研究終了後に実用システムとできるよう配慮しながら研究を進めます。 清水 裕彦
(名古屋大学)
レーザー駆動中性子源の開発と高速ラジオグラフィへの応用 高出力レーザーを駆動源としたピコ秒、サブミリメートルの中性子源を開発するとともに、高速移動体や大型検体を対象とした時間分解中性子ラジオグラフィ法を開発します。中性子発生に関して複数の方式を対象に研究を進め、絞り込みを行います。平行して、時間分解2次元中性子画像検出器やターゲット連続供給装置を開発し撮像試験を行う事により、レーザー駆動高速ラジオグラフィ装置開発に求められる技術仕様を明らかにします。 西村 博明
(大阪大学)
He−3代替位置敏感型中性子検出器の開発 He−3ガスは主要な中性子検出媒体であるが、昨今のHe−3ガスの価格高騰はすさまじく、その使用が難しくなりつつあります。本研究では、中性子検出媒体をHe−3から純国産技術で開発されたLiCAFシンチレータに置き換えた位置敏感型中性子検出器を開発することに主眼を置きます。とりわけLiCAFを微細化して透明樹脂中に分散させたTRUST LiCAF(※)を用いて、高検出効率、高計数率特性、高いガンマ線弁別性能を有する位置敏感型中性子検出器の開発を目指します。
※TRUST LiCAF:リチウムを主構成元素としてカルシウム、アルミニウムを含むフッ化物(LiCAF6)を透明樹脂中に分散した材料を用いたガンマ線分別能を持つ中性子検出器。
瓜谷 章
(名古屋大学)
医療用加速器中性子源技術の産業利用への応用に関する研究 医療分野(BNCT:ホウ素中性子捕捉療法)で急速に進展している加速器中性子源技術の産業分野への応用を図ります。筑波大学を中心に開発したリニアックベースBNCT用加速器中性子源装置に対して、熱外中性子を減速・熱化する2次モデレータ、中性子強度を増強するための陽子ビーム輸送技術などの開発を行い、同装置で熱中性子を発生する環境を整備します。
この熱中性子ビームを小角散乱研究グループなどに提供し、これらの研究開発を支援します。
熊田 博明
(筑波大学)
中性子フラットパネルディテクタの研究開発 ガラス基板を利用した微細加工技術を用いて、高効率・大面積の中性子フラットパネルディテクタを開発し、中性子ディジタルラジオグラフィの基盤技術を確立します。微細構造を持つ固体ホウ素コンバータにより、高い中性子検出効率を得るとともに、信号読み出しには新規気体電子増倍器と薄膜トランジスタ(TFT)を組み合わせた大面積・高効率読み出し方式を用い、軽量・薄型かつ低ガンマ線感度の高感度中性子イメージング用検出器を実現します。 高橋 浩之
(東京大学)
安全で取扱容易なコンパクト中性子源のためのターゲット・減速体・ビーム輸送系の研究開発 ベリリウム核反応を用いた中性子発生ターゲットのブリスタリング破壊を防ぐ新規な水素拡散性基材を有する構造に加え、常温接合などの直接接合技術の開発を行い低放射化と長寿命化を実現すると共に、メチルベンゼン系溶媒を用いた冷中性子源と光学素子の開発により安全性が高く取り扱いが容易でかつ実用的な冷中性子源強度を実現し、産業界で導入可能なコンパクト中性子源の基礎技術の確立を目指します。 山形 豊
(理化学研究所)
慣性静電閉じ込め式可搬型コンパクト熱中性子源の開発 慣性静電閉じ込め式(IEC)中性子源と反射材・モデレータをパッケージ化し、コンパクトな可搬型熱中性子源を開発します。IEC中性子源は装置構成が単純なため、操作が容易かつ長寿命な点で他の中性子源より優れています。IEC中性子源の小型・高出力化と核融合中性子の熱化のための反射材・モデレータの最適化に取り組むとともに、中性子測定・分析システムを組み合わせた将来の商品化に向けた技術的課題を明らかにします。 長谷川 純
(東京工業大学)
産業用コンパクト中性子源陽子加速器システムの小型化開発 産業界が導入しやすいエントリータイプの小型中性子源の早期商品化に向けた課題解決として、陽子線ベースの加速器駆動型中性子源に用いられる高周波四重極(RFQ)線形加速器の小型化、省電力化、高強度化、軽量化、低廉化を実現するために、運転周波数の高周波数化と独自の特許技術を融合した技術開発に装置不要時の廃棄処分方法も考慮しながら取り組み、産学連携により5年後の商品化を目指します。 林崎 規託
(東京工業大学)
複合材料の品質管理を目指した小型中性子源小角散乱イメージング装置の開発 小型中性子源において、小角散乱とイメージングを融合した構造評価装置を開発します。ミクロスケールの構造に高い評価感度を有する小角散乱を複合材料の各場所で網羅的に計測して、その構造情報を透視画像に上書き(マッピング)することで「小角散乱イメージング法」とする計画です。その結果、タイヤなどの繊維強化プラスチック、鉄筋コンクリート、金属基複合材料の非破壊検査装置を実現します。特に中性子が得意とする水(水素)の検出に威力を発揮する新手法です。 小泉 智
(茨城大学)
レーザー駆動指向性中性子の発生・制御及び検出に関する基盤技術開発 高い透過性・直進性を有する中性子線はその特徴の反面、屈折や反射によるビームのハンドリングに困難があります。これを発生時から指向性を付与することにより、中性子の利用効率を向上させ、可用性を高めることができます。本研究では、高繰り返し高出力超短パルスレーザを用いた指向性を有するパルス高速中性子の発生・制御、およびその計測に関する技術開発を行います。さらに、自動車エンジンなどの透過画像計測やリチウム電池電極内のナノスケール現象のその場計測などへの応用に向けた基盤技術開発を行います。 花山 良平
(光産業創成大学院大学)
このページの先頭へ

このページの先頭へ
独立行政法人 科学技術振興機構