光双極子トラップや光格子を組み合わせて構築した多重連結ポテンシャルは、原子のジョセフソン接合とみなせ、原子の流れを制御できるデバイス候補の一つです。フローの制御にはトンネル確率、セルフ・トラッピング現象や印加したバイアスなどが利用できます。さらに異なる内部状態や磁場による原子間相互作用の強弱を組み合わせて、極めて少ない原子数で非常に多くの原子集団の流れの制御が可能になれば、トランジスタ作用をもつ素子が実現できます(図2)。これは将来より複雑な原子回路を構築する上での重要なビルディングブロックになることでしょう。
また、デコヒーレンス時間が長く、非常にクリーンな光格子は、物質波の輸送にとっても優れた環境を提供します。例えば、周期ポテンシャル内の原子のブロッホ振動の精密観測が可能になり、2次元の光格子による1次元への閉じ込めは、ブライトソリトンの生成・伝播や原子波干渉計の導波路としても利用でき、超精密なセンサーなどへの応用の道が開けます。アトムトロニクスとしては、これまでアトムチップ上での原子のトラップや操作が研究の中心でした。本研究では光格子がもつ優れた利点を前面に押し出し、光格子内に送り込んだボーズ凝縮した原子気体の物性や多彩な現象の理解を深めながら、それをデバイスの基本動作原理へと応用していくことを目指します。
現在は、2007年4月に着任した京都大学において、上記研究の第一歩となる新しいBEC生成システムの立ち上げを行っている。 |