本研究では光技術の医学・生物学応用、特に再生医療への展開を目指しています。自身の未分化幹細胞を用いて臓器を構築する細胞へと分化させた後、患者へ移植することで臓器不全に陥っている種々疾患を治療する再生医療が“夢の医療”として話題となっています。しかしながら、再生医療が実現化しない1つの理由として、幹細胞の分化制御が困難であるという点があげられます。そこで、光技術を用いて幹細胞の分化を制御することが本研究の目的です。これまでの結果として、マウス骨髄間葉系幹細胞に波長 405 nm の連続光を照射したところ、光照射部位のみ特異的に骨形成が認められました。
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(a)本研究に用いた 光 ビームプロファイルと、(b)光技術による骨 形成 効果 |
光照射による骨髄間葉系幹細胞の分化動態が異なる原因について明らかにするため、本研究では細胞内クリプトクロム( CRY )に着目しています。 CRY は細菌から植物、動物、哺乳類まで幅広い生物種に存在している概日リズム(生体リズム)関連タンパク質です。 CRY の主な機能は光受容と転写制御であり、それぞれ生物時計の入力系と振動に深く関わっていることが知られています。光照射後の CRY の細胞内分布を調べたところ、細胞質に存在していた CRY が細胞核へと移行していることが明らかとなりました。また、 RNA 干渉により CRY の発現を抑制した骨髄間葉系幹細胞に同様に光照射を行っても、光照射は骨形成に影響をおよぼしませんでした。現在では哺乳類の CRY は光受容より概日リズムの発振に重要な役割を果たしていると考えられていますが、強い光シグナルを細胞内に入力したため、 CRY をはじめとした CLOCK 、 BMAL 、 PER などの概日リズムのコアループに光照射が大きく影響していると考えています。最近の研究結果から、概日リズムは細胞周期を制御することが知られていますが、本研究では概日リズムに基づいた光照射による幹細胞の分化制御のメカニズムを解明する予定です。本研究結果である光技術による幹細胞の分化制御は、遺伝子組み換えや特殊な薬剤を使用しないため、倫理的問題や予期せぬ副作用の発現を回避できます。この光技術開発は、再生医療だけではなく新規の医療産業創成へつながると考えています。 |