下田ナノ液体プロセスプロジェクト

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研究総括 下田 達也
(北陸先端科学技術大学院大学 グリーンデバイス研究センター 教授)
研究期間:2006年~2011年

 

 

現在の高度なIT社会は優れた電子デバイスの賜物です。しかし、その製造における、エネルギー効率、資源利用効率には改善の余地が大いにあります。現状の製造法から脱却し、材料を必要な場所に必要な量だけ堆積させて電子デバイスの作製を行なうことで、製造エネルギーや廃棄物を大幅に低減できると考えられます。現在の先端半導体デバイスはナノメートルサイズになっています。そのため「ナノ液体プロセス」を提案し、液体材料を用いてナノサイズのデバイスを付加的な方法で直接形成することを目標とします。具体的には、ナノサイズプリンティングの実現です。目標デバイスとしてシリコン系デバイスと酸化物メモリデバイスを設定しました。このような新技術の創出と新デバイス開発に加えて、本研究では液体材料と液体プロセスに関連した新しい科学を萌芽させることを目標としました。それらは、Si-H化合物の科学、酸化物ゲルに基づく科学、そして分子間力によるパターニングに関する科学です。

 

研究成果集

液体シリコン系

【研究目標】
液体プロセスによるシリコン系デバイスの微細プリンティングを目指した研究。太陽電池やトランジスタ作製に必要なシリコン系液体材料の開発、それらを利用した薄膜作製技術の確立、微細プリンティング手法の創出、そして開発した材料とプロセスを用いたデバイス開発を目標とした。

【成果】
水素化シリコンベースの液体シリコン系材料の全体像を明確化した。

(1) CPS(シクロペンタシラン)を出発材料として、液体シリコン関連材料の開発、物性解明、製膜プロセスを確立した。液体シリコン材料とは、i型Si溶液、p型およびn型ドープSi溶液、SiO2前駆体溶液、CoSi溶液、Al前駆体溶液、Pt微粒子触媒、を指す。

(2) i型、p型、n型溶液から良質の半導体アモルファス薄膜を開発。それを用いた薄膜太陽電池で実用的な効率を得た。また、液体シリコンから高性能な単一結晶粒チャネル薄膜トランジスタを開発した。

(3) 液体プロセスにおいて分子間力の及ぼす影響を定量的に明らかにした。また、ナノインプリント法による微細シリコンパターンの直接形成を実現した。

(4) 理論と実験から液体水素化シリコン関連物質の基礎物性を明らかにした。

【今後の展望】
工業的には液体シリコン関連材料は今後のエレクトロニクスならびにエネルギー関連分野において重要な基礎素材になると期待される。一方、材料科学的な観点からは、シリコンと水素の織りなすSi-Hの材料とプロセスの科学に関する知見が得られたので、今後は炭素Cを加えた材料とプロセスに関する科学を発展させてゆくことは大変興味深い。

【参考文献】

  1. T. Masuda, Y. Matsuki, T. Shimoda , Journal of Colloid and Interface Science 340 (2009) 298-305.
  2. Z. Shen, Y. Matsuki and T. Shimoda, J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 8034−8037.
  3. T. Masuda, N. Sotani, H. Hamada, Y. Matsuki, and T. Shimoda, APPLIED PHYSICS LETTERS 100, 253908 (2012).
  4. J. Zhang, M. Trifunovic, M. van der Zwan, H. Takagishi, R. Kawajiri, T. Shimoda,C. I. M. Beenakker, and R. Ishihara, APPLIED PHYSICS LETTERS 102, 243502 (2013).
  5. T. Shimoda and T. Masuda, Japanese Journal of Applied Physics 53, 02BA01 (2014).

酸化物材料系

【研究目標】
液体プロセスによる酸化物系デバイスの微細プリンティングを目指した研究。微細なメモリ型トランジスタの直接プリンティングを念頭に置き、それを実現するのに必要な種々の酸化物前駆体溶液やゲル材料の開発、それらの薄膜作製技術の確立、そして微細プリンティング手法の創出、そして開発した材料とプロセスを用いたデバイス開発を目標とした。

【成果】
(1) ナノ液体プロセスの具体化手段である「ナノレオロジープリンティング(n-RP)法」を創出した。この手法で目標のナノサイズ(数十nm)の酸化物デバイスの直接プリンティングが可能になった。そして、酸化物ゲルのクラスターゲル構造がn-RPプロセス性を付与していることを解明した。クラスターゲルは、n-RPプロセス性以外にも種々の興味あるプロセス特性を有する新材料と言える。

(2) 溶液法によって、新規酸化物材料や特異現象が発現する酸化物デバイスが得られた。新規材料としては、アモルファス導電材料、p型酸化物半導体、高誘電率の常誘電体、等を得た。また特異現象が発現する薄膜トランジタ(NewTFTと命名)を見出した。高誘電体BiNbOに関して発展研究を行い、その高誘電率の発現原因を解明し、高性能コンデンサを開発した。NewTFTに関しては、巨大ON電流の原因がゲート電圧印加で誘電体/チャネル界面(LaZrO/InO)に誘起される巨大電荷であることがほぼ判明した。

(3) FGT(Ferroelectric Gate Transistor, 強誘電ゲートトランジスタ)メモリの開発。FGT が100nm程度のスケーリングに耐え、そのサイズでNAND回路を組めることを実証した。また更なる微細化と三次元化の可能性を示すことができた。

(4) オール液体プロセスで優れたTFTと表示体用トランジタアレイを開発。それをベースにして、n-RP法で優れた特性のTFTとAM-BPのTEG(試験用サンプル)を開発した。

【今後の展望】
1. 工業的な側面

(1) クラスターゲルの概念とそのプロセス性の指針に基づいた種々の酸化物溶液の実用化。特に各種印刷用の半導体、導電体、絶縁体前駆体インクの実用化を目指す。

(2) 高誘電体BiNbO材料のコンデンサ、LTCCデバイスへ適用を検討している。

(3) n-PR法による各種デバイス開発とその実用化。表示体用アクティブマトリックスバックプレーン、バイオMEMSデバイス、光学素子、熱電パネル、等への適用を検討する。

2. 科学技術的な側面

(1) 溶液法による酸化物材料の形成と物性をクラスターゲルという新概念を通して統一的に解釈し、新規物性やより良い形成法を探求する新しい科学技術の創出を目指したい。

(2) 溶液法による酸化物における炭素の特異的役割(BiNbOやNewTFTがその例)は、今後金属酸化炭化物(MOC)という新物質へと発展できる可能性がある。

【参考文献】

  1. J. Li, H. Kameda, B.N. Q. Trinh, T. Miyasako, P. T. Tue, E. Tokumitsu ,T. Mitani and T. Shimoda, APPLIED PHYSICS LETTERS 97, 102905 (2010).
  2. T.Miyasako, B.N. Q. Trinh , M. Onoue , T. Kaneda , P. T. Tue, E.Tokumitsu , T.Shimoda, APPLIED PHYSICS LETTERS 97, 173509(2010) .
  3. P. T. Tue, T. Miyasako, J. Li, H.T.C. Tu, S. Inoue, E. Tokumitsu, and T. Shimoda, IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES, VOL. 60, NO. 1, JANUARY 2013, pp.320-326.
  4. T. Kaneda, D. Hirose, T. Miyasako, P. T. Tue, Y. Murakami, S. Kohara, J. Li, T. Mitani, E. Tokumitsu and T. Shimoda , J. Mater. Chem. C, 2014, 2, 40-49.
  5. M. Onoue, T. Miyasako, E. Tokumitsu, T. Shimoda, IEICE Electronics Express, Vol. 11 (2014) No. 16, pp. 20140651.

 

研究成果

評価・追跡調査

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