■サイエンスアゴラ2021 その後
2022.02.01
科学技術振興機構
日本の研究力や産業競争力の低下が懸念される今、我が国が再びイノベーションを生み出していくためには、どのような研究環境を整備し、イノベーションの源泉を生み出していく必要があるのでしょうか。科学技術振興機構(JST)は、サイエンスアゴラ2021のセッション「大学をコアとしたイノベーション・システム再興」でこの課題を議論しました。
本記事では、当日いただいた多数のご質問のうち、セッション内で取り上げることのできなかったものについて、ご登壇された方々から後日頂戴した回答をご紹介します。本編のアーカイブ動画とともに、ぜひご覧ください。
●天野浩さん(名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授/2014年ノーベル物理学賞)からのご回答
以下2点が必要だと考えています。
・こだわり続ける人(研究シーズ×知財×生産×社会価値創造)
・継続的な開発投資
日本の産業に一番欠けているのはスピード。30年近くかかるイノベーションを10年以内に短縮する必要があります。それには、「こだわり続ける人」が研究者だけではなく各方面に必須です。マーケット調査に長けた人、社会価値のデザインに長けた人、など多様な「こだわり続ける人」が力を合わせることによって実現されるでしょう。
名古屋大学では、文部科学省の博士課程プログラム「卓越大学院DII協働プログラム」を行っており、そのような人材育成にも取り組んでいます。
また日本は、どちらかというとシーズの研究支援はありますが、社会実装への投資がもっと必要だと思っています。ドイツの集合知がうまく機能している理由の一つには、シーズから社会実装までの切れ目ない投資がなされていることにあると考えています。
●天野浩さんからのご回答
成果をいち早く社会実装するためには知財の公共化が必要で、そのためには研究創成期の特許を大学が有するというのは非常に重要と思います。
●天野浩さんからのご回答
特に科研費や国のプロジェクトのように国民の税金で行った研究による成果の場合は、企業でいち早く社会実装してもらい、国民にその成果を還元するという意味で、権利範囲の広い特許取得が必要と考えております。
●天野浩さんからのご回答
特許庁の方を呼んで特許取得の重要性を講義していただくことはやっておりますが、残念ながら受講する若手研究者は多くありません。研究者のマインドセットには、学部生のうちから少しずつ教育することが重要と思います。
(ご参考)
JSTでも大学等における知財マネジメントの取組、技術移転および産学連携活動を総合的に支援しています。詳しくはこちらをご覧ください。
●中川雅人さん(株式会社デンソー フェロー(嘱託) 、元デンソー欧州統括社長/広島大学 客員教授)からのご回答
優れている点は、社会、地域の仕組みにあります。ドイツは連邦共和国で16州から成りたっています。一極集中ではなく、分散独立型を重視した運営です。各州にデジタル経済大臣がいて、経済・科学分野の陣頭指揮をしています。16州の中でも、私が住んでいたデュッセルドルフはNRW州というドイツでも一番、経済発展している州です。この州のデジタル経済大臣はProf. Dr.ピンクヴァルト氏。経済大臣でありながらドイツに多い学者や工学系出身の政治家で、NRW州の経済発展の為に必要な産業を起業するための戦略的な仕掛けを州が先頭を切って企画しています。彼が目を付けたのがアーヘン工科大学のあるアーヘン市をシリコンバレー(米国)のようなイノベーション創出都市にする考えです。彼らはアーヘン地域を「Engineering Velley」と呼び、アーヘン市に以下6つのクラスターを作る計画を打ち立てて推進しています。
アーヘン市の人口はそれほど多いわけではなく、約24万人です。このような中規模な都市にアーヘン工科大学やフラウンホーファー研究機構を含め多くの研究機関を集めています。その上にさらに上記6つのクラスターを立ち上げて、まさにEngineering Velley化するように州と大学、企業が産学官連携のモデル都市を形成しています。
注)NRW州:ノルトライン・ヴェストファーレン州
JST研究開発戦略センター(CRDS)がまとめた報告書において、アメリカ・イギリス・フランス・台湾の事例を紹介しています。
CRDS-FY2015-OR-03 海外調査報告書 主要国における橋渡し研究基盤整備の支援(PDF: 6.5MB)
CRDS-FY2016-OR-08 科学技術・イノベーション動向報告~台湾編~(2016年度版)(PDF: 9.5MB)