笹井 芳樹 | (理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 細胞分化・器官発生グループ グループディレクター) |
(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター ヒト幹細胞研究支援室 室長) |
高橋 政代 | (理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 網膜再生医療研究チーム チームリーダー) |
中村 幸夫 | (理化学研究所 バイオリソースセンター 細胞材料開発室 室長) |
川真田 伸 | (財団法人 先端医療振興財団 再生医療基盤研究グループ グループリーダー) |
培養中に高頻度で起こるヒト多能性幹細胞に特有である細胞死は。細胞を一つ一つバラバラにして培養すると99%もの頻度で細胞死を起こすため、著しく細胞数を損なう。このような分散培養は高度な培養技術、例えば大量培養や細胞単離、遺伝子導入などに必要とされるため、臨床応用へ向けた大きな課題となっていたが、ヒト多能性幹細胞を分散培養した際に起こる細胞死が、ミオシン(※筋肉の主要なタンパク質)の過剰な活性化に起因することを突き止めた。ミオシンの過剰な活性化は特有の激しい細胞運動「死の舞(Death dance)」を引き起こし、同時に細胞死の直接的な原因になっていた。この原因を制御することで、7割以上の細胞の生存を可能とした。
緻密な運動やその学習を司る運動中枢として知られる小脳で中心的な役割を果たすのが、小脳皮質に存在するプルキンエ細胞と呼ばれる神経細胞である。プルキンエ細胞は多くの情報を入力して複雑な情報処理を行なうことが知られ、樹状突起が大きく発達するなど特徴的な構造をもつ。小脳はその障害や変性(例えば、脊髄小脳変性症など)により高度な運動障害を生じることからも重要な研究対象だが、ES細胞などからの小脳細胞の効率的な誘導はこれまで成功していなかったが、マウスのES細胞からプルキンエ細胞を選択的に誘導することに成功し、さらにこれらの細胞を小脳に移植すると機能的に生着し得ることを明らかにした。
【網膜色素上皮】 ヒトiPS細胞から、機能的にも形態的にも成熟している網膜色素上皮の組織シート作成を形成した。その移植による加齢変性症などへの治療が期待されるが、臨床試験のための培養プロトコールを最終化した。また、シートの移植用器具および移植法を検討した。これらの器具および手技を用いて、サルの網膜下へのシート移植に成功した。
【視細胞】 ヒトiPS細胞からロドプシン陽性の視細胞を効率よく分化させ、網膜変性疾患モデルマウスへ移植した。それらの細胞が宿主網膜細胞とシナプスを形成し、神経ネットワークに組み込まれる能力を有することを確認した。
※ロドプシン:光受容細胞の存在する暗いところでものを見るときにはたらく色素
理化学研究所では網膜色素変性症の疾患特異的iPS細胞について、原因遺伝子同定がなされている患者から体細胞を採取し、複数のiPS細胞を樹立し、未分化性の維持、特定の網膜細胞への分化効率などを検討して分配に適した細胞株を選定、ストックした。また、ウィルソン病の患者由来のiPS細胞株を複数樹立した。
本プロジェクトの他の3拠点や個別研究課題においても、現在多くの疾患特異的iPS細胞が樹立されている。これらは、今後理化学研究所拠点の理研バイオリソースセンターに整備されているiPS細胞バンクに集約され、病態究明や創薬を目指す研究者に分配される予定である。