個別事業紹介

幹細胞治療開発領域

研究課題名

iPS細胞由来血管前駆細胞を用いた新規血管再生医療の展開研究

目 的

 高齢化社会の到来により、虚血性心疾患・閉塞性動脈硬化症などの患者数は顕著に増加している。通常はバイパス手術やカテーテルによる血管内治療を行うが、そのような治療が不可能な重症例も多い。このような症例に対して、虚血部周辺の組織から血管再生や側副血行の発達を促し、虚血領域の血流を改善し、組織障害や壊死を軽減させる新しい治療に「血管新生療法」がある。
 本研究ではマウスiPS細胞から血管前駆細胞(Vascular progenitor cell: VPC)を分化誘導し、さらにこれらの細胞から内皮前駆細胞(Endothelial progenitor cell: EPC)および血管平滑筋前駆細胞(Vascular smooth muscle progenitor cell: SMPC)の分化誘導を行う。これらの細胞群を用いた新規の血管再生療法、我々が開発してきた磁気ビーズと磁場を利用した細胞シートの作成とシートによる虚血心筋の血管新生療法、ならびに小口径動脈グラフトの開発(Tissue engineering)を行う。
 なお、文部科学省の策定した「iPS細胞研究等の加速に向けた総合戦略(平成19年12月22日付)」及びこれに基づき講じられる施策等に協力して業務を実施するとともに、文部科学省科学技術・学術審議会及びプログラムディレクター等の指示に基づき効率的に業務を実施する。また、再生医療の実現化プロジェクトヒトiPS細胞等研究拠点整備事業により整備される各拠点、個別研究事業の実施機関等とよく連携し、知的財産権の取扱等について協調を図る。

実施体制

研究代表者
室原 豊明 (名古屋大学 医学系研究科病態内科学講座 教授)
分担代表研究者
沼口 靖 (名古屋大学 医学部プロテアーゼ臨床応用学 准教授)
実施体制説明図 実施体制

概 要

(1) iPS由来血管前駆細胞(iPS VPC)の分化誘導方法の検討
iPS細胞をマウス皮膚線維芽細胞より作成する。このiPSより内皮前駆細胞、血管平滑筋前駆細胞などのいわゆる血管前駆細胞(Vascular progenitor cell: VPC)の分化誘導法を確立するためにiPS細胞の培養と分化誘導実験を行う。
   
(2) iPS由来血管前駆細胞(VPC)の安全性と血管新生能の検討
マウスiPS VPC細胞を、ホスト個体(iPSが由来する同一個体)またはヌードマウスの皮下などに移植し、奇形種(teratoma)の形成が見られないかどうかを検討する。また、移植後に血管再生が誘導できるか否かを組織学的に検討する。培養系では、細胞の増殖能・遊走能・ネットワーク形成能などを検討する。
   
(3) iPS由来 VPCのシート化の至適条件の確立
マウスiPS由来血管前駆細胞の誘導が可能になった場合、これらの細胞を磁気シート工学により、細胞シート作成を試みる。この際に至適培養条件・操作条件を検索する。

平成20年度の計画と目標

(1) iPS由来血管前駆細胞(VPC)の分化誘導方法の検討。
iPS由来VPCの安全性の検討。虚血組織移植実験。
   
(2) iPSからEPC及びSMPCを誘導するシステムを樹立する。
   
(3) 上記で EPV, SMPC が得られた場合、動物移植実験にて、血管再生能があるか否かについて検討する。