目 的
難治性角膜疾患による失明患者に対して、現在献眼による角膜移植術が実施されている。しかしながら、わが国における待機患者が約4,700人であるのに対して、献眼は年間約900人と絶対的に少なく慢性的なドナー不足に陥っている。ドナー不足解消のために多分化能を有するES(胚性幹)細胞を細胞源とする再生治療が検討されてきたが、自家細胞ではないために拒絶反応の課題があった。また、角膜は上皮、実質、内皮の三層に分かれるが、角膜内皮や角膜上皮疾患では献眼を用いる他家移植による予後が不良であるため、自家細胞源を用いる新たな治療法の開発が望まれている。
山中らによって開発されたiPS(人工多能性幹)細胞作製法は、容易に採取できる患者自身の皮膚からES細胞様の細胞を樹立できるため、ドナー不足と拒絶反応を同時に解決しうる再生医療基盤技術である。そこで本事業では患者自身の細胞から作製したiPS細胞を角膜内皮細胞および上皮細胞に分化誘導し、移植可能な組織構造(細胞シート)を作製して、移植に供するという画期的な角膜再生治療法の開発と臨床応用を目指す。
概 要
本研究ではマウスおよびヒトiPS)細胞を用いて角膜内皮および上皮を再生し、iPS細胞を自家細胞源とした角膜再生治療法の臨床応用を目指す。マウスおよびヒトiPS細胞から角膜上皮および内皮細胞を分化誘導する技術、角膜内皮細胞の細胞表面マーカーの決定、角膜内皮および上皮細胞を純化する技術、角膜内皮細胞および上皮細胞シートを作製して移植する技術を開発する。