個別事業紹介

幹細胞治療開発領域

研究課題名

iPS細胞を用いた自家角膜再生治療法の開発

実施体制

研究代表者
西田 幸二 (大阪大学大学院 医学系研究科 脳神経感覚器外科学講座(眼科学) 教授)
分担代表研究者
大和 雅之 (東京女子医科大学 先端生命医科学系専攻再生医工学分野 准教授)
実施体制説明図 実施体制

研究成果・進捗

本研究ではヒトiPS(人工多能性幹)細胞を用いて角膜内皮および上皮を再生し、iPS細胞を自家細胞源とした角膜再生治療法の臨床応用を目指す。ヒトiPS細胞から角膜内皮および上皮細胞を分化誘導する技術、角膜内皮および上皮細胞を純化する技術、角膜内皮細胞および上皮細胞シートを作製して移植する技術を開発する(図1)
概要
(1)角膜上皮再生
図2:iPS細胞からの上皮前駆細胞の分化誘導
マウスおよびヒトiPS細胞からの上皮前駆細胞の分化誘導法の探索を行った。
a) マウスiPS細胞からの上皮前駆細胞の誘導
我々が開発した方法によりマウスiPS細胞からp63およびK14陽性の上皮前駆細胞を誘導することが可能であった。
   
b) ヒトiPS細胞からの上皮前駆細胞の誘導
既存の方法を基づき独自に開発した方法によりヒトiPS細胞(253G1株)からp63およびK14陽性細胞を誘導可能であった。
概要 図3:iPS細胞由来培養上皮細胞シートの作製
誘導したiPS細胞由来上皮前駆細胞を用いてさらに、培養上皮細胞シートの作製を試みた。
a) 位相差顕微鏡像の観察
ヒトiPS細胞由来上皮前駆細胞はフィーダー細胞上でコンフルエントに達し、敷石状の形態を示した。
   
b) ZO-1発現の免疫染色
iPS細胞由来上皮細胞は正常培養角膜上皮と同様に、細胞間にZO-1を発現していた。
   
c) HE染色像
iPS細胞由来上皮細胞シートは2-6層程度に重層化していることが示された。
概要
(2)角膜内皮再生

図4:iPS細胞を用いた神経堤細胞への分化誘導と純化
マウスおよびヒトiPS細胞から、角膜内皮細胞の発生起源である「神経堤細胞」への分化誘導法および細胞純化法について検討した。

a) マウスiPS細胞における誘導後のp75陽性細胞率
マウスiPS細胞を用いた神経堤細胞への分化誘導条件の最適化を行い、p75陽性細胞の誘導効率を上昇させた。
   
b) p75, sox10の免疫染色
ヒトiPS細胞(253G1)からp75, sox10陽性の神経堤細胞を分化誘導した。
   
c) α4 integrinの免疫染色
iPS由来神経堤細胞はintegrinα4の発現も認められた。
   
d) ヒトiPS細胞における誘導後のp75陽性細胞率
分化誘導後の細胞集団について、p75をマーカーとしてFACSを行い、p75陽性の神経堤細胞を単離した。
   
e) p75陽性細胞ソーティング後のRT-PCR
単離した細胞について、RT-PCRによりslug, sox9, sox10, AP-2などの神経堤細胞マーカーの発現を確認した。
概要
図5:マウス培養角膜内皮細胞を用いた表面マーカー探索
誘導したiPS細胞由来上皮前駆細胞を用いてさらに、培養上皮細胞シートの作製を試みた。
a) マウス培養角膜内皮細胞の表面抗原解析
Explant法によって得られたマウス培養角膜内皮細胞における表面抗原をフローサイトメーターにおいて解析した。解析した151の表面抗原のうち、11の表面抗原を発現していることが示された。
   
b) 表面抗原発現の違いによる増殖能の違い
培養角膜内皮細胞を目的の表面抗原で染色した後、蛍光強度に応じて細胞を単離し、培養したところ、4種類の表面抗原を強発現する細胞が高い増殖能を有していた。Tableはその抗原の発現と増殖能の関係を、写真は培養時の顕微鏡像を示している。
概要

今後の計画

(1) 角膜上皮再生
ES細胞から上皮細胞を分化誘導する系を用いてiPS細胞から上皮前駆細胞の分化誘導を行う。分化誘導した上皮前駆細胞を用いた角膜上皮組織構築を試みる。
   
(2) 角膜内皮再生
ES細胞から神経堤細胞を分化誘導する系を用いてiPS細胞から神経堤細胞への分化誘導を行う。分化させた神経堤細胞をFACSによって純化を試みる。また、iPS細胞から分化誘導した神経堤細胞から角膜内皮細胞への効率的な誘導条件を検索する。