| 武田 伸一 | (独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部長) |
| (トランスレーショナル・メディカルセンター長) |
| 鈴木 友子 | (独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 遺伝子疾患治療研究部 室長) |
| 後藤 雄一 | (独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 疾病研究第二部長) |
Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)は骨格筋膜直下のジストロフィンの欠損により発症し、徐々に筋力が落ちていく重篤な疾患である。
患者さん由来の幹細胞を用いた筋ジストロフィーの治療では、移植の際、免疫学的拒絶の心配は無いと期待されるが、正常なジストロフィン遺伝子を患者さん由来の幹細胞に導入する必要がある。
リプログラミングが完全なiPS細胞は病態研究や治療研究にとって重要である。老齢の筋ジスモデルマウスから作製したiPS細胞は不安定であったが、私たちは、最近、これを安定する方法を発見した。 この方法により、高齢の患者さんからも、安定してiPS細胞樹立することが可能になり、また、希な病気の病態解明や治療開発にも役立つと期待される。
DMD型筋ジストロフィー患者さんと症候性キャリア女性の線維芽細胞から作出したiPS細胞。患者さん由来のiPS細胞は、移植細胞源となるとともに、病態研究や治療薬の開発に役立つ。
*症候性キャリア:ジストロフィン遺伝子はX染色体上にある。二つあるうちの一つのジストロフィン遺伝子に変異を持つ女性では通常ランダムにX染色体が不活性されるため、筋ジストロフィーの症状はでない。しかし症候性キャリアでは、正常のジストロフィン遺伝子を持つ方のX染色体が偏って不活化されているため、ジストロフィンの発現が無い筋線維が変性・壊死し、筋力低下が進行する。
成果2図で示した患者さんとキャリア女性のジストロフィン遺伝子と遺伝子発現の状態。症候性キャリア女性では、ジストロフィン遺伝子のエクソン42、43が欠失していた。iPS細胞からRNAを調整し、RT-PCRを行って遺伝子発現をみると、正常な人のものに比べて短いサイズのバンドが得られた。症候性キャリアでは、正常、変異型両方のアレルを持つにもかかわらず、iPS細胞においても変異型アレルのみを発現することが分かる。患者さんのほうは、エクソンの重複がみられ、RNAが不安定なためバンドが検出されなかった。