(1) 新鮮ヒト骨髄間葉系幹細胞を機能性肝細胞へ分化誘導する化合物の同定
Lonza社より購入したヒト骨髄単核球細胞、ならびに変形性関節症患者よりインフォームドコンセントのもとで得られた新鮮ヒト骨髄より分離・調整したCD90+CD271+間葉系幹細胞から機能性肝細胞への分化誘導作用を示す低分子化合物を探索した。Lonza社より購入したヒト骨髄由来CD90+CD271+間葉系幹細胞ではIC-2を使用した分化誘導条件で肝特異的遺伝子発現が誘導された。新鮮ヒト骨髄由来CD90+CD271+間葉系幹細胞ではPN-3-13、HC-2、IC-2で肝特異的遺伝子発現が誘導され、ウレアアッセイによる機能評価において、IC-2で有意な尿素合成能の上昇を、PAS染色において3化合物でグリコーゲン貯蔵能を認めた
(図1)。
(2) 細胞シートによる分化誘導肝細胞の移植技術の発展・確立
ヒト間葉系幹細胞を肝細胞へ分化誘導し、細胞シートとして移植を行う技術を発展させ、確立するために、①肝障害に対して有効に作用すると想定される肝特異的分泌蛋白と各種サイトカインの遺伝子発現を分化誘導細胞でin vitroにて評価した。in vivoにおける検討は②肝細胞分化誘導した細胞シートの皮下移植ならびに肝表面移植後の生着の確認を正常マウスにて検討、③四塩化炭素誘発性急性肝障害マウスへの細胞シートの皮下移植の有効性の検討、④四塩化炭素誘発性急性肝障害マウスへの細胞シートの肝表面移植の有効性の検討を実施した。
①低分子化合物によるヒト骨髄由来間葉系幹細胞から肝細胞分化を誘導した細胞のin vitroでの評価
これまでに肝細胞分化誘導作用を有すると明らかにしてきたヘキサクロロフェン、IC-2をそれぞれヒト骨髄由来間葉系幹細胞に添加し分化誘導することで、肝障害に対して有効に作用することが期待される肝特異的分泌蛋白と各種サイトカインの遺伝子発現を認めた。
②肝細胞分化誘導した細胞シートの皮下移植ならびに肝表面移植後の生着の確認を正常マウスにて検討
NOD/SCIDマウス皮下にbFGF徐放デバイスを10日間埋入後、ヘキサクロロフェンにより分化誘導作製した細胞シートを、単層、2層、3層の重層移植を行い、移植7日後の生着を確認した。NOD/SCIDマウスの肝表面において、肝細胞分化誘導し作製した細胞シートを2層、3層の重層移植を行い、移植7日後での細胞シートの生着を確認した。ヒトタンパクを特異的に認識する抗体を使用した免疫組織化学染色の結果、肝表面移植を実施した移植組織片中にアポリポタンパクE陽性の細胞を、マウス肝実質内にヒトα1-アンチトリプシン陽性の細胞を認めた(図2)。

③四塩化炭素誘発性急性肝障害マウスへの細胞シートの皮下移植の有効性の検討
NOD/SCIDマウス皮下にbFGF徐放デバイスを10日間埋入後、ヒト間葉系幹細胞UE7T-13細胞をヘキサクロロフェンにより分化誘導作製した細胞シートを、単層、2層、3層の重層移植を行い、24時間後に四塩化炭素の経口投与による急性肝障害を誘発し、移植細胞シートの急性肝障害に対する障害の抑制効果を検討した。その結果、単層で細胞シートを移植した群では移植4日後に総ビリルビンの有意な低下を認めたが、トランスアミナーゼや生存率では移植による治療効果は認められなかった。
④四塩化炭素誘発性急性肝障害マウスへの細胞シートの肝表面移植の有効性の検討
ヒト間葉系幹細胞UE7T-13細胞をヘキサクロロフェンにより肝細胞分化誘導し作製した細胞シートを、NOD/SCIDマウスの肝表面に各々単層、2層、3層で2箇所移植し、24時間後に四塩化炭素の経口投与による急性肝障害を誘発し、移植細胞シートの急性肝障害に対する障害の抑制効果を検討した。その結果、細胞シート移植群では偽移植処置群と比較し生存率の低下が抑制されると共に、移植4日後でのトランスアミナーゼの有意な低下(図3-a,b)、移植2日後でのビリルビンの有意な低下を認めた(図3-c)。また、2層移植群、3層移植群では偽移植群に比較し、有意に生存率の改善を認めた(図3-d)。免疫組織化学染色では、マウス肝実質内にヒトアポリポ蛋白E陽性の細胞巣を認めた。