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研究者・研究内容

研究者・研究内容

中長期で臨床研究への到達を目指す再生医療研究
中長期で臨床研究への到達を目指す再生医療研究
5~7年目までに臨床研究に到達することを目指す、主としてiPS細胞、ES細胞を用いた研究です
 
①iPS細胞を用いた角膜再生治療法の開発
代表機関:国立大学法人 大阪大学
代表研究者:西田 幸二(にしだ・こうじ)
        医学系研究科 教授



ヒトは外界の情報の80%を視覚(眼)から得ているとされており、
難治性の眼疾患により視覚障害に陥り、生活の質QOLが著しく損なわれている患者が数多くおられます。そのうち、角膜移植が必要とされている患者は世界で1000万人にも達すると推定されています。一方、角膜移植のドナーは10万人と極端に不足しており、さらに一部の角膜疾患では拒絶反応が高率に生じるため角膜移植は奏功しません。このような角膜移植の問題点を抜本的に解決し、視覚障害者の視力回復とQOLの向上および社会復帰を果たすことができるように、我々のチームは「iPS細胞を用いた角膜再生医療の開発」に全力で取り組んでいます。本プロジェクトには大阪大学のほか、慶應大学、東京女子医科大学の医師、研究者にも参画していただいておりますが、できるだけ早期の実現化に向けて、チーム一丸となって不断の努力を積み重ねる所存です。



① 角膜上皮再生

外傷や疾患で角膜上皮幹細胞が完全に失われることで角膜透明性が著しく低下する、「角膜上皮幹細胞疲弊症」を治療することを目的として、iPS細胞から移植可能な「培養角膜上皮細胞シート」の作製を目指しています(図1)。これまでにヒトiPS細胞から角膜上皮細胞の元となる、重層上皮幹細胞・前駆細胞を誘導することに成功しています(図2)。これらの細胞は、重層上皮幹細胞マーカーK14やp63を発現していました。さらにこの重層上皮幹細胞・前駆細胞に対して分化誘導を行うことで、培養重層上皮細胞シートを作製しました。このヒトiPS細胞由来培養重層上皮細胞シートには、角膜上皮機能に必須でかつ特異的に発現する膜結合型ムチンであるMUC1, 4, 16についても、正常角膜上皮細胞と同様に、表層部に発現していることを確認しました。
 さらに、このヒトiPS細胞由来培養重層上皮細胞シートの機能(有効性)を検証するために、家兎の角膜上皮幹細胞疲弊症モデルを用いた移植実験を行っています。その結果、ヒトiPS細胞由来培養重層上皮細胞はシート状に回収・移植することが可能であり、移植後8日におけるフルオレセイン染色の結果においては、非移植眼では角膜全面がフルオレセインで染色されたのに対して(バリア機能無し)、移植眼では殆どフルオレセインで染色されないことが示されました(バリア機能有り)。さらに、組織化学的検討の結果より、移植したヒトiPS細胞由来培養重層上皮細胞シートは角膜実質上で広範囲に生着していることが示されました。現在、さらに動物実験の例数を追加し、ヒトiPS細胞由来培養上皮細胞シート移植法の有効性を検証しています。


② 角膜内皮再生
 角膜内皮が不可逆的に障害されることで不可逆的に角膜透明性が低下する、「水疱性角膜症」を治療することを目的として、iPS細胞から移植可能な「培養角膜内皮細胞シート」の作製を目指しています(図3)。
 これまでにヒトiPS細胞から角膜内皮の起源となる神経堤細胞を分化誘導することに成功しています。さらに得られたiPS細胞由来神経堤細胞に対して分化誘導を行うことで、角膜内皮様細胞へ分化誘導することに成功しました(図4)。得られたヒトiPS細胞由来角膜内皮様細胞について、角膜内皮細胞の機能を反映した選択的マーカーとして、Collagen typeVIII、Na+/K+ ATPase等の発現調べたところ、ヒトiPS 細胞由来角膜内皮様細胞はこれらの角膜内皮マーカーを全て発現しており、その発現量は培養ヒト正常角膜内皮細胞と同程度であることが示されました。次に、角膜内皮の主要機能であるポンプ機能を定量するために、ウッシングチャンバーシステムを用いた評価を行いました。その結果、ヒトiPS細胞由来培養角膜内皮様細胞は培養ヒト正常角膜内皮と同程度のポンプ機能を有していることが示されました。これまでは培養皿上での性質・機能評価が中心でありましたが、今後、生体内における角膜内皮機能(有効性)を評価するため、サルの水疱性角膜症モデルを用いた移植実験を実施していく予定です。



良好な視機能を保つ事はQOL (Quality of Life : 生活の質)の維持にきわめて重要であり、難治性の眼疾患に対する根治的治療の開発は社会的ニーズが極めて高くなっています。難治性の角膜上皮疾患や角膜内皮疾患に対しては従来から同種の角膜移植術が行われてきましたが、拒絶反応のため予後は不良であり、またドナー不足の問題も抱えています。これらの問題を解決するために、本事業ではヒトiPS(人工多能性幹)細胞を用いて角膜上皮および角膜内皮を再生し、iPS細胞を細胞源とした新規角膜再生治療法の臨床応用を目指しています。これまでのマウスiPSやES細胞から角膜上皮細胞および角膜内皮細胞への分化誘導への成果を基盤として、本研究事業では、ヒトiPS細胞から移植可能な培養角膜上皮細胞シート及び角膜内皮細胞シートを作製し、動物の疾患モデルを用いた前臨床試験によって有効性・安全性を検証します。5年以内のiPS細胞を用いた角膜再生治療の臨床研究の開始を目指します。

②iPS細胞を用いた再生心筋細胞移植による重症心不全治療法の確立
代表機関:慶應義塾大学
代表研究者:福田 恵一(ふくだ・けいいち)
        医学部循環器内科 教授



iPS 細胞を用いた再生心筋細胞移植による重症心不全治療法の確立で
代表研究者をさせていただいている 福田恵一です。
食生活の欧米化等の環境の変化に伴い、我が国の死亡原因に占める心疾患の割合は癌に次いで第二位です。しかし、重症心不全患者さんの唯一の根治療法である心臓移植に関しては全世界での移植率は年間 4000 例程度とドナー不足が深刻な問題であり、移植を待機しながら命を落とされる患者さんは少なくありません。重症心不全患者さんの予後改善のために再生心筋細胞を用いた細胞医療の確立が 過去10年間注目を集めてきましたが、残念ながら普遍的な治療とはなりえていません。成人の心臓は 1x10 9 個程度の心筋細胞から構成され、再生心筋細胞移植に必要な細胞数は少なくとも 5x10 7 個以上と想定されております。 iPS 細胞を用いて重症心不全患者さんの予後を改善しうるだけの心筋細胞を獲得し、一日でも早く iPS 細胞由来の再生心筋細胞を用いた心不全治療を実現化できるように大阪大学の澤教授のグループと力をあわせて慶應義塾大学医学部循環器内科一同の総力を挙げて取り組んでいきたい所存であります 。



心不全の治療法は確実に進歩しているものの、未だに重症心不全患者の予後は癌患者の予後と同様に悪く、唯一の根治療法である心臓移植に関しても全世界での移植率は年間 4000 例程度とドナー不足は深刻な問題です。重症慢性心不全患者の予後改善のためには再生心筋細胞を用いた細胞療法の臨床化が早急に 求められています。

慶應義塾大学医学部循環器内科では、過去10年間にわたって再生心筋細胞を用いた心疾患の治療法に関する基礎研究を行ってきました。重症心不全患者の予後を改善しうるだけの心筋細胞を獲得しうる細胞治療源として現在 iPS 細胞が注目されており、我々は移植に最適な細胞を確保するために様々な研究を行なっています。まず、 Noggin 、 Wnt 等が ES ・ iPS 細胞から心筋細胞への分化誘導に有効であることを報告しました。次いで G-CSF およびその受容体が胎生期心臓に強く発現していることから心筋の細胞分裂を増幅するオートクリン増殖因子であることを解明し、外的に G-CSF を投与することで iPS 細胞から分化した心筋細胞を大量に増やすことができることを報告しました。また、残存未分化幹細胞の混入による腫瘍化の危険性を回避するため、心筋細胞の代謝特性から ミトコンドリア蛍光色素を利用することにより心筋細胞を純化精製する方法を開発しており、免疫不全マウスにおいて移植心筋細胞が腫瘍形成をしないことを確認しました。さらに活性化T細胞とセンダイウイルスを用いることで少量の末梢血からゲノムを損傷せず、 1 か月未満で iPS 細胞を樹立する技術を確立しております。

これまで培った基礎研究によるデータを基盤に本プロジェクト では臨床応用に向けた translational research としてブタを中心とする大型動物にヒト iPS 細胞由来の心筋細胞を移植することで再生心筋細胞移植の安全性および有効性を評価します。 iPS 細胞の内の数株に対して心筋細胞への分化誘導および大量培養を実施し、純化精製した後に健常マイクロミニブタに移植します。また、組織学的にヒト iPS 細胞由来心筋細胞の生着を確認することで 心筋としての構造をもって長期にわたり生着することを確認するとともに、腫瘍形成性を観察します。治療モデルとして心筋梗塞モデルのクラウンミニブタにヒト iPS 由来心筋細胞を移植し、エコー、 CT 、 MRI により心機能を評価します。 さらに細胞数を増加しても長期間での生着および腫瘍性の問題が生じないかを確認します。純化の程度が充分かどうか、未分化幹細胞の混入がどの頻度でどの程生じるかを評価し、培養系での心筋分化誘導のプロセスが適切かどうかにフィードバックすることで臨床応用に向けたヒト iPS 細胞由来心筋細胞培養および移植法のプロトコールを確立します。



本研究はヒト iPS 細胞を用いて心筋細胞を作出し、これらを細胞移植することにより難治性重症心不全に対する新たな治療法を開発することを目標とするものです。
今回の事業を成功させるため、プロジェクトの前半には移植に用いる心筋細胞の確立のための基盤技術の開発を行います。臨床応用に備えるための iPS 細胞大量培養法の開発、高効率な心筋細胞分化誘導法の開発、 iPS 細胞由来の再生心筋細胞を純化精製したものの安全性評価 , 心筋細胞と iPS 細胞の分離法の確立、安全で有効な移植方法および技術の開発、ブタを用いた大動物での細胞移植の有効性および安全性の確立を併せて行っていきます。 5-7 年目に臨床例の第 1 例目に対し再生心筋細胞移植をすることを目指し、有効な移植法の開発に関しては分担研究者の大阪大学の澤教授のグループと連携を図って進めていきます。

③重症高アンモニア血症を生じる先天性代謝異常症に対する
  ヒト胚性幹(ES)細胞製剤に関する臨床研究
代表機関:国立成育医療研究センター
代表研究者:梅澤 明弘(うめざわ・あきひろ)
        研究所 副所長



独立行政法人国立成育医療研究センターの梅澤でございます。
「重症高アンモニア血症を生じる先天性代謝異常症に対するヒト胚性幹( ES )細胞製剤に関する
臨床研究」の研究代表者を努めます。
私どもの国立成育医療研究センターは、京都大学に次ぐ国内 2 施設目の ES 細胞樹立機関としての認定を受けて、 ES 細胞株の樹立も完了しております。 ES 細胞を用いた細胞製剤の開発に向けた準備は着々と進んでおります。この度「再生医療の実現化ハイウェイ」の研究代表者として、その責務は決して軽いものではございませんが、「 ES 細胞の製剤化」という、人類の夢にむけた研究課題に精一杯取り組んで参ります。関係各位ならびに国民の皆様方におかれましては、叱咤・激励のほどよろしく願い上げる次第であります。



本研究では小児先天性代謝異常症に対するヒト ES 細胞加工医薬品(以下ヒト ES 製剤)の開発と、安全性・有効性に関する検討を行なって参ります。具体的には、高アンモニア血症を生じる先天性代謝異常症の患者の中で低体重やドナー適応者不在等の理由により即時的な生体肝移植手術が困難な患者に対して、橋渡し的治療法としてヒト ES 製剤の移植治療を行います。その安全性評価を行うとともに、根治的生体肝臓移植手術が施行可能となるまで、高アンモニア血症による脳障害の予防や全身状態の管理を目的とした臨床研究への到達を目指します。重症高アンモニア血症を発症する先天性代謝異常症の患者様の中で生体肝移植手術が困難な症例を対象とします。予め凍結保存したヒト ES 製剤を解凍し臍帯静脈または門脈より細胞輸注(細胞移植手術)を行い、肝機能改善を図ります。

研究は、第 1 にヒト ES 細胞の分化指向性を検討し、安定で安全な分化誘導法の開発を行います。第 2 にヒト ES 製剤について、機能維持培養系を確立し、厚生労働省から施行予定であるガイダンス・指針に従い、ヒト ES 加工医薬品の臨床試験を目指します。

臨床研究・治験を行うにあたり、本研究ではエンドポイントにおける有効性を鑑みた上で、原材料及び製造関連物質、製造工程、 加工した細胞の特性解析、最終製品の形態・包装、製造方法の恒常性及び妥当性、製造方法の変更、製造施設・設備の概要、感染性物質の安全性評価、最終製品の品質管理法、試験方法のバリデーション、規格及び試験方法の妥当性、試験に用いた検体の分析結果、細胞・組織加工医薬品の非臨床安全性試験、細胞・組織加工医薬品等の効力又は性能を裏付ける試験、細胞・組織加工医薬品等の体内動態、臨床試験に関して詳細に検討し、細胞医療の安全性及び有効性に関するデータの蓄積と周辺基盤技術を構築していきます。本研究の成果は、重症高アンモニア血症を生じる先天性代謝異常症の患者様のみならず、ヒト ES 製剤を含む細胞製剤の臨床応用の前進に向けたモデルとなるものです。



独立行政法人国立成育医療研究センターは、京都大学に次ぐ国内 2 施設目の ES 細胞樹立機関としての認定を既に受けております。本研究では小児先天性代謝異常症に対するヒト ES 細胞加工医薬品の安全性・有効性に関する検討を行います。具体的には、高アンモニア血症を生じる先天性代謝異常症の患者の中で低体重やドナー適応者不在等の理由により即時的な生体肝移植手術が困難な患者に対して、橋渡し的治療法として ES 細胞加工医薬品の移植治療を行い、その安全性評価を行うとともに、根治的生体肝臓移植手術が施行可能となるまで高アンモニア血症による脳障害の予防や全身状態の管理を目的とした臨床試験への到達を目指します。

④パーキンソン病に対する幹細胞移植治療の実現化
代表機関:国立大学法人 京都大学
代表研究者:髙橋 淳(たかはし・じゅん)
        iPS細胞研究所/再生医科学研究所 教授



我々は、脳神経外科医を中心に、神経内科、分子イメージング、薬学、工学、
さらには規制科学の専門家からなるチームです。
これまで、世界に先駆けてカニクイザル ES 細胞( Takagi ら JCI, 2005 )およびヒト ES 細胞( Doi ら Stem Cells, 2012 )由来ドーパミン神経細胞の移植によって霊長類パーキンソン病モデルの行動改善に成功しました。
さらに、ヒト iPS 細胞から誘導したドーパミン神経細胞もモデルサル脳内に生着することを確認しています( Kikuchi ら JPD, 2011 )。本研究でしっかりとした非臨床データを積み上げて、一日も早く有効性の高い治療を提供したいと考えています。



本研究ではパーキンソン病に対する幹細胞移植治療の実現化を目的とし、そのための技術開発と有効性・安全性の検証を行います。



パーキンソン病は厚生労働省の特定疾患に指定された進行性神経変性疾患で、ドーパミン神経細胞の脱落により運動機能の低下が起こります。病態の進行に伴い投薬でのコントロールが不良となり、ドーパミン神経細胞の補充が必要となります。欧米では 400 例もの胎児細胞移植がすでに行われ、適応を絞れば二重盲験試験でも有効性が示されていますが、移植細胞の量や質を確保することが難しく、幹細胞の利用に期待が寄せられています。

そこで本研究では、まずは孤発性パーキンソン病患者に対する iPS 細胞自家移植を第一目標とし、平成 27 年度中の臨床研究開始を目指します。具体的には、①患者さん由来の iPS 細胞を樹立し、ドーパミン神経細胞が正常に機能するか検証します。②臨床応用可能な神経分化誘導法を開発します。③腫瘍化をなくし、かつ移植効果を高めるためにドーパミン神経細胞だけを純化する技術を開発します。④パーキンソン病のモデル動物に細胞移植を行い、行動がよくなるかどうか、腫瘍化が起こらないかどうか、などを検討します。

ドーパミン神経細胞の誘導・純化、疾患モデル動物への細胞移植と移植後の行動解析は京都大学再生医科学研究所および iPS 細胞研究所で行い、移植細胞の生着や機能をみるための画像解析は理化学研究所分子イメージング科学研究センターで行います。また、臨床応用のための規制対応や知財対策、計画書の作成などは iPS 細胞研究所および京都大学医学部附属病院と連携して進めます。



本研究の目標は、パーキンソン病に対する幹細胞移植治療を確立することです 。パーキンソン病はドーパミン神経細胞の脱落によって脳の中のドーパミン量が減少する病気です。ドーパミンの元となる L- ドーパの投与が効果を発揮しますが、病気の進行とともに薬でのコントロールが難しくなります。また、 L- ドーパからドーパミンを作るのにドーパミン神経細胞が必要なので、細胞移植でこれを補います。 要介護になった主な原因( H22 )として、 ① 脳血管疾患(脳卒中) 24.1 % ② 認知症 20.5 % ③ 高齢による衰弱 13.1 % ④ 骨折・転倒 9.3 % ⑤関節疾患 7.4 % ⑥ パーキンソン病 3.6 % ⑦ 心疾患 3.2 % ⑧ 糖尿病 2.8 %が挙げられていますが、ここまで重症になる前に細胞移植を行い、投薬と併せて患者さんが自立できる状態を長く保つことが最終目標です。また、本研究やそれに続く臨床研究で脳への幹細胞移植の有効性や安全性が明らかになるので、さらに脳卒中後遺症などに対象疾患を拡げていければと思っています。


 
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