TOP > 研究者・研究内容 > 課題A

研究者・研究内容

研究者・研究内容


短期での臨床研究への到達を目指す再生医療研究
短期での臨床研究への到達を目指す再生医療研究
1~3年目までに臨床研究に到達することを目指す、主として体性幹細胞を用いた研究です。
 
①iPS細胞由来網膜色素上皮細胞移植による加齢黄斑変性治療の開発
代表機関:独立行政法人理化学研究所
代表研究者:髙橋政代(たかはし・まさよ)
        再生医療研究チームチームリーダー



我々は網膜細胞治療において、拒絶反応のない、十分量の、機能する移植細胞を

求めて、自家iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞を得ました。すでにヒトiPS細胞から安全性の高い純化された最終分化細胞シートが得られ、臨床用の培養法や施設の準備も整っています。安全性の確認を経て臨床研究へと進みますが、これは網膜再生医療の第1歩であり、最終目標は新たな世界標準治療を作ることです。また、眼科医の悲願である変性網膜に対する視細胞移植研究もいくつかの大きなブレークスルーを経て治療の可能性が高まっています。RPE移植治療開発で培われる多能性幹細胞を用いた再生医療の経験を礎として、網膜変性疾患に対する総合的治療戦略を作っていきたいと思います。



滲出型加齢黄斑変性は網膜色素上皮細胞(RPE)の老化によって引き起こされ、脈絡膜新生血管(CNV)による高度の視力低下をもたらします。抗新生血管薬(抗VEGF剤)の治療がある程度有効ですが、RPEの障害は治療できず根治のためには再生医療(細胞移植)が必要です。RPEは他家移植では拒絶反応を引き起こすことが知られています。iPS細胞の出現によって、RPEの老化によって引き起こされた加齢黄斑変性に対し、新生血管膜を手術で抜去し障害、欠損したRPEを自分の細胞で作った若いRPEで置き換えるという根本治療が可能となるのです。
過去の研究で、動物実験レベルでは生体内で機能を発揮するiPS細胞由来RPEの質と量が確保できていますが、そのままでは臨床研究には使用できません。すべての工程で使用材料をGMP(Good Manufacture Practice)に準拠した臨床使用可能な物に変更することが必要となります。さらに臨床に使う細胞を作るためには、環境が常時管理されたCell Processing Center(CPC)で作成される必要があります。また、毎回同等品質の細胞シートができることを品質管理基準を策定して確認し、さらに、iPS細胞を用いる臨床研究では最も大事な安全性の確保が必要です。RPEは視細胞外節の貪食や各種成長因子の分泌など特有の機能を有するので、これらを数値化し品質を検討したところ、遺伝子発現パターンと合わせて毎回同じ性質の細胞ができていることを確認しました。また造腫瘍性試験も3回繰り返し、純化したRPEでは腫瘍を形成しないことも確認しています。
今後、日本特有の制度である医師法による「臨床研究」と、薬事法による「治験」という二つのトラックをうまく活用し、世界標準治療となるように、よりよい治療を開発していきたいと思います。




自家iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞移植による加齢黄斑変性治療について、基礎研究の成果を科学的根拠に基づいた医療として一日も早く提供するため、モデル動物を用いた有効性評価や品質規格化のための非臨床データを取得し、医師法にのっとった臨床研究を開始します。並行して、日米欧の規制当局との相談を経て、治験のための非臨床試験(GLP準拠)を行い、本シーズの世界標準治療としての早期提供を目指します。
具体的には、臨床応用のために、自家iPS細胞由来網膜色素上皮の①品質評価と規格化、②量の確保、③毎回同等の細胞が製造できる安定性、および④安全性(特に造腫瘍性)を確保します。また、Cell Processing Center運用、先端医療センター病院における医師法に基づく臨床研究実施のための体制整備を行います。世界におけるiPS細胞由来細胞治療の標準化を目的として、非臨床試験(GLP準拠)を実施し、治験とそれに続く実用化を推進することが目標です。

 

②滑膜幹細胞による膝半月板再生
代表機関:国立大学法人 東京医科歯科大学
代表研究者:関矢 一郎(せきや・いちろう)
        
再生医療研究センター 教授

私たちの究極の目標は変形性関節症の再生です。再生すべき部位、
その病因や悪化因子が常に複数あることが難しい点です。なかでも膝関節のクッションの
機能を有する半月板が、膝の症状や変形性関節症の進行に大きく関与し、半月板機能の
再獲得に関する必要性がとても高いということを、これまでの臨床経験から強く感じています。
そこで現在では半月板の再生医療を重要な研究課題として取り組んでいます。
今回「再生医療の実現化ハイウェイ」に採択していただいたことを契機として、半月板の修復・温存や再生治療の研究を加速させていく所存です。皆様方のご協力をよろしくお願いいたします。



半月板は膝関節にある線維軟骨で、クッションの機能を有します。 半月板損傷に対する治療の第一選択は半月板縫合術ですが、その適応は半月板手術全体の 10 %以下に限定され、また再断裂するリスクが少なくありません。
縫合術が不適応でやむなく広範囲に半月板を切除した場合、あるいは加齢により半月板の機能が低下した場合には、変形性膝関節症が生じます。半月板の損傷・変性や機能不全は若年から老年に幅広く分布し、超高齢化社会を迎えているわが国で解決すべき問題となっています。
私たちは 2000年より体性幹細胞の軟骨分化に関する研究を開始し、滑膜由来の間葉系幹細胞が自己血清でよく増殖し、軟骨分化能が高く、局所投与すると障害部位に接着し再生を促進することを多角的に明らかにしてきました。この成果を基に、 2008年より自己滑膜間葉系幹細胞による軟骨再生の臨床研究を開始し、安全性と有効性を確認しています。また 2004年より半月板再生に関する基礎研究を開始し、大型動物を用いて半月板再生に成功しています。




私たちの研究目標は、膝の半月板損傷に対して
(1) 半月板縫合術後に自己滑膜間葉系幹細胞を投与することにより、半月板縫合術の適応を広げ、半月板縫合術の治療成績を向上させる治療及び (2) すでに半月板が欠損した膝に対して自己滑膜間葉系幹細胞を投与することにより、半月板を再生させる治療を開発し、その有用性を明らかにすることです。これらの臨床研究と並行して、 (3) 変異細胞検出システム (4) ウィルス検査システムを開発し、品質管理基準の確立を目指します。さらに (5) 半月板再生機序と滑膜由来細胞優位性を解明します。

③培養ヒト角膜内皮細胞移植による角膜内皮再生医療の実現化
代表機関:公立大学法人京都府立医科大学
代表研究者:木下 茂(きのした・しげる)
        大学院医学研究科視覚機能再生外科学 教授



私は30数年にわたり角膜の難治性疾患を治療すべく様々な治療法の開発に
取り組んで参りました。その中で角膜内皮細胞が障害されることで生じる
角膜浮腫は難治性疾患であり、いつかこの疾患に対する治療法を確立したいと考えたおりました。今回我々が研究努力している角膜内皮の体性幹細胞を用いた再生医学的アプローチはある意味で水平思考そして逆説の発想を用いています。従来から行って参りました全層角膜移植あるいは角膜内皮移植にとってかわる画期的な治療法を目指しており、また患者様にとって負担の少ない手術方法を提案しています。安全で安心できかつ低侵襲な治療法は皆さんが望んでおられるものであろうと思いますが、ぜひこれを実現したく努力しておりますので我々のグループの成果を見守って頂きたく思います。



角膜内皮細胞は角膜の透明性維持に必須の細胞ですが、霊長類の角膜内皮細胞は生体内では増殖しないことが知られており、疾病や外傷により角膜内皮機能不全に陥ると、角膜が混濁し重症の視力障害をきたします。現在行われている角膜移植手術の60%以上は角膜内皮機能不全に対する手術ですが、角膜内皮機能不全に対する角膜移植の予後は不良で、新規治療法の開発が望まれています。
 我々は平成23年までに「角膜内皮機能不全は角膜内皮の組織幹細胞の枯渇によって生じ、生体外で培養した組織幹細胞を豊富に含む角膜内皮細胞移植の開発が不可欠」との着想のもと、角膜内皮機能不全に対する新規治療法の研究開発に積極的に取り組んできました。その中でRhoキナーゼ(ROCK)阻害剤が霊長類の角膜内皮細胞の増殖と基質接着性を促進することを見出し、従来は培養が困難であったヒト角膜内皮細胞の未分化性を維持した大量培養に成功しました。さらに我々はROCK阻害剤の角膜内皮細胞に対する作用を応用し、基質を用いずに培養角膜内皮細胞を眼内に注入する新しい角膜移植術考案し、ヒトと同様に生体内における角膜内皮細胞が増殖しないカニクイザルを用いた霊長類角膜内皮不全モデル細胞移植実験においてその有用性を確認しています。
 本プロジェクトにおいてはまずROCK阻害剤を配合した新規ヒト角膜内皮培養液の最適化を行い、未分化性を維持した幹細胞成分を豊富に含んだヒト角膜内皮細胞の大量培養法の確立を行います。異なるドナー角膜内皮細胞を用いた応用研究により、再現性を持ってヒトに移植適用することの可能な培養ヒト角膜内皮細胞ロットを作製し、製造・品質管理工程の最適化、特性解析、安全性試験を行います。さらに霊長類角膜内皮不全モデルを用い多数例の薬効検定試験研究でヒト培養角膜内皮細胞移植の有効性を検証し、移植方法の最適化、培養角膜内皮細胞移植の安全性を検証します。これらの検証結果を受けて「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」への申請を行い、平成25年度内には京都府立医科大学にて角膜内皮機能不全を対象とした臨床研究を開始する予定です。本研究により低侵襲かつ高機能の角膜内皮細胞移植治療の実現に大きく前進するとともに、将来的にはアジア、欧米の施設との多施設臨床研究や産業界の参画により我が国発の世界標準となる角膜内皮再生医療の確立が実現します。



現在の角膜移植手術の原因疾患の60%以上を占める角膜内皮機能不全に対して、より低侵襲かつ高機能な治療法として、生体安全性の高い低分子化合物であるROCK阻害剤の作用を利用した、基質を用いずに培養ヒト角膜内皮細胞を眼内に注入する新しい角膜内皮細胞移植治療を確立し、臨床研究を開始します。本治療法の確立により角膜内皮障害による重症視覚障害を救済する新しい治療法を患者様に提供することが可能となります。さらに将来的にはアジア、欧米の眼科施設との多施設共同臨床研究や産業界の参画により、本プロジェクトで開発する培養ヒト角膜内皮細胞の眼内注入療法が、我が国発の角膜内皮障害に対する世界標準的医療となることを目指します。


④培養ヒト骨髄細胞を用いた低侵襲肝臓再生療法の開発
代表機関:国立大学法人 山口大学
代表研究者:坂井田 功(さかいだ・いさお)
        大学院医学系研究科 教授



現在、我が国には30万人程度の肝硬変の患者さんがいると推定されています。
進行した肝硬変に対する根治治療は、肝移植しかないのが現状です。
我々は、患者さん自身の骨髄細胞を採取し、細胞を洗浄・濃縮して患者さん自身へ
点滴で戻すことで肝機能の改善が得られることを世界で初めて報告し、
その後、諸外国でも同様の有効性が認められています(自己骨髄細胞投与療法: ABM i 療法)。
ただし、入院や全身麻酔が必要なことから、この治療を受けることができる患者さんは限られます。

このためこの治療法をより進化させ、患者さんの負担を軽減した 「培養ヒト骨髄細胞を用いた低侵襲肝臓再生療法の開発」を行っています。外来通院で局所麻酔下に少量の骨髄細胞を採取し、数週間で細胞を大量に増やした後、外来通院でこの細胞を点滴により患者さんに戻し、肝機能を改善させることを目指しています。
1日でも早く、実際に患者さんを治療できるようスタッフ全員で日々鋭意努力しております。




これまでの ABM i 療法で証明した自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法を低 侵襲なものに 発展させ、重症な肝不全患者の救命を行うため、局所麻酔下に採取した少量の骨髄細胞液から肝機能改善効果のある細胞を体外で培養増殖し、末梢静脈から点滴投与する「培養ヒト骨髄細胞を用いた低 侵襲肝臓再生療法 」を開発し、次世代型の肝臓再生療法の臨床研究を開始します。
そのために、これまでのマウスを用いた基礎研究で肝機能改善効果をもたらすことが明らかとなった骨髄間葉系マーカー陽性細胞の安全性や有効性の評価を、大型動物モデル系を含めて実施し Proof of Concept(POC) を確立します。

またこれと並行して山口大学 Cell Processing Center(CPC) の整備も進め、「 ヒト幹細胞 を用いる臨床研究に関する 指針」の申請承認後に、 現行の ABM i 療法では適応外となる進行した肝硬変患者さんを対象に臨床研究を開始します。さらに、ヒト骨髄間葉系マーカー陽性細胞を効率的に培養することが可能な 有機 - 無機・ナノハイブリッド技術 を用いた培養器具の Good Laboratory Practice (GLP) 基準化にも取り組みます。




これまで我々は、肝硬変症に対する肝臓再生療法として、患者さん自身から自己骨髄細胞液を 400ml 採取して、洗浄濃縮後に同じ患者さんへ末梢静脈から点滴投与する方法( ABM i 療法: Autologous bone marrow cell infusion therapy )を世界に先駆けて開発し、国内外で実施し、その臨床的安全性・有効性を報告してきました。しかし現状の ABM i 療法は臨床的に安全性が確認され有効性が証明されていますが、全身麻酔下に骨髄細胞液を 400ml 採取する必要があるため、適応患者が限定されています。

そこで次世代型の細胞を用いた肝臓再生療法として、局所麻酔下に採取した少量の骨髄細胞液から、肝硬変に有効な細胞分画を培養し、これを末梢静脈から点滴することで治療する「低侵襲な次世代型 ABM i 療法」の開発が必要と考えています。本研究により、これまでの基礎研究で肝機能改善効果をもたらすことが明らかとなった骨髄間葉系マーカー陽性細胞を用いた低 侵襲肝臓再生療法の臨床研究を実現することで、多くの肝硬変症患者さんの予後改善に寄与することを目標とします。

 
PageTop↑