今後予想される大規模災害に対し 社会をより強くしなやかなものに。

20世紀が科学技術の発展によって経済活動の拡大と人口爆発を招いた結果、21世紀は「リスク社会」であるという指摘があります。リスク社会において安全・安心な生活基盤を守り、持続的な発展を続けていくことが人類全体に求められています。

災害や危機のない社会を作ることは理想ですが、私たちが投入できる資源には限界があります。限られた資源を使って少しでも「強くしなやかな社会」の実現を図るためには、社会にとって脅威となるリスクを同定し、社会が何に対してどう備えるべきかを明確化していかなくてはなりません。そのためには、旧来のエンジニアリングアプローチのようにハザード・曝露量・脆弱性から成る関数系として被害をとらえ、被害の予防策を講じるだけでは限界があります。むしろその後の災害対応で、災害発生後の人間の活動や時間の経緯も変数に含めて、いろいろな防災・減災のやり方を組み合わせていく「レジリエンス」のアプローチから、万が一被害が発生しても回復できる力を備えておくことも忘れてはならないことです。

本研究領域では、「コミュニティ」と「つなぐ」という2つの言葉を大切なキーワードとしています。特に広域かつ複合的な災害に対しては、既存のコミュニティの枠にとらわれることなく、産・学・公・市民などの多様な社会主体をどのようにつなぎ、それらがより一層大きな力を出せる場をいかにして作り出すか、といった視点からの検討が必要になります。人の縁を歴史的に振り返れば、私たちの社会は互助組織から始まりました。そして、近代化の中で公権力の中央集権化が進むにつれて「公」ができ、それと同時に「私」が分化するというように、進化・変化をするなかで、自助や公助といった概念が生まれました。さらには阪神・淡路大震災をきっかけにして、機能的に人がつながるといった、互助とは違う新しいかたちでの共助が生まれました。この領域としては、都市・地域の実態を捉えて重層的にいろいろな種類の助け合いを考えていきたいという思いがあります。

強くしなやかな社会の実現に向け、確実に被害の軽減につながる研究開発を進めるためには、さまざまな分野の科学技術を集めて総合化することが不可欠であるとの考え方は、多くの分野の人が賛成しているところです。いま必要なのは、社会実装を目指して、こうした考え方を実践に移すことです。平常時のリスクコミュニケーション、そして緊急時のクライシスコミュニケーションを有効に機能させるためにも、その前提となる人間や社会の本質、さらには現実の課題が持つ本質に着目し、これまで蓄積された個別の知見や技術を出発点として、それらをつなぎ、「強くしなやかな社会」の実現を目指した社会実装を行おうとする試みを数多く世に送り出していきたいと考えています。