成果概要

楽観と悲観をめぐるセロトニン機序解明2. 楽観・悲観のセロトニンサブシステムの光操作

2022年度までの進捗状況

1.概要

本研究開発テーマでは、行動しているマウスの脳を外部から直接コントロールします。遺伝子改変マウスを用いて、注目する脳領域の神経細胞に光を当てることで神経活動のon/offを操作するオプトジェネティクス(光遺伝学)という最新技術を用いて、こころの中の楽観・悲観をコントロールすることに挑戦しています。実験ではマウスが将来的なゴールのために一所懸命頑張っている最中のセロトニン神経活動を光で刺激し、行動や投射先脳領域の神経活動への影響を観察します。注目する脳領域はセロトニン神経の起始核である背側縫線核、そして投射先である内側前頭前野、前頭眼窩野、扁桃体です。これらの脳領域は感覚入力から行動選択、意思決定を組織する神経基盤として知られ、わたしたちのこころを生み出す重要な脳領域です。我々独自の仮説を最新技術で検証し、「きっとうまくいく!」を生み出すセロトニン神経メカニズムを明らかにします。本研究開発テーマの達成はムーンショット目標9で目指すこころの活力の増大に繋がる技術の開発に貢献します。

仮説:将来報酬、将来罰回避のための辛抱行動にはセロトニンを含む異なる神経回路が機能する

2.2022年度までの成果

2.1 背側縫線核セロトニン神経光操作による行動変化

(光操作:光照射で特定神経のみ刺激する)

1.セロトニン活性化で辛抱強くなる
「チャンスの神様は前髪しかない」とはよく言いますが、「待てば海路の日和あり」もまた大切な教訓です。我々はこれまでの研究で、マウスが焦らずじっと時を待つことで将来的に報酬が得られることが予測されるとき、光操作でセロトニン神経を活性化させると、より長く待てるようになる(辛抱強くなる)ことを明らかにしました。(Miyazaki et al., Curr Biol 2014)

この辛抱強さを促すセロトニンは、投射先である内側前頭前野と前頭眼窩野では異なる働き方をしていることも突き止めました。(Miyazaki et. al., Sci Adv 2020)これら我々独自の研究成果が本研究開発テーマで検証する仮説の根拠となっています。

2.セロトニン抑制で諦めやすくなる
光操作では特定の神経を活性化させるだけではなく抑制も可能です。同様の行動中にセロトニン神経を抑制させると、報酬を信じて待つ時間が短くなる(諦めやすくなる)ことも確認しました。

3.今後の展開

2.2 セロトニン神経光操作による神経活動変化

今後はこれらの実験と並行し、神経ネットワークレベルでこの仕組みを理解するために、背側縫線核セロトニンが各投射先にどのような影響を及ぼすのかを調べます。

  1. 光操作でセロトニン入力を抑制し、各投射先での神経活動への影響をファイバーフォトメトリーで観察します。
  2. 光操作でセロトニン入力を活性化、或いは抑制し、各投射先での神経活動への影響を小型蛍光顕微鏡カメラで観察します。

(宮崎勝彦、宮崎佳代子: 沖縄科学技術大学院大学)