成果概要

楽観と悲観をめぐるセロトニン機序解明[2] 楽観・悲観のセロトニンサブシステムの光操作

2023年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、行動しているマウスの脳を外部から直接コントロールします。遺伝子改変マウスを用いて、注目する脳領域の神経細胞に光を当てることで神経活動のon/offを操作するオプトジェネティクス(光遺伝学)という最新技術を用いて、こころの中の楽観・悲観をコントロールすることに挑戦しています。実験ではマウスが将来的なゴールのために一所懸命頑張っている最中のセロトニン神経を光で刺激し、行動や投射先脳領域の神経活動への影響を観察します。注目する脳領域はセロトニン神経の起始核である背側縫線核、そして投射先である内側前頭前野、前頭眼窩野、扁桃体です。これらの脳領域は感覚入力から行動選択、意思決定を組織する神経基盤として知られ、わたしたちのこころを生み出す重要な脳領域です。
本研究開発項目ではこころに「きっとうまくいく!」を生み出すセロトニン神経メカニズムを明らかにします。本研究開発項目の達成はムーンショット目標9で目指すこころの活力の増大に繋がる技術の開発に貢献します。

仮説:将来報酬、将来罰回避のための辛抱行動にはセロトニンを含む異なる神経回路が機能する
仮説:将来報酬、将来罰回避のための辛抱行動にはセロトニンを含む異なる神経回路が機能する

2. これまでの主な成果

2.1 背側縫線核セロトニン神経光操作による行動変化

(光操作:光照射で特定神経のみ刺激する)

1.セロトニン活性化で辛抱強くなる
これまでの研究からマウスが焦らずじっと時を待つことで将来的に報酬が得られることが予測されるとき、光操作でセロトニン神経を活性化させると、より長く待てるようになる(辛抱強くなる)ことが明らかになりました(Miyazaki et al., Curr Biol 2014)。この辛抱強さを促すセロトニンは、投射先である内側前頭前野と前頭眼窩野では異なる働き方をしていることも突き止めました(Miyazaki et. al., Sci Adv 2020)。2023年度には、この研究にさらに進展がありました。
2.セロトニン抑制で諦めやすくなる
光操作では特定の神経を活性化させるだけではなく抑制も可能です。2023年度にはこの技術を用いてセロトニン神経を抑制し、行動への影響を調べました。
実験では、マウスは指定された場所にノーズポーク(鼻先を入れる)しながら数秒間じっと待ち続けることで将来的に餌を獲得することができる条件を学習します。マウスがノーズポークをしている時、光操作で背側縫線核セロトニン神経活動を抑制させました。この結果、マウスはエサが出てくる前にノーズポークを止めてしまうことが増えました。セロトニン神経の活動を抑制させることで、いつでてくるか分からない報酬を信じて待つことが難しくなる(諦めやすくなる)ことが実験的に明らかになりました(Taira et al., bioRxiv 2024)。
図

3. 今後の展開

2.2 セロトニン神経光操作による神経活動変化

神経ネットワークレベルでこの仕組みを理解するために、背側縫線核セロトニンが各投射先にどのような影響を及ぼすのかを調べます。

1. 光操作でセロトニン入力を抑制し、各投射先での神経活動への影響をファイバーフォトメトリーで観察します。

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2. 光操作でセロトニン入力を活性化、或いは抑制し、各投射先での神経活動への影響を小型蛍光顕微鏡カメラで観察します。

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(宮崎勝彦、宮崎佳代子: 沖縄科学技術大学院大学)