成果概要

こころの可視化と操作を可能にする脳科学的基盤開発2. オプトジェネティクスによる脳機能ネットワーク光操作

2022年度までの進捗状況

1.概要

本研究開発テーマでは、オプトジェネティクスと呼ばれる、神経活動を光で制御する技術を利用し、脳機能ネットワークに人為的に変化を生じさせます。その結果観察されるマウスの行動の変化を解析することで、脳機能ネットワークがどのように「こころ」の変化に対応し、行動を変化させるに至るかを明らかにします。
本研究開発テーマで開発する要素技術は、マウスの頭蓋の外側から、脳の多点を同時に光刺激を与えることによる脳機能ネットワークの光操作法です。そのために、脳の形状の3次元計測を備えたホログラフィック多点同時細胞光刺激、及び3次元観察システムの構築を行っています。

図 全脳をカバーする広視野ホログラフィック顕微鏡
図 全脳をカバーする広視野ホログラフィック顕微鏡

2.2022年度までの成果

脳の形状に基づいて正確な部位に光刺激を行い、高速かつ3次元の脳内観察を可能にするシステムを構築しました。従来の光学系での光刺激研究では小さな脳領域に限定されていましたが、この研究では1cmにわたるマウス大脳皮質全体に適用するため、低倍率の対物レンズを使用してホログラフィック光刺激が可能な実験系を構築しました。構築したシステムは、蛍光ビーズを用いた性能評価で、6.6mmの広い視野角をカバーでき、さらに20μmの高い空間分解能で光照射と蛍光観察ができることを確認しました。
このシステムを用いて、マウスの頭蓋骨に塗布した蛍光ビーズの照射実験を行い、ホログラフィックな光刺激が頭蓋骨を通して可能であることも示しました。

図 (左) LED光による一様照明の蛍光像。赤い丸で囲んだ部分に蛍光ビーズ1個1個からの蛍光像が見られます。(右)頭蓋骨越しに蛍光ビーズを複数選択し、ホログラムにより正確なビーズ位置に同時光刺激しました。頭蓋骨越しにビーズを選択的に正しく光刺激できていることがわかります。
図 (左) LED光による一様照明の蛍光像。赤い丸で囲んだ部分に蛍光ビーズ1個1個からの蛍光像が見られます。(右)頭蓋骨越しに蛍光ビーズを複数選択し、ホログラムにより正確なビーズ位置に同時光刺激しました。頭蓋骨越しにビーズを選択的に正しく光刺激できていることがわかります。

また、低倍率対物レンズを用いた生きたマウスへのホログラフィック光刺激に向け、刺激に対する応答を検出するマクロカルシウムイメージング系を構築しました。マウスの大脳皮質の応答を観察し、刺激に対する脳の反応を検知できることを確認しました。

図 マクロカルシウムイメージングによる感覚刺激に対するマウス脳のカルシウム応答の可視化の様子。下図の矢印の時点で眼窩神経に電気刺激を行いました。
図 マクロカルシウムイメージングによる感覚刺激に対するマウス脳のカルシウム応答の可視化の様子。下図の矢印の時点で眼窩神経に電気刺激を行いました。

3.今後の展開

マウスの大脳皮質神経ネットワークを操作する技術を開発していきます。すなわち、マウス皮質内の多点を同時に光刺激するホログラフィック多点同時細胞光刺激、及び3次元観察システムを構築します。
(的場 修、内匠 透: 神戸大学)