成果概要
こころの可視化と操作を可能にする脳科学的基盤開発[2] オプトジェネティクスによる脳機能ネットワーク光操作
2024年度までの進捗状況
1. 概要
本研究開発では、オプトジェネティクスと呼ばれる、「オプトジェネティクス」と呼ばれる技術を使い、脳の神経活動を光でコントロールすることで、「こころの状態」がどのように変化するのかを解き明かすことを目指しています。
たとえば、ホログラフィック技術を利用した顕微鏡を用いて、特定の脳のネットワークを光で刺激したときに、マウスの行動や気分がどう変わるのかを観察し、「こころ」と脳のつながりを科学的に探っています。

2. これまでの主な成果
マウスの頭の外側からでも、脳のいくつもの場所に同時に光をあてて刺激できる技術を開発しています。そのために、3次元で脳の形を測定し、光を正確に届ける仕組み(ホログラフィック多点光刺激システム)を構築しました(下図)。開発した装置では、細かいポイントに光を同時に当てて、最大で1,350個もの細胞を一度に刺激できることが確認されました。

マウスの頭蓋骨の上に蛍光ビーズを塗り、その光の散らばり方を利用して、「どこに光を集中させるかを細かく調整できる技術(位相共役照明))も確立しました(下図)。この技術により、光が散乱する頭蓋骨の下にある細胞だけを選んで照らすことが可能になりました。実際にマウスでの照射実験も行い、成功しています。

また、脳の活動を見る赤色の光と、神経を刺激する青色の光を干渉させずに使えるよう、2種類の光を使う光学系を設計・導入しました。必要な遺伝子を持った4種類のマウスを掛け合わせて、観察と操作が両方できる「クオドラTgマウス」を作製しました。このマウスを使って、脳の特定の領域を光で刺激し、そのときの行動や脳の活動の広がりを測定しました。前頭前野や帯状回などの脳の内側にある領域が、自発的な歩行を引き起こす鍵になることがわかりました。刺激によって実際に歩行が始まったときには脳全体の活動が一斉に高まる(同期する)ことが確認されました。一方、同じ刺激でも歩行が起きなかったときには、脳の活動の変化はほとんど見られませんでした。
3. 今後の展開
今後は、こうした技術を使って、マウスの脳の中のネットワーク(特に大脳皮質)を精密にコントロールし、そのときの行動や「こころの状態」がどう変化するかを詳しく調べていきます。これらの研究を通じて、「こころの変化」や「行動のきっかけ」が脳のどのネットワークで起きているのかを明らかにすることを目指しています。将来的には、人間の脳や心の病気の理解や治療法の開発にもつながる可能性があります。
(的場 修、内匠 透: 神戸大学)