成果概要

こころの可視化と操作を可能にする脳科学的基盤開発1. 脳機能ネットワーク動態を可視化するVRシステムの確立

2022年度までの進捗状況

1.概要

この研究開発テーマでは、行動中のマウスに多様な刺激を与え、脳機能ネットワーク動態を可視化することができるバーチャルリアリティ(VR)システムを開発します。さらに、2台のVRシステムを組み合わせてメタバース空間を構成することで、社会的環境においてマウスが他のマウスとコミュニケーションを行う際の「こころ」の状態を脳機能ネットワークの変化として定量化します。

バーチャル空間を探索するマウスのイメージ
バーチャル空間を探索するマウスのイメージ

2.2022年度までの成果

これまでに内匠グループで構築した視覚課題用VRシステムをベースとして、他の感覚情報として、ひげ刺激や、匂い刺激を統合・分離して与えられる「マルチモーダルVRシステム」を構築しました。マウスに多様な感覚刺激を与えリアルタイムで可視化できるシステムの構築はユニークであり、国際一流誌であるCell Reportsに成果として掲載されました。視覚刺激によるVR空間を自由に動くマウスの大脳皮質神経活動をリアルタイムで記録することができます。マウスの動きに対する大脳皮質神経ネットワーク動態を記録することに成功しました。また、機械学習を利用して、神経ネットワーク動態の画像から、マウスの行動を予測することができました。さらに、自閉症モデルマウスを解析したところ、運動系モジュールを中心にした変化が見られました。これは、自閉症における運動のぎこちなさを示唆するもので、機械学習を利用すると、野生型と自閉症モデルの予測も可能になり、新規診断法の基盤技術と考えられます。
VRシステムの仮想空間の一区画にマウスアバターを表示し、マウスの動きを模したアニメーションおよびマウス尿の匂い情報を加えることで、被験マウスが社会性相互作用を示すことを検証しました。対照群には動作を加えたオブジェクトモデルを用い、中立性の匂い情報を与えました。視覚、触覚、嗅覚等、各刺激の組み合わせから、社会性相互作用に関わる感覚入力情報(社会性感覚刺激)を解析しました。

さらに、仮想空間における2個体のマウスの社会行動を調べるために、感覚刺激を分離・統合できるマルチモーダルVRを二台使用し、インタラクティブ型ソーシャルバーチャルリアリティ(iSVR)システムのプロトタイプを構築しました。2台のVRシステムをコンピュータ上で連動させることで、2個体の被験マウスがより現実に近いかたちで能動的・受動的に社会性相互作用を示すことができます。

インタラクティブ型ソーシャルVR(iSVR)システム
インタラクティブ型ソーシャルVR(iSVR)システム

3.今後の展開

本iSVRシステムを用いて、仮想空間で社会性相互作用を示したときのマウスの皮質機能ネットワークと社会性の行動表現型を調べることが可能になります。すなわち、VRシステムを同期させることで二個体から同時に脳活動と行動を記録することができます。これまでの手法では解析することのできなかった社会性相互作用時の脳機能ネットワーク動態を本システムによって明らかにすることが期待されます。
(内匠 透: 神戸大学)