成果概要
こころの可視化と操作を可能にする脳科学的基盤開発[1] 脳機能ネットワーク動態を可視化するVRシステムの確立
2024年度までの進捗状況
1. 概要
この研究開発項目では、マウスが「仮想空間(VR)」内で自由に行動する様子を観察しながら、脳がどのように働いているのかを「見える化」することを目指しています。さらに、2台のVRシステムをつなぎ合わせることで、まるでマウス同士が仮想世界の中で出会い、関わり合うような「マウスメタバース」空間をつくり出しました。こうした環境でマウスが社会的なふるまいをするとき、「こころの動き」が脳の中でどう表れているのかを、科学的に測定・分析します。

2. これまでの主な成果
脳の活動を光で見る技術(カルシウムイメージング)とVRを組み合わせて、動いているマウスの脳の働きをリアルタイムで観察できる仕組みをつくりました。VR空間で自由に動くマウスが、視覚刺激にどう反応するかを記録し、脳のネットワークの動きと行動との関係を明らかにしました。また、AI(機械学習)を使って、脳の活動パターンからマウスの行動を予測することにも成功しました。さらに、自閉症の特徴を持つマウスでは、特に運動に関わる脳の働きに変化が見られました。これは、自閉症に見られる運動のぎこちなさと関係していると考えられます。

VR空間に「マウスの動き」と「匂い(尿)」の情報を組み合わせたマウスのアバターを配置することで、実際のマウスが社会的に反応するかどうかを検証しました。匂いや視覚・触覚など複数の感覚刺激を組み合わせて、どの刺激が社会性に影響するかを探っています。
さらに、2匹のマウスが同時に参加できる「インタラクティブ型ソーシャルVR(iSVR)」を構築しました。2台のVRを連動させることで、より自然に社会的なふるまいができる仮想空間を再現しています。

3. 今後の展開
このiSVRシステムを使えば、2匹のマウスが仮想空間でやり取りする中で、それぞれの脳がどのように働いているかを同時に記録することができます。これにより、これまで観察が難しかった「社会的なやり取り」の最中に脳がどう変化しているのかを詳しく調べることが可能になります。「こころ」と「脳のはたらき」とのつながりを科学的に解明する大きな一歩となることが期待されます。
(内匠 透: 神戸大学)