成果概要

データの分散管理によるこころの自由と価値の共創[2] 人間研究のための分散データ基盤の構築

2024年度までの進捗状況

1. 概要

分散 PDS を活用し低コストで離脱率の少ない縦断的発達研究のための方法を開発します。具体的には、独立した複数の研究機関が研究協力者を共有しながら発達研究を行う上での課題を整理し、課題解決に向けた研究基盤を構築します。
まず、3 つ以上の研究機関が分散管理に基づいて間接的に連携する方法を確立し、固定された研究機関間の連携にとどまらず、研究の進展に応じて連携体制をダイナミックに変更しながら研究を効率的に展開できることを示します。つまり、独立した研究機関がそれぞれの観点からデータを生成し、それらを分散管理に基づいて運用する仕組みを構築します。個人のデータを本人の手もとで名寄せして本人(の PAI)が管理運用するのが PD(パーソナルデータ)の分散管理ですから、特に本人に有用な PD を集約したデータベースがほとんどない分野では、本人に有用な PD を新たに生成して分散管理の下で柔軟に運用できるようにすることが重要です。
そこで、新たな PD を本人に集約してその開示を実験実施者など特定の連携先に限ることにより、研究手法や着想等の研究者側に帰属する部分の公開を防ぐ等の柔軟な制御が分散管理の下で可能であることを実証します。さらに、分散管理がなければ不可能な発達研究を実践し成果を挙げることによってこの方法の有効性を実証します。

2. これまでの主な成果

  • オンライン認知実験プラットフォームGO-E-MONの機能を拡張し、AWARE FRAMEWORKを使えるようにしました。また、jsPsych等の心理実験用ライブラリ、LINE等のメッセージアプリとの連携を強化しました。この成果は「心理学評論」に投稿・採択されました。多くの心理学者・発達科学者に分散PDSのメリット・デメリットを周知することができました。
  • 心理学で分散PDSを活用する上での課題を質問紙調査によって行いました。現状では被験者にとっても研究者にとってもPDが分散管理されることのメリットが理解されにくく、金銭的インセンティブに頼りつつ研究を行っていく必要があることがわかりました。ただし、一旦社会的に認知されれば一気に人間研究のための重要なデータ管理方法になると予想されます。この成果は「心理学研究」に投稿・採択されました。
  • 研究機関が発達研究を実施しやすくすることを目的とした(公益型)一般社団法人「赤ちゃんラボ5.0」を設立しました。(2024年6月3日に設立、代表理事、開一夫)
  • 成人を対象とした「先延ばし行動」(*)とストレスに関する研究(質問紙調査)から「今よりも未来のストレスが増えることはない」と信じる人は、深刻な先延ばし癖が少ないことを発見しました。ここでは新指標である「時系列的ストレス観」と「時系列的幸福観」を導入しました。楽観的な未来観を持つことが、先延ばし癖の改善に寄与する可能性が示唆されます(この研究はScientific Reportsに掲載され、国内外の多数のメディアに取り上げられました)。
「楽観的・悲観的」のイラスト
楽観的な人の方が深刻な先延ばし癖を持ちにくい
(* 先延ばしは「課題を先送りすることによって不適応な結果を招くとわかっていても先延ばしにしてしまうこと」と定義されます.)

3. 今後の展開

長期的・縦断的な発達研究のためには、個人(子ども)に名寄せされたデータを長期的かつ安全に運用することが必須です。これには分散PDSを用いるのが最善です。発達認知科学において分散管理されたデータを安全に活用する方法はこれまで見当たらず、世界に先駆けた研究と考えられます。たとえば、「親のストレスと「子どもの将来に関する未来観」といった視点を分散PDSを使うことで明らかにされることが期待できます。

(開 一夫: 東京大学、森口 祐介: 京都大学、鹿子木 康弘: 大阪大学)