成果概要

データの分散管理によるこころの自由と価値の共創2. 人間研究のための分散データ基盤の構築

2022年度までの進捗状況

1.概要

分散PDSを活用し低コストで離脱率の少ない縦断的発達研究のための方法を開発します。具体的には、独立した複数の研究機関が研究協力者を共有しながら社会的認知能力の発達研究を行う上での課題を整理し、課題解決に向けた研究基盤を構築します。
まず、3つ以上の研究機関が分散管理に基づいて間接的に連携する方法を確立し、固定された研究機関間の連携にとどまらず、研究の進展に応じて連携体制をダイナミックに変更しながら研究を効率的に展開できることを示します。つまり、独立した研究機関がそれぞれの観点からデータを生成し、それらを分散管理に基づいて運用する仕組みを構築します。個人のデータを本人の手もとで名寄せして本人(の PAI)が管理運用するのがPD(パーソナルデータ)の分散管理ですから、特に本人に有用なPDを集約したデータベースがほとんどない分野では、本人に有用なPDを新たに生成して分散管理の下で柔軟に運用できるようにすることが重要です。
そこで、新たなPDを本人に集約してその開示を実験実施者など特定の連携先に限ることにより、研究手法や着想等の研究者側に帰属する部分の公開を防ぐ等の柔軟な制御が分散管理の下で可能であることを実証します。さらに、分散管理がなければ不可能な発達研究を実践し成果を挙げることによってこの方法の有効性を実証します。

2.2022年度までの成果

我々が開発中のオンライン認知実験プラットフォームGO-E-MONの機能を拡張し、心理学や発達科学などの研究者に分散PDSに基づくデータ収集のメリットを理解してもらうことに注力しました。GO-E-MONは橋田PIによって開発されたPersonaryを基盤とするオンライン実験やオンライン調査のためのプラットフォームです。人間研究のための分散データ基盤としては、長期間に渡って実験プラットフォームを維持・運用していく必要があります。一方で、ChatGPTをはじめとするAI関連技術の進展には目覚ましいものがあり、実験プラットフォームの長期的な維持・運用のためには、流通している様々な情報サービスと連携することが必須です。今年度は、jsPsych等の心理学実験のためのオンライン実験ライブラリやLINE等のメッセージアプリ等の連携を強化しました。
現在、GO-E-MONを東京大学、京都大学、大阪大学の3機関で運用し、アンケート調査のデータと実験室実験データを個々の実験参加者に名寄せされた形で活用するため規則の制定をしています。2022年度は、

  • 成人を対象とした社会的認知に関する研究(質問紙)
  • 成人を対象とした「先延ばし行動」(*)とストレスに関する研究(質問紙)
    (* 先延ばしは「課題を先送りすることによって不適応な結果を招くとわかっていても先延ばしにしてしまうこと」と定義されます。)

においてGO-E-MONを活用することを試みました。心理学や発達科学など情報分野を専門としない研究者がGO-E-MONを活用する際での課題(インタフェースやプログラミングなど)が明らかになりました。

3.今後の展開

今後は、分散PDS用いて長期的・縦断的発達研究を実施します。長期的・縦断的な発達研究のためには、個人(子ども)に名寄せされたデータを長期的かつ安全に運用することが必須です。これには分散PDSを用いるのが最善です。加えて、発達科学・認知科学において分散管理されたデータを安全に活用する方法はこれまで見当たらず、世界に先駆けた研究と考えられます。たとえば、親の日常的養育行動と子の社会的認知の発達変化との関係は認知科学における重要な問題であり新しい研究方法によって明らかにされることが期待できます。
(開 一夫: 東京大学、森口 祐介: 京都大学、
鹿子木 康弘: 大阪大学)