成果概要

データの分散管理によるこころの自由と価値の共創[1] パーソナルデータ(PD)の分散管理

2023年度までの進捗状況

1. 概要

PDを本人に集約して管理運用する仕組みであるPLRおよびこれを組み込んだアプリの機能を改良・拡張して利便性とセキュリティを高めるとともに、利用者との対話に応じて多様なサービスを仲介しダークパターンやフェイクによる行動操作を阻止するパーソナルAI(PAI)を開発します。平行して、分散管理の法的・社会的な妥当性と受容性の検討を進め、それに基づいてPLRとPAIを改善するとともに、PAIのガバナンスの仕組みを国際標準化し、こころの自由を守るPAIを社会実装します。

2. これまでの主な成果

PLRライブラリとそれを組み込んだアプリを改良・拡充し、分散管理に基づく乳幼児健診等のサービスの実証実験を行い、家族介護支援の小規模な実運用も行ないました。また、PDを取り扱うMS9の各プロジェクトに対し、PLRソフトウェアの利用法を説明し、分散管理の導入方法について協議しました。これにより、3つのプロジェクトにおいて分散管理の導入準備を進めました。
しかし、当初の計画では、分散管理の価値を実証した後にPAIの開発とガバナンスの研究を進めるつもりでしたが、PAIが右図のように対話を通じてさまざまなサービスを仲介することによって発生するPDが利用者の手元に集約されて分散管理がもたらされることがわかりました。PAIは既存の技術で実現できてデジタルデバイドを解消するので急速に普及すると考えられますから、PAIの開発とガバナンスの研究に急いで取りかかる必要があります。

イラスト

PAIを社会実装する際の理論的根拠となる自己情報のコントロールに関連する国内外の法制度・法理論の最新動向の調査に関する研究対象・項目の整理および選定を実施し、ヨーロッパ、北米、東アジア・東南アジアの3地域に調査対象国を絞り込んだ上で、国内外の研究者に調査と報告書の作成を依頼し、提出された報告書を踏まえて報告者全員とワークショップを行いました。ワークショップで顕出された課題もフォローしつつ、自己情報コントロールに関連する法制度・法理論の国際的な動向をワーキングペーパーにまとめました。
2022年度の予備的定量調査に基づく製造企業のPD分散管理に関する仮説構築と、本プロジェクトで対象とするサービスの主なステークホルダーへのヒアリングを実施しました。加えて、スウェーデンの研究者を日本に招聘し、PD保護と社会受容性の両立に向けた議論を行いました。その結果、製造企業がPD活用による高次サービス(=価値共創活動)を目指す上で、「不確実性回避」「長期視点」「ものづくり文化」がサービスの必要性認識を高め、より高度なサービスビジネスに到達するというモデルを構築しました。
PAIがサービスを仲介すれば、サービス提供者は利用者の認知バイアス等に付け込んで行動を操作することができないので、こころの自由が守られます。しかしその前提としてPAIが適正にガバナンスされている必要があります。PAIの重大なリスクを前以て具体的に予測し尽くすことはできないので、そのガバナンスは、PAIを運用しながらそのサービスの質を評価し続けるというアジャイルなものになります。そのため、分散管理によって本人に集約されたPDをサービスの監査者が随時収集・分析して各サービス(PAIのサービスを含みます)が利用者にもたらすメリットとデメリットを明らかにする体制を構築すべきでしょう。その仕組みを国際標準化して何らかの強制力を持たせる必要があると考えられます。

3. 今後の展開

2024年度は、PAIの技術的な実現可能性を確認し、PAIとそのガバナンスの仕組みの設計を進めます。利用者との対話に応じて適切な行政サービスを仲介(選定・実行)するPAIを詳細設計する予定です。また、PDの分散管理の法的位置付けと社会受容性の検討に加えて、PAIのガバナンスに関する国際標準化のために関連する法規や国際規格およびPAIの社会受容性について調査します。国際標準化プロジェクトを2025年に立ち上げる予定です。

課題推進者:
橋田 浩一: 理化学研究所
山本 龍彦: 慶應義塾大学
戸谷 圭子: 明治大学