成果概要

データの分散管理によるこころの自由と価値の共創1. パーソナルデータ(PD)の分散管理

2022年度までの進捗状況

1.概要

データPDを本人に集約して管理運用する仕組みである分散PDSライブラリPLR(Personal Life Repository)およびこれを組み込んだアプリの機能を改良・拡張して利便性とセキュリティを高めるとともに、利用者本人からのPDの継続的取得と本人向けサービスを担うパーソナルAI(PAI)を開発し、PDの分散管理に基づく複数の個人向けサービスを社会実装します。平行して、分散管理の法的・社会的な妥当性と受容性の検証や開発したシステムの堅牢性、セキュリティ等の検証を進め、それに応じてこれらのシステムやサービスを修正・改善します。これに基づいて各個人に適した公共的サービス等をPAIが抽出する分散マッチングを実運用します。

2.2022年度までの成果

分散PDSライブラリPLRとそれを組み込んだアプリの機能の整備を進めました。また、個人が自分のPDを自分の情報機器で管理しサービス提供者と適宜共有して活用する分散型サービスの実証実験をヘルスケアについて実施し、また行政サービスについても他システムとPLRを連携させる際に両者の間でPDを共有する利用者を管理できることを確認しました。さらに、ムーンショット目標9の他の研究プロジェクトのPM等に分散管理のメリットを説明し、分散管理に基づきPDを本人のために活用することによってPDの管理を本人に委ねることで、管理のコストとリスクが低減しデータの活用が容易になることについて理解が得られました。
分散管理の法的妥当性については、(1)次年度以降の調査に備え、研究対象を整理・選定し、(2)PDの分散管理やPAIのELSI論点、とくに法的論点を整理しました。(1)について、国内外の法学研究者との面談・研究会の実施等を通じて、次年度以降の調査に必要な研究体制をおおむね構築することができました。また、(2)については、研究会・ワークショップ等により、次年度以降に取り組むべき課題が明らかになりました。
分散管理の社会受容性については、個人の自己情報コントロールに関する企業・個人の意識の現状理解とあるべき姿との現状乖離把握を目的として、(1)先行研究調査および定性調査、(2)日本と北欧の製造企業を対象とした予備的定量調査を実施しました。(1)では、文化的背景に応じた日本と北欧の個人のPD提供に対する認識の違い(特に、日本は不確実回避傾向が高い)や、北欧のデジタル化成功要因やPDの取り扱いに関する法制度についての理解を深めることができました。(2)では、日本と北欧の製造企業の法制度に対する認識の違いについて示唆を得ました。
また、PAIによるサービスを含む多様なサービスのガバナンスのための右図のような仕組みを定式化しています。AIの重大なリスクを前以て具体的に予測し尽くすことはできないので、AIを運用しながらアジャイルにリスクに対応する必要があります。そのため、分散管理によって本人に集約されたPDをサービスの監査が随時収集・分析して各サービスが利用者にもたらすメリットとデメリットを明らかにする体制を構築すべきでしょう。この分析のためにはサービスから利用者への介入に関するデータも必要なので、そのようなデータも含むようにデータポータビリティの概念を拡張する必要があります。

3.今後の展開

2023年度は、PDの分散管理に基づく公共的サービスを実運用し、PDを他者に開示せずに各個人が受けられる行政サービスを検索する分散マッチングの方式を検討します。また、PDの分散管理の法的・社会的検討を融合することにより、分散管理およびPAIの法的・倫理的妥当性に関する課題を明らかにします。さらに、拡張されたデータポータビリティに関する国際標準化プロジェクトの立ち上げを図り、法制化を目指します。
課題推進者:
橋田 浩一: 東京大学
山本 龍彦: 慶應義塾大学
戸谷 圭子: 明治大学