成果概要

量子計算網構築のための量子インターフェース開発1. ダイヤモンド量子メモリ

2022年度までの進捗状況

1.概要

本プロジェクトでは、分散型量子コンピュータの実現に向けた量子コンピュータと量子通信の統合システムを目指し、超伝導量子コンピュータチップを光ファイバー量子通信で接続する量子インターフェースを開発しています(図1)。量子メモリとオプトメカニカル結晶をコアとし、ダイヤモンド成長、ナノ加工から3D実装まで一貫開発します。本研究開発テーマでは、量子メモリの基本機能となる量子もつれ光源開発、誤り耐性万能量子ゲート操作、完全ベル測定の実証、ピエゾ構造作製、ダイヤモンド高純度結晶成長、色中心探索を行います。

図1.量子コンピュータ間の光ファイバー量子通信
図1.量子コンピュータ間の光ファイバー量子通信

2.2022年度までの成果

研究開発課題1:ダイヤモンド量子メモリの研究開発
  • 量子もつれ光源の開発
    ダイヤモンド中の窒素空孔(NV)中心を用い(図2)、光子と電子の間の量子もつれ生成を、目標とした85%以上を大きく上回る98%の忠実度で実現しました。
  • 量子メモリの誤り耐性万能量子ゲート操作
    NV中心の電子スピンに対し幾何学的量子操作を行い、誤り耐性のある万能量子ゲート操作を目標とした99.6%以上を大きく上回る99.97%の忠実度で実現しました。
  • 量子メモリ内での完全ベル測定
    二つの炭素核スピン間の完全ベル測定を、目標とした87%以上を上回る90%の忠実度で実現しました。
  • レーザー照射色中心生成
    ナノ構造への決定論的な量子メモリ形成に向け、高強度超短パルスレーザー光の照射によりNV中心の核となるGR1欠陥の生成に成功しました。
図2.ダイヤモンドNV中心に内蔵された量子システム
図2.ダイヤモンドNV中心に内蔵された量子システム
研究開発課題2:ダイヤモンド量子構造の研究開発
  • ダイヤモンドナノ構造の作製
    電子線描画装置によるサブミクロンパターン形成技術開発を実施し、ダイヤモンドオプトメカニカル共振器や微細櫛形電極(IDT)などのナノ構造を作製しました。
  • ダイヤモンドピエゾ構造の作製
    窒化アルミニウム(AlN)/ダイヤモンド積層膜上にIDT電極を形成することで表面弾性波素子(SAW)を作製し(図3)、~5 GHzの音波(弾性波)発信に成功しました。
図3.(左)2ポートダイヤモンドSAWデバイス、(右)1ポートデバイスでの電極の拡大図
図3.(左)2ポートダイヤモンドSAWデバイス、(右)1ポートデバイスでの電極の拡大図
研究開発課題3:ダイヤモンド量子結晶の研究開発
  • ダイヤモンド高純度結晶成長
    NV中心について、電荷状態を安定化およびスペクトル拡散を低減するためのダイヤモンド高純度結晶成長および不純物制御を行いました。
研究開発課題4:ダイヤモンド色中心の研究開発
  • ダイヤモンド色中心の探索
    主流のNV中心、SiV中心の他にGeV中心、SnV中心、Pb中心を形成するためのビーム開発を行いました。NV中心近くに炭素を打ち込むためのL-アルギニンビーム形成に成功しました(図4)。
図4.ダイヤモンドへのL-アルギニンイオン注入
図4.ダイヤモンドへのL-アルギニンイオン注入

3.今後の展開

量子メモリをダイヤモンドオプトメカニカル共振器中に形成し、別途開発中のピエゾマイクロ波共振器と結合することで、超伝導光量子インターフェースの実証を目指します。