成果概要
量子計算網構築のための量子インターフェース開発[1] ダイヤモンド量子メモリ
2023年度までの進捗状況
1. 概要
本プロジェクトでは、誤り耐性型大規模量子コンピュータの実現に向けた量子コンピュータと量子通信の統合システムを目指し、超伝導量子ビットと光量子をハイブリッド接続する量子インターフェースを開発しています(図1)。ダイヤモンド超高純度結晶成長、ナノ加工から3D実装まで一貫して開発します。本研究開発テーマでは、これまでにダイヤモンドNV中心を用いた量子もつれ光源、誤り耐性万能量子ゲートおよび完全ベル測定の実証、ダイヤモンドピエゾ構造作製、超高純度結晶成長、レーザー冷却イオン注入などの要素技術開発に成功しました。

2. これまでの主な成果
研究開発課題1:ダイヤモンド量子メモリの研究開発
- 【量子もつれ光源開発】
- ダイヤモンド中の窒素空孔(NV)中心を用い(図2a)、光子と電子がもつれた発光を98%の忠実度で実現しました。さらに、その電子を介して、吸収させた光子からもつれた光子への量子テレポーテーションを条件付きで実証しました。
- 【量子メモリの誤り耐性万能量子ゲート操作】
- NV中心の電子スピンに対し幾何学的量子操作を行い、誤り耐性のある万能量子ゲート操作を99.97%の忠実度で実現しました。
- 【量子メモリ内での完全ベル測定】
- 二つの炭素核スピン間の完全ベル測定を、90%の忠実度で実現しました。
- 【レーザー照射色中心生成】
- ナノ構造への決定論的な量子メモリ形成に向け、高強度超短パルスレーザー光の照射により高品質なNV中心の局所生成に成功しました。(図2b)

研究開発課題2:ダイヤモンド量子構造の研究開発
- 【ダイヤモンドナノ構造の作製】
- 導入した電子線描画装置によるサブミクロンパターン形成のプロセス条件の最適化を進めることで、ダイヤモンドオプトメカニカル共振器や微細櫛形電極(IDT)などのナノ構造を作製しました。
- 【ダイヤモンドピエゾ共振器の作製】
- 超高純度ダイヤモンド上に窒化アルミニウム(AlN)ピエゾ薄膜を積層した弾性波発振デバイスにおいて、共振器構造を有する新たなIDT電極構造を作製しました(図3)。
研究開発課題3:ダイヤモンド量子結晶の研究開発
NV中心についてダイヤモンド結晶の超高純度化によるスペクトル拡散低減を、SiV中心については固体ドーパントを用いた形成に成功しました。

研究開発課題4:ダイヤモンド色中心探索の研究開発
レーザー冷却したイオン結晶から1つの窒素イオンを引き出し、ダイヤモンドのナノ構造に精密に注入してNV中心を形成するシステムを開発しています。通常では冷却できないN2+をCa⁺で共同冷却し、紐状混合結晶の形成に成功しました(図4)。今後は紐状混合結晶から1つの窒素を引き出してダイヤモンドに注入する計画です。

3. 今後の展開
量子メモリをダイヤモンドオプトメカニカル共振器中に形成し、別途開発中のピエゾマイクロ波共振器と結合することで、超伝導光量子インターフェースの実証を目指します。