成果概要

量子計算網構築のための量子インターフェース開発[1] ダイヤモンド量子メモリ

2024年度までの進捗状況

1. 概要

本プロジェクトでは、誤り耐性型大規模量子コンピュータの実現に向けた量子コンピュータと量子通信の統合を目指し、超伝導量子などと光量子をハイブリッド接続する量子インターフェースを開発しています(図1)。本研究開発テーマでは、超高純度ダイヤモンド製造、レーザー冷却イオンによるダイヤモンドへの高精度単一イオン注入、ダイヤモンド弾性波共振器の作製など材料・ナノ加工に留まらず、ダイヤモンド量子メモリの高忠実度もつれ生成、完全ベル測定、量子誤り訂正、発光・吸収による量子メモリ間の量子接続などの要素技術開発に成功しました。

図1
図1.量子コンピュータ間の光ファイバー量子通信

2. これまでの主な成果

研究開発課題1:ダイヤモンド量子メモリの研究開発
【量子メモリの性能向上と光接続】
ダイヤモンド中の窒素空孔(NV)中心を用いた高速・高忠実度の量子メモリを開発(表1)、これを用い忠実度90%の完全ベル測定や忠実度86%の誤り訂正を実証しました。さらに、2ノードのNV中心を発光吸収で接続するシステム実験(図2)、二光子干渉による忠実度90%の量子もつれ生成に成功しました。
【局所色中心形成】
イオン注入や超短パルスレーザーによる局所アニールの技術を開発し、ナノフォトニック共振器中に色中心を形成することや、1μm間隔のアレイ状に決定論的に色中心を形成することに成功しました。
表1
表1. 量子メモリ性能
図2
図2.NV中心の2ノードシステム。
研究開発課題2:ダイヤモンド量子構造の研究開発
【ダイヤモンドナノ構造の作製】
導入した電子線描画装置によるサブミクロンパターン形成のプロセス条件の最適化を進めることで、ダイヤモンドオプトメカニカル共振器や微細櫛形電極(IDT)などのナノ構造を作製しました。
【収束型表面弾性波共振器の作製】
単一NV中心内包ダイヤモンド上に窒化アルミニウム(AlN)ピエゾ薄膜を積層し、収束型の高効率な音共振器を作製し、室温で5 GHz付近の共振に成功しました(図3)。
図3
図3.(左)単一NV中心内包ダイヤモンド上に形成した収束型表面弾性波共振器の光学顕微鏡像、(右)共振ディップ。
研究開発課題3:ダイヤモンド量子結晶の研究開発

NV中心についてダイヤモンド結晶の超高純度化によるスペクトル拡散低減を、SiV中心については成長条件最適化により5Kでブリンキングなしを達成しました。

研究開発課題4:ダイヤモンド色中心探索の研究開発

ダイヤモンドのナノ構造に高い位置精度でイオンを注入するシステムを開発しました。新たに、スパッタ型イオン源やイオン加速機構を組み込みました(図4)。イオントラップを+50 kVに昇圧し、Si++イオンを100 keVに加速することに成功しました。

図4
図4.ダイヤモンドのナノ構造に精密にイオンを注入するシステムの模式図、および +50 kVに昇圧した状態でポールトラップ中に形成したCa+のクーロン結晶。

3. 今後の展開

研究開発項目2で作製した量子メモリ内包ダイヤモンドオプトメカニカル共振器(OMC)における光と音(弾性波)の共振効果の両立を実証し、超伝導光量子インターフェースの実証を目指します。