成果概要
最終更新日:
人と融和して知の創造・越境をするAIロボット[1] 仮説生成・検証AI
2025年度までの進捗状況
1. 概要
この研究プロジェクトでは、研究におけるループを主張→実験→解析→記述&対話→主張…というループでモデル化しています。その中でも仮説の生成と検証を含む主張と解析のステップでは、マルチモーダルな科学データを理解し、そのうえで仮説を新規に生成しつつ、自動合成実験AIが実施した実験結果が仮説と適合しているかを検証できるAIが必要になります。
そこで仮説生成・検証AIとしてまず「マルチモーダルXAI基盤モデル」を開発して科学データをAIに理解させ、「科学知識の空間埋め込みとアブダクションによる仮説生成モデリング」によって仮説生成の機能を実現します。仮説生成時に人間の科学者のフィードバックから「仮説インスピレーションAI」を開発するとともに、実験結果から「実験予想と結果のXOR発見AI」によって仮説を検証できる体制を整えます。これらはエージェントAIとして「知識推論と対話を用いたマルチモーダル仮説生成」が開発するインタラクティブな仮説生成AIと相互作用し、仮説生成と検証を実現します。
2. これまでの主な成果
2023年度のマイルストーンである「AIロボットが、文献を用いた知識探求を通じて既存論文に記載されている研究を相互理解できる」ことを示したのちに、2024年度はそれらの深化だけでなく、新たな研究としてAIによる仮説生成の実現に取り組みました。結果として、情報学や化学といった複数分野での仮説生成を実証することができました。2025年度にはこれらを統合し、生成した仮説を実験・検証して論文化(受理)まで到達することで、2025年マイルストーンを達成しました。
(1)マルチモーダルXAI基盤モデル
マルチモーダル論文理解XAIを仮想評価者として活用し、クロスオーバー手法による仮説生成技術を開発しました。化学分野では初期仮説39分子から仮想合成・自動有機合成・活性検査・新規分子生成までのサイバー&フィジカルループを実現し、提案分子の活性確認と有機合成反応開発論文(Chemistry Letters受理)に至りました。情報学分野では実験・考察・論文出力までを自動化するAIRASをオープンソース公開しました。
(2)科学知識の空間埋め込みとアブダクションによる仮説生成モデリング
大規模言語モデルを活用して科学技術文献の知識を連続ベクトル空間に埋め込み、新規かつ妥当性のある科学的仮説の自動生成を目指しています。ベースラインシステムの構築に着手し、RAGによる文脈依存の分子候補生成やチャットボット形式の対話的仮説生成、研究トレンド可視化ツールを開発しました。さらに、これらを専門エージェントとしてMCPで接続・統合した「テイミングAI」を実装し、図表・化学構造式・反応スキームを取り込むマルチモーダル拡張や、外部通信を行わないデータセキュア版の技術検証も行いました。
(3)仮説インスピレーションAI
Slack上でSMILES記法を自動検出して分子構造画像を表示し、化合物エディタと統合して研究者の意図を基盤モデルにフィードバックできるシステムを開発しました。UU Learningによる少量判断からの擬似ラベル生成や、専門性に応じたフィードバックタスク割当・プロンプト信頼性推定も開発し、物体検知論文25本ではGPT-3比で精度が0.15ポイント向上しました。加えて中間推論の評価・報酬設計にも取り組みました。
(4)実験予想と結果のXOR発見AI
実験計画時の予想結果と実際の結果のXORを発見し新たな仮説創出の素となるAIの構築に取り組みました。ChemRxivから2万本超の論文を収集して新規にデータセットを構築し、エンコーダーベースとデコーダーベースの2つの言語モデルによる仮説検証AIを開発し、95%以上の精度を達成しました。また、判定根拠の可視化機能も実装しました。2025年度には、化学特化データセットCRNLIと検証モデルLANLIを構築し、仮説更新フレームワークや科学ベクター図自動生成AI(TikZAgent)を開発しました。
(5)知識推論と対話を用いたマルチモーダル仮説生成
大規模言語モデルを用いた論文理解枠組みの構築に取り組みました。特許庁データベースから特許20年分(5Bトークン)やJST提供の科学技術論文をfine-tuningして理解モデルを整備しました。Promptingによる仮説生成と知識推論モデルの2方式を検証し、敵対的生成ネットワークによる半自動フィルタリングで生成仮説の確からしさを約8割で弁別しました。化学グループとの対話インタフェースをSlackBotとして構築し、研究現場のマルチモーダル理解も枠組み化しました。
3. 今後の展開
2023年に本研究開発項目が始まった時点では、2025年までに文献を理解できるAIを実現し、2030年までに文献を(実験を伴って)生成できるAIを目指していました。本課題の成果によって、前者のマイルストーンは達成され、後者のマイルストーンにおいて最も重要である仮説生成も実現されました。生成・検証された仮説について実験を含むレポートを進化的に生成するシステムを確立し、その中核AIRASをオープンソース公開しました。本課題の終了後も、AIロボット駆動科学の普及・社会実装に資する基盤としての活用が期待されます。