低炭素社会の実現に向けた技術および経済・社会の定量的シナリオに基づくイノベーション政策立案のための提案書

LCS-FY2020-PP-13

木材生産流通フローモデルに基づく木材生産・流通費用削減対策効果の検討

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概要

 持続性のある木質バイオマスシステムを構築する為には、地域内での森林資源利用拡大が重要である。本研究では、それが進まない根本的な要因である木材生産流通コストに着目した。安定した木材供給を可能にし、地域内での森林資源利用を拡大する為には、機械化やスマート化による林業の経済的自立が必要であるが、既往研究では生産・流通それぞれの工程における対策実施効果について論じたものが多い。

 本提案書ではシステムダイナミクスを用いた木材生産流通フローモデルを開発し、最終的に林家収益に各対策がどの程度の効果をもたらすのかを体系的に検討した。
 その結果、林家の木材生産・流通費用削減対策として、施業の集約化(および大型機械導入による生産効率向上)と需給マッチングに基づく流通のスマート化は、同程度に重要であることが明らかとなった。また、木材生産流通全体のフローにおいて森林調査費の影響は非常に小さいものの、施業の集約化は森林調査費の削減(ICT技術を用いた調査導入時)にも貢献することも示された。
 日本の森林行政は個人の財産として山林所有の権利を守ることを重視した制度設計が行われているが、欧州では所有する権利に対して責任を問う方向に制度が設計されている。例えばフランスやドイツの森林法では、過去の森林荒廃の経験から私有林についても施業計画の提出や造林義務を課している。従来からの問題提起の繰り返しではあるが、日本の森林所有構造を明確にし、施業集約化を進める対策は引き続き重要である。
 木材流通においては、輸送費よりも木材市場手数料が流通費用に及ぼす影響が大きいことから、市場を通さずとも製材工場におけるニーズに合わせて伐採して直送できるシステム開発が流通費用の削減に有効である。システム開発費は手数料削減効果と比べて十分小さいことから経済面でのリスクは低いものの、高齢化が進む林家および流通市場関係者において、システムの使い手側の教育が課題となると考えられる。安価かつ高齢者でも使いやすい需給マッチングシステムの開発が必要である。
 以上の検討結果から、施業の集約化および流通費用の削減が森林バイオマス資源の持続的な利用を促す上で必要であると考える。

提案書全文

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