取材レポート

第11回JSTワークショップ「公正な研究活動の推進 ー映像教材「盗用編」の 研究倫理教育での利活用を考えるー」報告

JST-WS11フライヤー

 11回JSTワークショップ 「公正な研究活動の推進 -映像教材「盗用編」の研究倫理教育での利活用を考える-」が7月12日(水)にオンラインで開催されました。
 今回のワークショップでは、映像教材「倫理の空白Ⅱ」盗用編*を通じて、特定不正行為である「盗用」に関連する諸問題への理解を深め、同映像教材の研究倫理教育での利活用方法を検討しました。自機関でのより効果的な研究倫理教育、公正な研究活動の推進に実践的に役立てることや、研究公正担当者同士の交流から現場で各々が抱える課題を共有し、よりよい研究公正の在り方を考えることを目的として開催しました。当日の様子を紹介します。

*「倫理の空白Ⅱ」盗用編:研究不正に至る過程を疑似体験するドラマを視聴し、研究に従事する人物のそれぞれの立場を理解しながら研究倫理を学習できる映像教材で、「盗用」に焦点をあてています(JST制作)。



講義

映像教材「倫理の空白Ⅱ」盗用編の研究倫理教育での利活用を考える 早稲田大学教授 札野 順 氏
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札野 順 氏
 ワークショップの冒頭で札野氏の講義が行われました(講義資料はこちらをご覧ください)。
 札野氏は、今回のワークショップの目標として、
1)RCR(Responsible Conduct of Research「責任ある研究行為」)教育の目的(学習・教育目標)と内容を理解し説明できるようになる。
2)映像教材「倫理の空白Ⅱ」盗用編を用いたRCR教育/研修を提案できるようになる。
という2点を示され、「倫理教育を通じ、知識を身につけるだけでなく、倫理的問題に直面した時に一人ひとりが自律性をもって適切に判断するスキルも身につけてほしい。」と述べられました。
 次に、文部科学省のガイドラインに基づいて、各研究機関が研究倫理教育に取り組んでいる中、東京工業大学で行われている「段階に合わせたRCR教育の体系化」について紹介されました。RCR教育の推進には、倫理的な判断能力や問題解決能力、そして情意領域の教育が必要とされ、従来の受動的な教育よりアクティブラーニングなどが求められていると示されました。
 更に、近年の研究公正の教育の現状について、「教育哲学」についても紹介されました。これは、法令遵守型(Regulation-Based)として身に付けるという方法と、それに対してどういったことが良いことかを考えて行動する価値共有型(Virtue-Based)があると述べられました。後者について、海外での取組例としてVERITIES Initiative (ミシガン州立大学)(https://veritiesinitiative.msu.edu/)SOPs4RI (Standard Operating Procedures for Research Integrity)(https://sops4ri.eu/)を紹介されました。
 最後に、「倫理の空白Ⅱ」を活用した研究倫理教育の例を、東京工業大学のRCR教育における目標に準じて挙げられました。(講義資料 P.55-61参照)

スライド1
出典:札野氏講義資料 P.56より

●大学院生を対象として、学習・教育目標を「倫理的な感受性(すなわち研究や技術の実践における倫理問題を見いだすことができる能力)を高める」と設定し、研究倫理教育の例を示されました。




 




スライド2
出典:札野氏講義資料 P.61より

●教員を対象として、学習・教育目標を「責任ある研究活動の推進」と設定し、研究不正の知識や、データの扱い方、オーサーシップの意味と重要性、研究活動の環境の整備にかかわる知識と態度の理解等とした場合の進め方を示されました。









グループワーク: 映像教材の分析、利活用方法の検討

 野内 玲 氏
野内 玲 氏
 グループワークでは、最初に、映像教材「倫理の空白Ⅱ」盗用編において、研究倫理の観点から問題がある、あるいは違和感を持つ場面や言動についてグループで共有し、映像教材の理解・分析を行いました。次に、それらの場面を用いて研究倫理教育を実施する際の教育目的や対象者を検討しました。これらを踏まえ、最終的には映像教材を用いてどのような研究倫理教育が可能かを具体的に議論しました。
 グループワークの中では、参加者が自らの機関における研究倫理教育の状況も含め、多様な意見が交わされました。最後に、グループワークの成果について以下のような発表があり、講師の札野氏、およびファシリテーターとして協力いただいた広島大学准教授 野内 玲 氏から講評をいただきました。
出典:JST説明資料より 出典:JST説明資料より
出典:JST説明資料より




 



 



●人文・社会科学編
 グループワークにおいて、映像教材では学生時代からコピー&ペースト等の盗用が常習化していた場面が描かれており、誤った倫理観のまま研究を続けてしまったので、学部生からの倫理教育の重要性を教育していくことが重要であるといったものや、盗用や孫引きに関わる基準作り、研究記録の重要性を認識するべきといった発表がありました。
札野先生からは、「研究公正の教育は学部生時代から必要で、研究の目的は何なのか、学生に価値観を共有する機会を持ってもらうことが重要です。研究者におけるグッドワーク("Good Work")とはなにかを考えるのも必要です。」といった講評がありました。
●自然科学編
 グループワークにおいて、映像教材では倫理に関する意識の低さ、研究室の風通しの悪さ、データ管理やオーサーシップの杜撰さといった場面が描かれており、同一研究室内の退職者などの成果の帰属についても意識して教育していくことが必要であるといった発表がありました。
野内先生からは、「研究室のマネージメントを具体的なところにまで落とし込んでいると思いました。告発は、研究環境をよくするための行為であるということをわかってもらえる風土づくりも大事です。広い意味での指導を考えていただければより効果的と思います。」といった講評がありました。

全体講評

 野内氏からは「それぞれの立場から非常にたくさんのアイデアが出ており、こちらの勉強にもなりました。本日の意見を自機関で活用いただくことを期待します。」との感想をいただきました。
 札野氏は「映像教材を作った立場から、これを積極的に活用していただきたいと考えています。映像教材は、既存のテキストやeラーニングとは異なった有効な教育効果をあげられる可能性があります。教育活動を実施する際には、学生や教員に対し教育目標を示すことが教育効果の点から重要です。グループ発表の中では目標を明確に示している例が多かったように感じました。また、今回のワークショップでは、より良い研究倫理教育に関心を持つ方々が集まり情報交換が行われました。複数の方が協力することで単一機関だけでは成し遂げられないことも可能になる場合があります。これから先も本ワークショップを続けていくので、健全な研究活動を推進することが重要と考える方々のコミュニティを築いていただけたらと思います。」と話されました。

野内氏 札野氏
アンケートでは参加者の皆さんから以下のような感想をいただきました。
  • 「盗用」の枠組みの中でも多くの意見を聞くことができた。
  • 「盗用」というテーマは、自身の研究機関でも分かりやすいものである。
  • 講師の方からは最新の動向を知ることができた。グループワークでは自分の視点や経験では気がつかないことに気づけました。

当日の講義資料はこちら
第10回ワークショップ取材レポート