取材レポート

【5th World Conference on Research Integrity(WCRI)レポート 】
 第4回:研究公正の取組に対する効果を把握する~アムステルダム・アジェンダ~

 2017年5月にオランダ・アムステルダムで開催された5th World Conference on Research Integrity(WCRI)について、第1回「研究成果の再現性と透明性」、第2回「各国の違いと国際ネットワーク」、第3回「ワークショップ〜教育担当者の教育〜」に続けて、最終回は「アムステルダム・アジェンダ」について報告します。

NickSteneckPhD
米国ミシガン大学Nick Steneck氏

 WCRIではこれまでの会議にて、2010年のシンガポール宣言、2013年のモントリオール宣言が採択されてきました。第5回WCRIでは、米国ミシガン大学Nick Steneck氏がチェアを務め、研究の公正性を推進する上での現在の問題点と改善策およびその効果測定について参加者と意見交換を重ねました。

 冒頭に、最近の動向として、社会的・学術的に影響が大きいのは依然として研究不正行為(RM: Research Misconduct)であるものの、疑わしい研究活動(QRP: Questionable Research Practice)が増えていると報告されました。特に発生頻度が高いQRPは、

  • ・研究結果を裏付けるような論文を選択して引用すること
  • ・若手に対するメンターが不十分なこと
  • ・ネガティブな研究結果を公表しないこと
  • ・上司や同僚の発表論文数を増やすことを意図したギフトオーサーシップや、儀礼的に他者の論文等を引用するギフトサイテーション

等で、今後、RM以上にQRPの問題が大きくなる可能性も考えられるとの見解が示されました。
RMと比べてQRPの知見はまだ十分ではなく、QRPに対する教育方法や効果検証を今後確立していく必要性についても述べられました。

 上記の他にも、参加者からは、論文掲載や研究資金獲得の際の査読方法が体系的でないことや、シニアの研究者から研究倫理教育への理解が得られないこと、研究倫理教育に一貫性がないこと等が挙げられました。
これらの問題点に対して改善策を講じることに加えて、改善策による効果を評価することが今後一層重要になるという見解が参加者で一致しました。

 これらの議論を踏まえて、会議最終日に以下の通りアジェンダ※がまとめられました。
(※リンクは、会議終了後に参加者から意見募集し、一部修正の上、2017年8月に確定した版です。なお、以下に記載したアジェンダは、英文を元に、筆者が個人的理解の範囲で翻訳したものです。従って、公認された最終的な翻訳版ではありませんので、ご注意ください。)

アムステルダム・アジェンダ
第5回 研究公正に関する世界会議(WCRI)

 WCRIでは、世界全体で研究の公正性を改善するために、議論を促進し、協調しながら努力している。ここ数年、研究の公正性に伴う困難の本質を理解するべく、参加者は各々様々な努力を報告してきた。また、シンガポール宣言の4つの原則に基づき、責任ある研究活動が行われることを究極の目標として、間違った行為を減らし、ベストプラクティスを推進するための様々な方法も提案してきた。

(シンガポール宣言の4原則)
  • ・研究のすべての側面における誠実性
  • ・研究実施における説明責任
  • ・他者との協働における専門家としての礼儀および公平性
  • ・他者の代表としての研究の適切な管理

 今は、研究の公正性の改善に対する努力(の効果)を評価し、研究の公正性に関するポリシーの構築に際して実証的な情報を用いることに注力する時期である。この目標を達成するために、WCRI財団は以下のアジェンダを実行する。


  1. 1. WCRI財団は、"Research on Responsible conduct of Research Registry(3R Registry)"(責任ある研究活動に関する研究の登録制度)を確立する。3R Registryは、研究者らが、以下の6つの重要な要素を念頭に、彼らの研究を、計画、実行、報告及び共有することを奨励する。
    • a) 問題:選択的な報告(都合のよい内容だけの報告)、脆弱なメンターリング、不適切な質の保証など、研究者が対象としている具体的な問題点。
    • b) 影響:(取り上げられた)問題点が、研究(自体)の信頼性、研究を担う基盤全体(研究者、研究機関・組織、学協会等)への信任、研究資金の責任ある使用、あるいは、責任ある研究活動についてのその他の関連指標に対して、それぞれどの程度影響を与えるかの推定・評価
    • c) 介入:特定された問題に対処するために計画された具体的な(介入の)方法(教育、アウトカム評価、クオリティチェック、あるいは責任ある行動を促す強化など)
    • d) 仮説または期待されるアウトカム:介入の結果として期待される変化。
    • e) 評価:(期待される変化について)仮説の検証及びアウトカムの(目標)達成状況評価のために、どのような手法が計画されたか
    • f) データ共有:(研究の)データ(質的データおよび量的データ)はどのように共有されるべきか。
  2. 2. WCRI財団は、研究公正のための研究を支援する助成機関を奨励する。
  3. 3 WCRI財団は、研究公正のための研究の重要性及びその成果を、証拠に基づいたポリシーの開発に向けてその研究を用いることの重要性に関心を高める。
  4. 4.WCRI財団は、第6回WCRIにて3R Registryに対する反響について報告すると共に、将来の研究公正のための研究に関するゴール(到達目標)の整理と優先順位付けについても報告する。

 研究の公正性については世界的に重要性が増しており、各国での取組が蓄積されてきたために、「評価」という次のステップに進展したといえます。研究公正への取組によって研究不正の件数を減らすことも目標の一つではありますが、研究者人口に対する研究不正の発生割合は極めて低いことを考えると、むしろ取組によって、誠実な責任ある研究活動への意識がどのように高まったかといった、プラス要素の増加を測定し、評価することに意味があるように思えます。

 第6回WCRIは2019年に香港にて開催される予定です。アムステルダム・アジェンダで掲げた研究公正のための研究についての新たな報告が期待されます。