取材レポート

【5th World Conference on Research Integrity(WCRI)レポート】
 第2回:各国の違いと国際ネットワーク

 2017年5月にオランダ・アムステルダムで開催された5th World Conference on Research Integrity(WCRI)について、第1回の「研究成果の再現性と透明性」に続いて、第2回目は「各国の違いと国際ネットワーク」について報告します。

研究システムの相違が研究の公正性への取組の多様性を生み出す

 各国における研究の公正性を高めるための取組は多様ですが、その背景には、政府からの研究資金提供の割合や、研究機関セクター(国立・私立・民間)の割合、研究機関の独立性、科学者コミュニティの考え方等の違いがあると考えられます。

WCRIでは、国家によって研究システムや研究の公正性に対する取組方に相違があることを認めた上で、各国が互いに理解を深め、協調して進めていくことが重要と考えられています。各国の理解を深める材料として、記載項目を様式化した報告書「レポートカード」を欧州3カ国(英国、ノルウェー、クロアチア)および米国が発表しました。

会場写真
左より ノルウェー国立研究倫理委員会E. Engh氏
米国 Z. Hammatt氏
英国 E. Wager氏
クロアチア・スプリット大学A. Maruši´c氏

 レポートカードの記載項目は、人口、GDP(総額および国民一人当たり)、研究者数、政府の研究開発費(GDPに対する割合)、博士号取得者(人口比および経年変化)、セクター別研究機関数、研究の公正性に対する国家の取組、教育内容等です。
 例えば、研究不正行為の調査主体については、米国、ノルウェー、クロアチアでは国家レベルで調査権限を有する組織がある点では共通していますが、米国のORI(The Office of Research Integrity)は政府組織の一部として位置づけられているのに対して、ノルウェーやクロアチアでは政府から独立した委員会組織となっています。また、英国のUKRIO(The UK Research Integrity Office)は政府組織ではなく、研究不正の調査権限を有さず、研究機関に対する助言が主な役割となっています。米国ではNSFやNIH等の公的研究資金が研究費に占める割合が多く、英国ではウェルカムトラスト等の民間からの研究資金援助の割合が多いというように、主な研究資金提供者が政府か民間かの違いが、研究の公正に対する国の関与の仕方に影響を与える要因の一つであるようです。

 研究倫理に関する法律の有無や、研究機関と独立した調査権限を持つ組織の有無の点からは、米国、ノルウェー、クロアチア、英国の順で国による規制が強いという印象を受けました。しかし、国の規制の強さと研究の公正性の進展度は単純な正比例の関係にはなく、研究システムの違いが研究公正の在り方の多様性を生み出していると考えられます。

国による強制度
表:各国の研究公正組織
国名 組織形態 研究不正に対する調査権限
米国 政府組織
ノルウェー 非政府組織
クロアチア
英国 無(研究機関への助言のみ)


国際ネットワークを組織し、連携によって研究公正の加速を目指す

 また、連携して研究の公正性を進める国際ネットワークも構築されています。
 アジア・環太平洋研究公正ネットワーク( Asia and Pacific Rim Research Integrity Network; APRI )は2013年にスタートした新しいネットワークですが、研究公正に対する取組を各国で情報共有し、協力して研究公正の取組に関する新たな枠組みを生み出すことを目標としています。
 一方、欧州では、研究不正行為に対応する行政組織のレベルや、研究公正への取組の進捗に国毎の違いがあり、協調が進展しない時代が過去にありました。その後、欧州22カ国が参加して2011年にまとめた欧州の研究倫理行動規範「The European Code of Conduct for Research Integrity」の制定により、研究の公正性における問題点と解決策が共有され、国および地方単位で主体的に推進されるようになったという成果を挙げました。なお、欧州の研究倫理行動規範は2017年3月に 改定版 が出されています。

 今回は、研究の公正性に対する各国の違いと、国際ネットワークによる協調の事例について紹介しました。次回は、「ワークショップ〜教育担当者の教育〜」についてご紹介します。