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研究年次報告と成果


鍋島 陽一(京都大学 大学院医学研究科 教授)

代謝応答を統御する新たな分子機構の研究

平成18年度  平成19年度

§1.研究実施の概要

本年度は(1)Klothoファミリーと循環するFGF群によってコレステロール/胆汁酸、 グルコース、カルシウム代謝が制御される機構と(2)α-Klotho/Na+,K+ATPaseシステムの 詳細な機能解析を中心に研究を進め、以下の結果を得た。

(1)α-Klothoを発現させるとFGF23のシグナルが入り、β-Klothoを発現させるとFGF19,FGF21 のシグナルが伝わる解析システムを確立した。ついで、α-KlothoがFGFR1と複合体を作り、FGF23 のシグナル伝達に必須であることを示した(共同研究者の浦川)。一方、野生型マウス、β-Klotho ノックアウトマウスにFGF19を投与し、Cyp7A1の発現抑制(肝臓)、Egr1の発現誘導(各種臓器) を解析したところ、野生型ではCyp7A1の発現が抑制され、Egr1の発現が肝臓でのみで顕著に誘 導されたが、ノックアウトマウスではCyp7A1の発現抑制、Egr1の発現誘導が起こらないことを 確認した。これらの結果からFGF19のシグナル伝達にはβ-Klothoが必須であることが示された。 又、このシグナル伝達はJNKのリン酸化を介していた。次いで、FGF21に付いての解析を行って いる。

(2) α-Klotho とNa+,K+ATPase が結合しており、α-Klotho・Na+,K+ATPase 複合体はER,Golgi で見いだされ、Endosome 分画に蓄積していた。細胞外カルシウム濃度の低下に素早く応答して Na+,K+ATPase の細胞表面へのリクルートが誘導され、Na+,K+ATPase の機能が亢進する。この 応答はα-Klotho に依存しており、Na+,K+ATPase の細胞表面へのリクルートとα-Klotho 蛋白の 分泌が同時に起こり、相関していた。これらの事実から細胞外のカルシウム濃度が低下すると、 その低下を細胞表面に存在するチャンネルが感知し、そのシグナルをα-Klotho・Na+,K+ATPase 複合体に伝え、α-Klotho・Na+,K+ATPase 複合体を運ぶEndosome の細胞表面へのリクルート、 並びにα-Klotho 蛋白の膜貫通ドメイン、あるいはその近傍での切断、Na+,K+ATPase との解離 がおこり、Na+,K+ATPase の細胞表面へのリクルートとα-Klotho の分泌がおこることが示された。つ いで、Na+K+ATPase が作り出すNa+の濃度勾配、膜電位の変化に応答して腎臓でのカルシウムの 再吸収、脈絡膜を介した脳脊髄液のカルシウム濃度の制御、上皮小体でのPTHの分泌を制御 していることが示唆された。一方、α-Klotho はFGF23 が1α-hydroxylase の発現を抑えるシグナ ル伝達に関与しており、結果としてビタミンD合成を負に制御していることが明らかとなった。又、ビタミンDの合 成更新が多彩な変位表現型の主要な原因であることが明らかとなり、α-Klotho はカルシウム恒常性を制 御する中心的な因子であるとの結論に到達した。

(3)膵臓のacinal cell における β-Klotho の機能を解析する目的でCCK の投与による膵液 の分泌誘導について検討したが、分泌する膵液量、代表的な消化酵素類の分泌に変化が観察さ れなかった。

(4)NIHと共同で血液、尿、糞、肝臓、膵臓、脂肪、筋肉等の臓器のメタボローム、プロ テオーム解析を開始した。

(5)β-Klotho の遺伝子多型を解析している。なお、本研究では、臨床グループが京都大学倫 理委員会に申請し、承認された血液サンプルのみを使用した。一方、ヒト血清α-Klotho 濃度を 測定するエライザキットを確立して、健常人のボランティアから測定を開始した

§2.研究実施内容

(1)Klothoファミリーと循環するFGF群によってコレステロール/胆汁酸、グルコース、 カルシウム代謝が制御される機構
α-Klotho を発現させるとFGF23 のシグナルが入り、β-Klotho を発現させると FGF19,FGF21 のシグナルが伝わる解析システムを確立した。ついで、α-Klotho がFGFR1(IIIc) と複合体を作り、FGF23 のシグナル伝達に必須であることを示した(共同研究者の浦川)。一方、 野生型マウス、β-Klotho ノックアウトマウスにFGF19 を投与し、Cyp7A1 の発現抑制(肝臓)、 Egr1 の発現誘導(各種臓器)を解析したところ、野生型ではCyp7A1 の発現が抑制され、Egr1 の発現が肝臓でのみ顕著に誘導されるが、ノックアウトマウスではCyp7A1 の発現抑制、Egr1 の発現誘導が起こらないことを確認した。これらの結果からFGF19 のシグナル伝達には β-Klotho が必須であることが示された。又、このシグナル伝達はJNK のリン酸化を介していた。 また、β-Klotho ノックアウトマウスでは小腸におけるFGF15 (ヒトFGF19 のマウスホモログ) の発現が更新していた。
引き続き、FGF15、β-Klotho、Cyp7A1 の発現に影響を与える因子の解析を行っており、β-Klotho の生理的な機能の解明に結びつける。 FGF21 がグルコース代謝の制御に関わるとの報告があり、培養細胞を用いた解析系では、その シグナル伝達にβ-Klotho が必須であるとの結果を得たので、野生型、ノックアウトマウスを用 いて血糖値の制御におけるFGF21, β-Klotho の役割の解析を始めた。

(2)β-Klotho が膵臓のacinalcell において素早い応答を制御する機構の研究
β-Klotho は膵臓のacinal cell で発現している。acinal cell は食事摂取に速やかに反応 して消化酵素を分泌する細胞であり、素早い応答におけるβ-Klotho の機能を解析する目的で CCK の投与による膵液の分泌誘導について検討した。しかし、野生型とβ-Klotho ノックアウト マウスの間で分泌する膵液量、代表的な消化酵素類の分泌に変化が観察されておらず、別の角 度からの解析を検討している。

(3)β-Klothoノックアウトマウスのコレステロール/胆汁酸代謝産物のメタボローム解 析とそれらの生理活性、薬理作用の解析
NIH の共同研究者の研究室にポストドクをを派遣しており、血液、尿、糞、肝臓、膵 臓、脂肪、筋肉、小腸、大腸等の臓器サンプルを送り、メタボローム、プロテオーム解析 を開始した。

(4)詳細なα-Klotho/Na+,K+ATPaseシステムの機能解析
α-Klotho はNa+,K+ATPase と結合している。Na+,K+ATPase の活性(K+取り込み能を示す 86Rb の取り込み)、及び細胞表面量(特異的リガンドである3Hウアバインの結合量)を解析 し、細胞外カルシウム濃度の低下に素早く応答してNa+,K+ATPase の細胞表面へのリクルート が誘導され、Na+,K+ATPase の機能が亢進する。この応答はα-Klotho に依存している。また、 α-Klotho 蛋白は膜貫通ドメイン近傍で切断されて分泌されるが、Na+,K+ATPase の細胞表面へ のリクルートとα-Klotho 蛋白の分泌が同時に起こり、相関していた。細胞内輸送プロセスを 解析してα-Klotho・Na+,K+ATPase 複合体はER,Golgi で見いだされ、Endosome 分画に蓄積して いた。これらの事実から細胞外のカルシウム濃度が低下すると、その低下を細胞表面に存在す るチャンネルが感知し、そのシグナルをα-Klotho・Na+,K+ATPase 複合体に伝え、α-Klotho・ Na+,K+ATPase 複合体を運ぶEndosome の細胞表面へのリクルート、並びにα-Klotho 蛋白の膜貫 通ドメイン、あるいはその近傍での切断、Na+,K+ATPase との解離がおこり、Na+,K+ATPase の 細胞表面へのリクルートとα-Klotho の分泌がおこることが示された。ついで、α-Klotho 蛋白は細胞 外カルシウム濃度の低下に素早く応答してNa+K+ATPase の細胞表面へのリクルートを制御して おり、Na+の濃度勾配、膜電位の変化に応答して腎臓でのカルシウムの再吸収、脈絡膜を介し た脳脊髄液のカルシウム濃度の制御、上皮小体でのPTHの分泌を制御していることが示唆さ れた(Science in press)。一方、α-Klotho はFGF23 が1α-hydroxylase の発現を抑えるシグナル 伝達に関与しており、結果としてビタミンD合成を負に制御していることが明らかとなった。又、ビタミンDの合成 更新が多彩な変位表現型の主要な原因であることが明らかとなり、α-Klotho はカルシウム恒常性を制御 する中心的な因子であるとの結論に到達した。
これらの結果をこれまで知られているカルシウム制御機構のスキームの中に位置づけた。カルシウムホメ オスタシスの制御は時間軸にそって大きく次の3つのステップに分けられる。(1)第1は瞬時の応答であり、細 胞外カルシウム濃度の低下に伴うカルシウムの再吸収、脳脊髄液への輸送、PTH の分泌がこれに相当す る。次いで、(2)分泌されたPTHが骨からカルシウムを放出させる反応、腎尿細管でのカルシウム再吸収、ビ タミンD合成を促進する反応が起こるが、これは数時間にわたる応答である。(3)第3の反応はビタミンDによる 小腸からのカルシウムの吸収や腎尿細管でのカルシウム再吸収であり、数時間から一日を超える反応であ る。これらの応答は時間軸にそった多段階の反応からなっており、複雑な相互作用、フィードバック機構によっ て制御されており、全体として血液・体液、脳脊髄液のカルシウム濃度は極めて狭いレンジに保持される仕組 みとなっている。

(5)臨床応用に向けた研究
ゲノム解析センターグループ、臨床研究科と共同でβ-Klotho の遺伝子多型解析をスター トさせた。まず、アミノ酸をコードする部分を中心に遺伝子多型を解析し、次いで、糖尿病と の連鎖から解析を進めている。なお、本研究では、臨床グループが京都大学倫理委員会に申請 し、承認された血液サンプルのみをしようした。一方、ヒト血清α-Klotho 濃度を測定するエラ イザキットを確立して、健常人のボランティアから測定を開始した。次いで、カルシウム代謝 異常患者の血清の解析を行う。

§3.成果発表等

論文(原著論文)発表
(1)発表総数(国内 0件、国際 3件)
(2)論文詳細情報
  • Urakawa I., Yamashita Y., Shimada T., Iijima K., Hasegawa H., Okawa K., Fijita T., Fukumoto S., Yamashita T. Klotho converts canonical FGFreceptor into a specific receptor for FGF23. Nature 444, 770-774 (2006)
  • Sato A., Hirai T., Imura A., Kita A., Iwano A., Muro S., Nabeshima Y., Suki B., Mishima M. Morphological mechanism of the development of pulmonary emphysema in klotho mice. Proc Natl Acad Sci USA 104(7) 2331-2336 (2007)
  • Imura A., Tsuji Y., Murata M., Maeda R. Kubota K., Iwano A., Obuse C., Togashi K., Tominaga M., Kita N., Tomiyama K., Iijima J., Nabehsima Y., Fujioka M., Asato R., Tanaka S., Kojima K., Ito J., Nozaki K., Hashimoto N., Ito T., Nishio T., Uchiyama T., Fujimori T., Nabehsima Y.
    α-Klotho as a regulator of Calcium homeostasis. Science in press

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