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研究年次報告と成果


柳田 充弘(京都大学 大学院生命科学研究科 特任教授)

染色体分配メタボリズムを支える分子ネットワークの解析

平成17年度  平成18年度  平成19年度

§1.研究実施の概要

本研究は細胞分裂にともなう正確な染色体分配の背後にあるメタボリズムの制御に着眼し、制御の存在自体および制御のしくみを解明しようとするものである。
研究チームは3つの主課題、すなわち
  (1)染色体分配を導く栄養源切り替えおよび代謝回路変動、
  (2)分配期後期におけるタンパク質分解の統合的解明、
  (3)ヒストン脱アセチル化アセチル化による構築制御、
の解析をおこない原著論文7報を公表した(Developmental Cell 2報1),3), Journal of Cell Biology 1報7)、Genes to Cells 2報2), 5)、Journal of Cell Science 1報8), Cell Cycle 1報4)
 phosphatidyl inositolキナーゼ関連キナーゼ(PIKK)が染色体分配にいかに関わるかは極めて興味ある問題だが、今年度はその方向への研究の基盤となる発見、すなわちTel2, Ttti1複合体がTor1, Tor2, Rad3/ATR, Tel1/ATM, Tra1, Tra2 と結合することを見いだし、またrapamycin感受性のTor2変異を分離しその基本的な表現型を解析した。栄養シグナルとM期制御について今後も研究を続ける。 ヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)が染色体分配に欠損を示す変異に対して抑制もしくは超感受性を引き起こすことを出発点に脱アセチル化酵素が染色体分配に重要な 役割を果たすことを証明できた。またセントロメアへのヒストンH3変種であるCENP-Aへの取り込みがMis16/RbAp46/48, Mis18を必要とすることは既に示していたが、今回TSAの添加がこれらの機能欠損を 抑制することを発見した。すなわちCENP-A取り込みの制御にアセチル化脱アセチル化酵素が重要な役割を果たしているので、今後の研究の展開に努めたい。ヒト細胞の染色体分配にともなうタンパク質分解制御の メカニズムのうち特にキネトコアタンパク質ブリンキンがチェックポイントタンパクであるBub1, BubR1と直接相互作用することを示し、この直接的な結合がセキュリン、サイクリンなどのタンパク分解を 抑制するのに必須であることも示した。スピンドルチェックポイント、キネトコア、タンパク分解の関係をさらに把握すべく研究を推進する。

§2.研究実施内容

1. 染色体分配を導く栄養源利用切り替えおよび代謝回路変動の関連解析

細胞周期は幾つかの時期に分類されており、S期に染色体DNAの複製が起こり、分裂酵母においては続くG2期において細胞が伸長する。 M期進入に伴い細胞伸長は停止し、複製された染色体が2つの娘細胞に分配される。このように細胞周期においては時期特異的に様々な現象が 発生することから、これまでに判明しているタンパク質の量的変化・修飾の変化に加えて、代謝物の変動も発生し細胞周期制御に重要な機能を 果たしていることが期待される。特にG2期からM期にかけては、細胞が栄養源の消費を細胞成長からM期進行・細胞分裂へ切り替えるシステムが 存在し、それに伴い代謝物の変動も起こるのではないかと考えている。我々は1015株からなる分裂酵母温度感受性変異体ライブラリーを網羅的に 解析することにより多数の栄養源感知及び代謝関連遺伝子の変異体を取得した。それらの内まず、栄養源の感知・細胞成長に深く関わるとされる TORタンパク質の解析を行った。分裂酵母のTORのひとつTor2の遺伝子変異株が完全培地中でも窒素源枯渇時のようなG0期様の表現型を示すことを見出した。 また、Tor2およびもう一つのTORであるTor1の結合タンパク質を質量分析機によって同定し、分裂酵母におけるTOR複合体の構成を明らかにした。 さらにTel2タンパク質が分裂酵母に存在するすべてのPIKKファミリーのタンパク質(Tor2、Tor1、Rad3、Tel1、Tra1、Tra2)と相互作用することを発見し、 栄養に対する反応、DNA損傷チェックポイント、転写制御がTel2によって結びつけられている可能性が示唆された(Hayashi et al. 2007)5)。 この研究によって栄養源がもたらす染色体分配への影響を調べるための基盤が出来たと考えている。さらに我々はタンパク質のアセチル化や細胞内の 様々な代謝に必須なCoA及びアセチルCoA生合成酵素変異体の一部がM期において染色体不均等分配を引き起こすことを見いだした。これらの変異体が 既知のセントロメアタンパク質Mis6・Mis12変異体と合成致死性を示しことから、CoA生合成経路の欠損によるアセチル化状態の変化に伴い 動原体/セントロメアに異常が生じていることが強く示唆された。 さらに我々は分裂酵母から効率よく代謝物を抽出し高性能質量分析機により同定する方法を確立した。この方法を用いてCoA及びアセチルCoA生合成酵素変異体中では、 実際に最終産物であるCoA及びアセチルCoA量が著しく減少しており中間代謝物の量にも変動が見られることを発見した。またこの方法を用いることにより CoA・アセチルCoAに加えてATP・GTP・NADなど様々な代謝物を同時に測定する事が可能となった。現在、数千の代謝物ピークを検出可能となったが、 その多くは未同定であり、また、代謝変動を解析するためには膨大なデータを処理する必要が有る。これら高性能質量分析機によって得られる 大量のメタボロームデータ解析を効率的に行なうためのソフトウェアを開発中である。また現在プロテオーム、トランスクリプトーム解析から 様々なタンパク質の細胞周期における変動が報告されている。これらに加えてメタボローム解析で得られる代謝物の変動データを統合的に解析し、 代謝回路変動の網羅的解析を可能とするソフトウェアの開発を開始している。

2. Anaphaseタンパク質分解制御の統合的解明

染色体数恒常性には細胞分裂期後期開始時における一連のタンパク質分解の厳密な制御が必須である。染色体分配はセキュリンの分解と、 その後活性化されたセパレースによる染色体合着因子コヒーシンの切断により開始され、M期脱出はサイクリンの分解によるCdc2キナーゼの不活化により誘導される。 セキュリンとサイクリンはE3ユビキチンライゲースAPC/Cにより同時に認識されユビキチン依存的に分解されるため、染色体分配とM期脱出が協調して進行する。 APC/Cの活性はスピンドルチェックポイントにより抑制され、チェックポイントは動原体により制御されるため、チェックポイント機能を制御する動原体因子の同定は 一連の後期タンパク質分解制御の理解に必須である。我々はスピンドルチェックポイントタンパク質Bub1、BubR1と直接結合するヒト動原体タンパク質blinkinの同定に成功し、 blinkinと、Bub1、BubR1に保存されたTPR配列の直接的相互作用が、染色体の整列とスピンドルチェックポイントの確立に必須であることを発見した(Kiyomitsu et al., 2007 Dev Cell)3)。 今年度はさらにblinkinとBub1、BubR1の相互作用制御、及びblinkinとその他のチェックポイントタンパク質との関連を解析し、動原体におけるチェックポイント活性化制御の 分子的理解を進めたい。また我々はCdc2キナーゼのM期標的分子としてコンデンシンを同定し、コンデンシンの動原体およびrDNA領域への集合がCdc2キナーゼを含む多段階の制御を経て 達成されること、またその局在が染色体の均等分配に必須であることを発見した(Nakazawa et al., 2008 JCB)7)。一方、我々は質量分析を用いてセパレースの基質である コヒーシンサブユニットRad21の複数部位が細胞周期特異的あるいはDNA損傷依存的にリン酸化修飾を受ける事を見出した(Adachi et al., 2008 Cell cycle)4)。 中でもDNA損傷依存的なRad21のリン酸化はAnaphase開始時のコヒーシン除去に機能しうると考えられ、DNA損傷後のM期コヒーシン除去に新たなモデルを提唱した。 今年度はセパレース自身や、セパレースと物理的、または遺伝学的相互作用をもつセキュリン、AAA ATPase Cdc48などによるセパレース活性制御の統合的理解を進めたい。

3.ヒストン脱アセチル化、メチル化によるセントロメア構築制御の解明

動原体/セントロメアはM期において微小管との二方向性結合を確立し,染色体の均等分配を保証する特殊なクロマチン構造体である。 我々は、ヒトや分裂酵母で細胞周期におけるヒストンアセチル化及び脱アセチル化の制御が動原体/セントロメア機能構造の形成に重要な役割を担っており、 ヒトにおいてはhMis18α・β及びM18BP1複合体がRbAp46/48/Mis16とともに動原体/セントロメアのプライミングを行うことでCENP-Aの局在化を可能にすることを明らかにした(Fujita et al., 2007 Dev Cell)1)。 さらに、注目すべきことに、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるTSA(Trichostatin A)添加がMis18のCENP-A局在化機能を代替えするような働きを持つことを示した。 また、分裂酵母において、CENP-Aのセントロメア局在化因子であるMis6/CENP-Iの温度感受性変異体がTSAに感受性を示すことを発見した(Kimata et al., 2008 JCS)8)。 これら一連の結果は、ヒストンアセチル化及び脱アセチル化の細胞周期における制御が動原体/セントロメア機能構造の形成に重要な役割を持ち、それは進化的に保存されていることを示している。 今年度はCENP-Aのセントロメア上へのデポジットに関わるヒストンアセチル化及び脱アセチル化関連因子の同定と機能解析を試みたい。 また、CENP-Aのセントロメアローディングに作用するScm3についてもPaul Russell博士との共同研究を進めている(投稿準備中)。
 また、分裂酵母においてコヒーシンローディング因子であるMis4/Adherin/NIPBLのタンパク質量やAPC/Cyclosomeの複合体形成はヒストン脱アセチル化酵素によって制御されていることを 明らかにした(Kimata et al. 2008 JCS)8)。これらの結果はヒストン脱アセチル化、アセチル化がセントロメア構築だけでなく、M期染色体メタボリズムを制御していることを示唆する。 今年度はこれらの制御機構も詳細に調べたい。


§3. 研究実施体制

(1)「柳田」グループ

 @ 研究分担グループ長:柳田 充弘 (京都大学、研究員(特任教授))
 A 研究項目
   1. 分裂期進入決定に関わる未知制御因子群の包括的同定
   2. セパレース・プロテアーゼ活性制御の統合的理解
   3. ヒストン脱アセチル化・メチル化によるセントロメア構築制御の解明


§4. 成果発表等

1) 原著論文発表

@ 発表総数(国内 0件、国際 8件)
  A 論文詳細情報

  • Priming of Centromere for CENP-A Recuruitment by Human hMis 18α, hMis18β, and M18BP1, Fujita, Y., Hayashi, T, Kiyomitsu, T., Toyoda, Y., Kokubu, A., Obuse, C., Yanagida, M., Developmental Cell 12, 17-30, January 2007
  • Two-step, extensive alterations in the transcriptome from G0 arrest to cell division in Schizosaccharomyces pombe., Shimanuki M, Chung SY, Chikashige Y, Kawasaki Y, Uehara L, Tsutsumi C, Hatanaka M, Hiraoka Y, Nagao K, Yanagida M., Genes Cells. 2007 May;12(5):677-92.
  • Human Blinkin/AF15q14 is required for chromosome alignment and the mitotic checkpoint through direct interaction with Bub1 and BubR1., Kiyomitsu T, Obuse C, Yanagida M., Developmental Cell 13(5):663-76, Nov.2007
  • Cut1/separase-dependent roles of multiple phosphorylation of fission yeast cohesin subunit Rad21 in post-replicative damage repair and mitosis., Adachi Y, Kokubu A, Ebe M, Nagao K, Yanagida M., Cell Cycle. 2007 Dec 29;7(6)
  • Rapamycin sensitivity of the Schizosaccharomyces pombe tor2 mutant and organization of two highly phosphorylated TOR complexes by specific and common subunits., Hayashi T, Hatanaka M, Nagao K, Nakaseko Y, Kanoh J, Kokubu A, Ebe M, Yanagida M, Genes Cells. 2007 Dec;12(12):1357-70.
  • Tel2: a common partner of PIK-related kinases and a link between DNA checkpoint and nutritional response?, Kanoh J, Yanagida M ., Genes Cells. 2007 Dec;12(12):1301-4. Review.
  • Dissection of the essential steps for condensin accumulation at kinetochores and rDNAs during fission yeast mitosis, Nakazawa N, Nakamura T, Kokubu A, Ebe M, Nagao K, Yanagida M .J Cell Biol. 2008 Mar 24;180(6):1115-31.
  • Diminishing HDACs by drugs or mutations promotes normal or abnormal sister chromatid separation by affecting APC/C and adherin, Kimata Y, Matsuyama A, Nagao K, Furuya K, Obuse C, Yoshida M, Yanagida M .. J Cell Sci. 2008 Apr 1;121(Pt 7):1107-18.


2) 特許出願

@ 平成19年度特許出願内訳(国内 0件)
  A CREST研究期間累積件数(国内 0件)

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