研究への情熱映像と取材記事

SHARE

  • Facebook
  • Twitter
  • Google

革新的画像解析技術を用いた広域宇宙撮像データ分析

  • スパースモデリング
  • 深層学習
  • ベイズ推定
  • 天体活動シミュレーション
  • 重力レンズ
  • 宇宙の物質分布統計解析

吉田 直紀

(東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 教授)

2010年代以降、「宇宙の加速膨張」、「太陽系外惑星」、「銀河系中心の巨大ブラックホール」など、宇宙観測による発見がいくつもノーベル物理学賞に選ばれている。いずれも観測技術の向上と、得られた観測データの解析手法の開発が相まって上げられた大きな成果であり、私たちの現代科学的な宇宙観を形づくってきた。吉田さんは、最新の天体望遠鏡で遠くの天体を観測し「宇宙の歴史絵巻物」をつくろうとしている。膨大な天体画像の解析に人工知能(AI)は欠かせない技術だという。

遠くの天体の観測から
宇宙の過去・現在・未来を描き出したい

夜空を見上げると、暗い空間に星々が散らばっているように見える。一見何もないように見える暗い空間も、ズームアップしていくと遠くに天体が存在していることがわかる。「ハワイにある国立天文台のすばる望遠鏡は、私たちの目に見える星より約20等級も暗い星の光を捉えています。東京大学の木曽観測所にあるトモエゴゼンは、宇宙の動画を撮り続けています。このような天体望遠鏡の性能向上によって新たに見えるようになった天体から何を読み解くかが、宇宙研究の使命です」と吉田さん。遠くの天体の画像データから、宇宙の成り立ちに迫ろうとしている。

中でも、遠くの夜空で探しているのは、Ia型超新星だ。超新星とは、最期を迎える星が大爆発を起こして突然明るく輝きだす現象をいう。さまざまな超新星がある中で、Ia型には宇宙のどこで起こってもほぼ同じ明るさで輝くという特徴がある。「同じ明るさなのに暗く見えたら、より遠いところにあるということです。つまりIa型超新星は距離の指標になるのです」とこの星を探す理由を説明する。

しかし、すばる望遠鏡の1枚の写真には約50万の天体が写っており、この中から超新星を見つけることも、Ia型超新星を選り分けることも人の目では難しい。そこで吉田さんはAIを駆使する。「AIは犬や猫の画像判別が得意です。それをチューニングして、超新星を自動判別できるように学習させました。夜空を一晩観測した画像から、100個ほど超新星を見つけてくれます」。

見つかった超新星の中からIa型を見つけるのも、AIだ。Ia型超新星の「急激に明るくなって1カ月くらいで消えていく」という特徴を、AIが画像から自動的に判定する。今では、天体画像から96%の確率でIa型超新星を判別できるため、研究は一気に加速することになった。

吉田さんの研究のもう一つの柱は、宇宙のどこにどのくらいの物質があるかを表す「宇宙の地図」をつくることだ。そのために、遠くにある変わった形の銀河を探す。その典型例がスマイル銀河だ。「笑っているように見えるのでスマイル銀河と呼んでいますが、実際にこんな形をしているわけではありません。光の経路の途中に非常に重い物質が集まった場所があり、光が重力によって曲げられるために、銀河の形が歪んで見えるのです」。この重力レンズ効果はアインシュタインの一般相対論で説明される現象で、銀河の見え方(光の経路)から、どこにどのくらい物質があるかを逆算で求めることができる。

すでに300万個の銀河画像を解析して、3億光年ほどの空間について地図づくりを終えている。「これが、私たちがつくったこれまでで最大の宇宙の姿です。白い部分に物質が集まっていて、黒い部分には物質はあまりありません。宇宙の中の都会と田舎といったところでしょうか。現在は、この15倍の範囲の地図づくりを進めています」。

吉田さんはこのような「遠いIa型超新星の解析」と「宇宙の地図づくり」から、宇宙が生まれてからどのように進化してきたのか、宇宙はこれからも膨張を続けるのか、あるいはどこかで収縮に転じるのかなど、宇宙の過去から未来までを明らかにしてくつもりだ。

「これほど大量の天体画像解析は私たちが初めてで、ゼロからのスタートでした。私の宇宙の知識をAI画像解析技術にどう活かすのかを、情報科学の研究者や企業の方たちと試行錯誤してきました」。一定の成果をあげた今は、この天体画像用のAI技術を異常検出などの分野で社会に役立てられないかと考え始めているという。

一方で、AIによる天体画像解析は、今後、さまざまな研究テーマへの展開が期待される。吉田さんは、「まったく新しい天体を求めて『ディスカバリーモード』で夜空の画像を観測することがあるのですが、ある日、トモエゴゼンの動画の中に、1秒間だけ輝く天体を見つけました。このような未知の天体の発見にも、AIの画像解析技術が威力を発揮すると思っています」と話す。

吉田さんはさらに、膨大な天体画像のデータを将来的に活用していくための方策にも、AIが役立ってほしいと考えている。「現在、私たちが利用できているデータは観測画像や動画のごく一部です。利用していない部分に、将来、重要になる天体や宇宙現象が写っているかもしれません。それをどうやって残していくかが問題です。まったく未知の天体画像に対して、AIが『これは大事そうだから取っておくといい』などと判断できるようにならないものでしょうか」。

どのようにして星々ができて銀河になり地球が生まれて生命が誕生したのかという「宇宙の歴史絵巻物」。それをひも解く鍵は未解析の膨大な天体画像データの中に隠れているのかもしれない。AIという強力な味方を得た吉田さんの探求は続く。

*取材した研究者の所属・役職の表記は取材当時のものです。

研究者インタビュー

インタビュー動画

SHARE

  • Facebook
  • Twitter
  • Google

研究について

この研究は、AIP加速課題の一環として進められています。また、AIP加速研究の詳細はこちらをご参照ください。

  • AIP
  • 戦略的創造研究推進事業 研究提案募集