独立行政法人
 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(ERATO)
上田マクロ量子制御プロジェクト
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0.イントロ
1.相互作用制御
2.不確定性制御
3.強相関量子制御
4.理論
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これまでの冷却原子の歩み


極低温のガスの振る舞いを研究することが、なぜいろいろな物理現象の理解に役立つのでしょうか?学問の重要な目的のひとつに「複雑な事象の裏側に潜む原理を純粋な形で取り出すこと」があります。一端純粋な形になったものは、理解しやすく、また応用もしやすいからです。量子気体の研究が現在これだけ注目を集め、また活発なのも、数々の重要な物理現象をもっとも純粋な形で目に見せてくれるからです。

中でも超流動、超伝導とのかかわりは最も重要です。1995年以前、超流動を示す物質は液体ヘリウムに限られていました。しかし液体ヘリウムは密度が高く、同時にたくさんの原子が互いに相互作用を及ぼしあっています。そのため、単純な解析は用を成しません。これに対して、気体を使うという発想は物事を非常に単純化してくれます。相互作用は平均場で非常によく近似できてしまいます。密度が低いために、原子が「たまたま」3つも4つも参加するようなプロセスは無視することができるわけです。

しかし技術的には気体を使うというのは非常な困難をもたらします。それは密度が低い分、余計に冷やさなければならないからです。超流動を実現する温度、すなわちボーズ凝縮を実現する温度は密度の3分の2乗に比例します。そのため、液体ヘリウムでは2ケルビンまで冷却すれば十分だったのが、気体では1マイクロケルビン(百万分の1度)またはそれ以下、まで冷却する必要が出てきます。これが、最近まで実験的に希ガス原子のBECが達成されなかった理由です。

しかし一端実現されるやいなや、BECやフェルミ縮退気体を中心とした量子ガスへの興味は止まるところを知りません。1995年を境に、BECを直接にタイトル、アブストラクト、もしくはキーワードに指定した論文の数は右肩上がりの増加を続けています。1995年のBECの実現からまだ6年、1997年の冷却原子関連のノーベル賞からも4年しか経っていないにも関わらず、E.A. Cornell, W. Ketterle, C. Wiemanの3氏に2001年ノーベル物理学賞が与えられました。最近でも、例えば2004年には、物理分野の主要な論文誌であるPhysical Review LettersのホームページはD.S. Jinのフェルミ縮退気体を用いた超伝導の研究を半年にわたってフィーチャーし続けました。これらは冷却原子の研究がいかに物理学全体に大きなインパクトを与え続けているかを端的に語るものです。



百万分の1度で起こる純粋な物質系
(Image from Wolfgang Ketterle’s group)



冷却原子の研究にノーベル物理学賞
(1997年2001年)

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