独立行政法人
 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(ERATO)
上田マクロ量子制御プロジェクト
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0.イントロ
1.相互作用制御
2.不確定性制御
3.強相関量子制御
4.理論
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「強相関量子制御:人工量子物質の創製」

背景と目的:
冷却中性原子は電気的に中性であるために電子系に比べて格段に相互作用が弱く,超伝導など量子凝縮系の理論の構築,検証に非常に有用な系であると同時に,その原子間相互作用が外部磁場によって変調できるという他の粒子系に見られない性質があります(フェッシュバッハ共鳴)。この性質を利用すると,原子間相互作用の強い系から弱い系,さらには斥力相互作用から引力相互作用まで様々な系が外部から加える磁場強度を制御するだけで実現できます。そして現在その性質を利用してボーズ凝縮体の原子間引力相互作用による崩壊過程の検証やソリトン伝搬,分子状態の生成からBEC-BCSクロスオーバーといった興味深い実験が次々となされてます。今後,原子の量子凝縮系が低温物理学や量子物性物理学で長年議論されている多体量子系の物理を展開する大きなフィールドになるのは間違いないと思います。

格子に閉じ込められたfermion:概念図 そのような背景の中で本グループは、これまで物性物理の実験分野で、相互作用の強さやキャリアー密度、不純物の影響、次元性の効果などを明確に切り分けることができなかったためにその本質が解明できなかった問題を、冷却中性原子を用いて解明することを目標としています。近年冷却原子による原子物理の分野では光格子を用いた実験が盛んに行われています。光格子とはレーザー光を対向するように入射することによりできる定在波の腹または節の位置に原子をトラップすることで冷却原子を格子状に並べる技術です。この技術を利用すると冷却原子が格子状に並んだ「物質」を作ることができます。そしてこの「物質」は、光格子を作るレーザーのパラメータを変えるだけで、格子間隔、格子間の原子のトンネル確率、オンサイトの相互作用、格子の次元(1次元格子から3次元格子まで)、充填率、格子の配置(正方格子、三角格子、カゴメ格子など)といった物質の性質を決める重要な要素を容易に変えることができます。おそらく上述のすべてのパラメータを変えることができる(しかも装置のノブを回すだけで容易に変えることができる)物質はこの冷却原子の光格子しか存在しないでしょう。我々は、このとてつもなく大きな自由度を持った「物質」を真空中に作り、その物性を調べることでこれまで明確な答えが出されていない固体物理の難題に挑戦しようと考えています。

研究内容:
反強磁性と相分離:概念図 本グループでは特に、量子相間が系の状態に強く影響を与える系(強相関系)の物理を、光格子中の極低温フェルミ同位体原子のダイナミクスを観測することで明らかにすることを目指しています。マイクロケルビンの温度領域まで冷却されたフェルミ原子を3次元光格子に導入すると、フェルミ原子の量子統計性とその原子間相互作用により系の状態が決まります。フェッシュバッハ共鳴を用いて原子間相互作用を変化させると、光格子中の原子の運動状態やトンネル確率などとの兼ね合いでさまざまな相が発現することが予言されています。その中で我々は特に金属-絶縁体転移の観測や反強磁性状態の実現、s波およびd波超流動状態、三角格子上に配置された反強磁性原子のフラストレートした基底状態の観測といったテーマについて研究を行っています。

(以上)