取材Note

2024年度採択中央大学のプロジェクト

取材日
2025年10月27日
取材場所
中央大学 後楽園キャンパス
若手人材交流コース
コース詳細

脱炭素を目指した次世代水処理膜プロセス

日本側実施主担当者:
山村 寛(中央大学理工学部 人間総合理工学科 教授)
ASEAN側実施担当者:
Marianito T. Margarito(フィリピン産業技術開発研究所(ITDI))

目覚ましい発展をとげるASEAN諸国では、水やエネルギーの不足や環境破壊、衛生状態の悪化などが進行し、人々の生活を脅かす様々な課題に直面しています。フィリピンでも、急速な人口増加に伴って、生活および経済活動に必要となる「淡水資源」や「安心安全な水」への関心が急速に高まり、環境への影響に配慮した水処理技術や、インフラ整備が求められています。

「水」の理想的な循環を目指した研究を推進している中央大学理工学部人間総合理工学科「水代謝システム研究室(山村研究室)」は、フィリピン産業技術開発研究所(ITDI)の若手研究者とともに、「脱炭素を目指した次世代水処理膜プロセス」をテーマとした日本・フィリピンの研究交流プロジェクトを実施しています。日本側の参加メンバーは実施主担当者の山村寛教授と、研究室に所属する大学生・大学院生計7名。フィリピン側は、Marianito T. Margarito博士を筆頭とした、材料科学、化学などを専門に研究するエキスパート6名です。

山村教授は、フィリピン科学技術省(DOST)と科学技術振興機構(JST)が2024年5月27日にフィリピンで開催した「水の安全保障に関するワークショップ」に参加。そこでMarianito博士と知り合い、3Dプリンターと水処理とを組み合わせた研究に関して意気投合したことが本プロジェクト企画の契機となったことを教えてくださいました。将来的には、本プロジェクトを水環境・材料科学分野に関わる若手研究者主導の本格的な国際共同研究に繋げることを目標に掲げています。

■日本側メンバーのフィリピン訪問

2025年5月、まず日本側のメンバーがフィリピンを訪問。都市部・島嶼部・農村それぞれにおける水関連施設を見学し、農業における用廃水処理の現状などについて理解を深めたとのこと。また、フィリピン科学技術省(DOST)にて特別講義、研究発表の場および3Dプリンター実習も設けられたそうです。

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フィリピンの研究者から最新の樹脂式3Dプリンターについて説明を受ける山村研究室の学生たち(写真提供:中央大学山村研究室)

<日本の大学生・大学院生の声>

  • ・私は、海水を淡水化する研究に取り組んでいるので、実際にフィリピンのプラントを見学して、自分が専門にしている研究の成果が活かされている現場を目のあたりにし、研究へのモチベーションが上がりました。現場を見ることは大切だと思いました。
    たくさんの研究者の発表を聴いて、自分が発表したわけではないのですが、いろいろな視点、アプローチの仕方があることが分かり、勉強になりました。(山村研究室 大学生)
  • ・自分が携わっている研究が海外で役にたっていることを知りました。現場を訪れたからこそ、改めて認識を深めることができました。下水処理場では、膜を作る研究などについて分かり易く説明してもらいました。専門用語を知らなかったので少し苦労をしましたが、勉強になりました。また、現地で研究発表も行い、その後にたくさんの研究者からフィードバックをもらえたこともよかったです。研究への理解が深まりました。(山村研究室 大学院生)
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山村研究室の大学生(左)と大学院生(右)

<フィリピンの研究者の声>

  • ・日本の学生の皆さんとの研究交流はとても生産的で、私たちが手がけている研究の進捗や課題を共有できました。多くの共通点もあり、ともに取り組んでいけることも見つかりました。私たちの研究所で膜製作のための材料特性評価施設も見学してもらいました。
    双方が新しい知識や視点を得ることができて良い交流ができたと思います。 (ITDI 研究者)
  • ・日本の皆さんは、フィリピンの多くの水処理施設を訪れることで、フィリピンの状況を把握し、それをどのように改善できるかについて理解を深めたと思います。例えば、フィリピンの混雑した地域に適したコンパクトな技術や、島が多いフィリピンにとって有益な海水淡水化技術の必要性について考えることができたのではないでしょうか。(ITDI 研究者)
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フィリピン ITDIの研究者の皆さん

■フィリピン側メンバーの日本訪問

取材当日は、ちょうどフィリピン側のメンバーが来日中。翌日から開始される、上下水道施設(横浜市川井浄水場、大阪市海老江下水処理場、北九州市日明浄化センター)、膜技術研究所・膜メーカー工場(東レや明電舎など)および海水淡水化施設(福岡市まみずピア)への訪問に備えて、山村教授による「次世代膜処理システム」に関する講義が行われていました。フィリピンの研究者たちにとって現場見学は、日本の上下水道における膜処理や質の高い水インフラ技術、脱炭素に向けた水マネジメントをリアルに体感できるまたとない機会とあって、とても期待値が高いように見受けられました。山村教授に「都市部での合流式下水道の割合や、気候変動による水質変化にどのように適応しているのか」「膜の汚染などの問題はどのように対応するのか」など、積極的に質問を投げかける様子が印象的でした。

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<フィリピン側実施担当者:Marianito博士の声>

  • ・私たちは淡水化の技術と膜バイオリアクターの2つの技術に非常に興味を持っています。フィリピン科学技術省の事務次官も、島嶼部で適用可能な技術について調査を指示しています。これらの島々は孤立していて、海水淡水化こそが清潔な水にアクセスするための唯一の技術となるためです。また、フィリピンには多くの過密地域が存在しているので、コンパクトな廃水処理技術にも注目しています。また、5月に山村研究室の学生さんが紹介してくれた概念の中には、再利用が可能なコンクリートを膜バイオリアクターの製造に用いるというものがあり、これは共同研究の出発点となる可能性があると思いました。フィリピンで採用可能な技術への理解をさらに深め、山村研究室との連携を継続していきたいと思っています。本プロジェクトは本格的な共同研究の良いスタートです。
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ASEAN側実施担当者 Marianito博士(手前)

フィリピンITDIの研究者の皆さんは、水関連施設などの訪問の後、11月6日まで日本に滞在。本プロジェクトの総仕上げとして報告会を行うとのことです。
本プロジェクトで得た研究成果、培った絆が、日本とフィリピンの若手研究者主導の新たな国際共同研究へと発展することを心から期待します。

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取材日当日にお会いできた皆さんで記念撮影
前列右から3番目が、日本側実施主担当者の山村教授
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