ERATO 巨視的量子機械プロジェクト Macroscopic Quantum Machines

PROJECT OVERVIEW

概要

超伝導量子回路

超伝導量子ビットは、そのままでは動きません。超伝導量子ビットを周囲の劣悪な環境から保護するための工夫や、超伝導量子ビットを安全に読みだす方法、また超伝導量子ビットどうしを結合する方法が必要となります。この目的の実現のために、世界各国で面白い素子の開発が活発に行われています。量子力学的な力を上手に用いた超伝導による回路素子を、超伝導量子回路と呼びます。

図:超伝導量子回路

マイクロ波

携帯電話に代表される通信や、加熱のための電子レンジ、人々の安全を守る車載レーダーなど、マイクロ波は身の周りにあふれています。マイクロ波は光と同じ電磁波の仲間であり、その波長は数センチです。このためマイクロ波素子はその大きさが手のひらサイズであることが多く、電磁波に対する境界条件を使った面白い素子をセンチメートルまたはミリメートルスケールで実現することができます。

希釈冷凍機

四方を壁に囲まれた常温の空間を考えましょう。壁の温度は常温ですので、この壁から黒体輻射が起こり、その空間中にはたくさんのマイクロ波熱雑音が存在します。この雑音から量子ビットやマイクロ波量子を守るために、私たちは壁の温度を0.01ケルビン(=-273.13℃)まで冷却し、壁からの輻射が小さくなるように工夫します。希釈冷凍機はこの極低温環境を作り出す装置です。この環境下では、マイクロ波は熱雑音に妨害されることなく、量子力学的に振る舞うことができます。

マイクロ波共振器

鏡を数センチ幅で対向し置くことを考えましょう。鏡に向かって伝搬するマイクロ波は鏡にぶつかり反射し、往復するようになると外の空間に逃げることはできません。このときマイクロ波は外の空間から隔離されこの空間に閉じ込められているのです。この構造を共振器と呼びます。量子力学的に振る舞うマイクロ波もこの共振器の中に閉じ込めることができ、量子状態を格納するメモリ素子として用いることができます。また共振器中に超伝導量子ビットを置くと、超伝導量子ビットが外界の雑音から守られます。超伝導量子ビットは安心した共振器の中に暮らし、外界とのおしゃべりは共振器を介することで実現されます。

図:マイクロ波共振器

標準量子限界増幅器

超伝導量子ビットや量子力学的に振る舞うマイクロ波の信号は、10ナノボルトと非常に小さな信号です。私たちがこの信号を観測するためには、熱雑音に埋もれることの無い優秀な増幅器が必要となります。熱雑音の無い極限では、量子力学的な不確定原理に起因する雑音、いわゆる量子雑音が顕著となります。この極限で動作する増幅器を標準量子限界増幅器と呼び、私たちは超伝導回路によりこの増幅器を実現します。この増幅器により熱雑音に影響されることなく量子ビットやマイクロ波の信号を得ることができます。

超伝導回路を用いた量子情報処理

私たちのプロジェクトでは、超伝導量子ビットを中心とした大きな巨視的量子機械を作ります。共振器中に閉じ込められた量子ビットは外部環境から守られており、共振器を通じて制御されます。量子ビット間の結合は、専用の共振器または超伝導回路を介して誘起されます。微弱なマイクロ波を共振器に導入することで量子ビット状態の測定が行われ、標準量子限界増幅器によりその読み出しを行います。

このプロジェクトでは、3×3の量子ビット列を基本とし、18量子ビットまで拡張することを目指します。この基本3×3量子ビット列が一つのブロックとなり、今後大きな系に拡張されるように基本設計を行います。制御線が背面から導入される垂直三次元実装を実現し、将来に向けた拡張性を確保します。さらに高速デジタル信号処理装置を開発し、量子ビットの完全コヒーレント制御を目指します。この1ブロックの上で量子誤り検出を行うと、量子状態の崩壊に対して耐性を持たせることができるようになります。

図:超伝導回路を用いた量子情報処理

マイクロ波量子光学

極低温下にあるマイクロ波は、熱雑音が十分小さいために量子力学的に振る舞います。量子力学的なマイクロ波は、量子状態を遠くに運ぶ良い担体だけでなく、それ自身が信号処理を行うことができます。超電導量子ビットや超伝導回路の特性を使うと、あたかも量子状態が伝搬しながら量子情報処理を行うことができるのです。本プロジェクトではそのようなマイクロ波を中心にした信号処理回路の実現を目指します。