ERATO 巨視的量子機械プロジェクト Macroscopic Quantum Machines

PROJECT OVERVIEW

概要

イントロダクション

ERATO巨視的量子機械プロジェクトでは、量子力学の原理を活かした優れた情報処理技術を実装するためのプラットフォームとなる「機械=マシン」を実現することを目指します。

量子の力

量子力学は、物理学の基本的な理論として多くの科学分野の発展の基礎となり、半導体集積回路や光ネットワークの実現にも貢献して、現在の情報社会の隅々にまで恩恵をもたらしています。その量子力学のさらなる活躍の場として、今世紀に入る前後から湧きおこってきた新たなアイデアが量子情報科学です。

量子情報科学

従来の情報技術においては量子力学がいわば縁の下の力持ちであったのに対し、量子情報科学のもとでは、量子力学の持つ重ねあわせや量子もつれといった性質が最大限に活かされて、優れた応用につながると期待されています。量子コンピュータや量子シミュレーター、量子暗号通信などがその例として挙げられます。そこでは情報の基本単位として、ビットの代わりに量子ビットが用いられます。

図:量子情報科学

課題

しかし、量子ビットの状態を長い時間にわたって保ち続け、そのうえで自在に状態を制御するためには、雑音による誤りの発生など、いまだに多くの課題が存在します。それを乗り越えて「量子機械」を動作させることにハードウェアとソフトウェア(=理論)の両面から挑みます。

「巨視的」のこころ

「巨視的」という言葉には以下の3つの意味をこめています。

(i)
 多数の量子ビットを集積化した「大きな」機械を制御します。
(ii)
超伝導回路の中の電子のような、たくさんのミクロな要素が集団として運動することにより実現される、ミリメートルスケールの「目に見えるような大きさ」の量子ビットを用います。
(iii)
超伝導量子ビットと他の量子系を組み合わせて、「幅広い」エネルギースケールで、「長い」距離に及ぶ量子制御を行います。

これらが、本プロジェクトで行う研究の特徴であり、目標になっています。

図:「巨視的」のこころ

超伝導量子ビット

通常、電気回路が量子力学的に振る舞うなどと考えることはなく、その必要もありません。しかし超伝導電気回路をうまく設計して、低温・低雑音の環境で操作すると、その量子力学的な性質があらわになってきます。1999年に、本プロジェクト研究統括の中村らによって、世界初の超伝導量子ビット回路が実現されました。その後の研究の進展により、量子ビットの性能が飛躍的に向上しています。その結果、最近では世界中で量子ビットの集積化へ向けた大規模な研究・開発が始まっています。

集積化された多くの量子ビットの上で、任意の量子状態を自在に操り、長時間保持し続けるということは、いまだに人類の到達していない挑戦的課題です。巨視的量子機械プロジェクトはそのゴールを目指して進んでいきます。