成果概要

成果概要

発達する乳児/ロボットが社会の中で関係を築いていく際,時定数の異なる複数の構造の相互作用現象に直面する.本グループでは,築かれていく社会関係の複雑さを,身体・環境・他者を含む社会への働きかけに対して生じる変化の時定数の違いで分類可能であると考え,様々な時定数での相互作用の実現について考える(図1).小さな時定数の相互作用は,同時あるいは直後と呼べる潜時での変化を伴う現象であり,接触などの身体的相互作用がターゲットとなる.これよりも大きな時定数の相互作用では,他者と対面する場面のように,一瞬以上の間をおいての応答が繰り返される対面相互作用を扱い,さらに大きな時定数の相互作用では,複数の他者と対峙する場面のように,他者同士の応答が存在することにより,より大きな潜時でフィードバックが返ってくるような社会的相互作用を取り扱う.

これまで目的(a)に対応する取り組みとして,これらの幅広い時定数の現象をカバーする構成論的研究のプラットフォームとして幼児アンドロイド (CB2)を開発した.さらに,身体的相互作用,対面相互作用,社会的相互作用それぞれの研究を意図した汎用ヒューマノイドプラットフォーム M3-Neony,M3-Kindy,M3-Synchyを開発した.また,目的(b)(c)に対応する取り組みとして,ロボットを用いた実証実験と人の親子の観察実験の両面から仮説形成と検証を実施してきた.具体的には,ロボット用いたアプローチにおいて,特に身体的相互作用に関して,(1)全身触覚を備えたロボットの自他分離の実現,(2)バイアス・ランダムウォークによる全身運動学習,(3)他者の介助を伴う動的運動の実現を課題とした.また対面相互作用に関しては,(4)相互応答を通じた対人認知のモデル化,(5)他者の随伴性に基づく社会行動学習に注目し,社会的相互作用に関しては,(6)他者を介した対人認知のモデル化に注目し研究を実施した.一方,親子観察のアプローチにおいては,特に対面相互作用が可能になる過程に注目し,(1)乳幼児期における身体運動の時間的制御機能の発達過程の追跡調査,および脳機能イメージング研究の知見に基づいた(2)社会的認知機能の創発・発達の脳機能モデルの構築を実施した.

図1 異なる時定数にわたり構成した相互作用と研究マップ