筋骨格赤ちゃんロボットによるロコモーションの実現

筋骨格赤ちゃんロボットによるロコモーションの実現

図1 筋骨格赤ちゃんロボット Pneuborn-7II

7か月の乳児を想定したPneuborn 7Ⅱは,寝返りやはいないなど,初期のロコモーションの獲得と,身体の形態の関係を調査するために試作された. これらのロボットは,実際の赤ちゃんと同じサイズである一方で人工筋によって駆動されるために,柔らかい運動を実現可能であり,ロボット全体の起立を支えたり,はいはいすることができるなど,ダイナミックな運動を実現できる.

筋骨格赤ちゃんロボットPneuborn-7では,空気圧人工筋によって構成される筋骨格系を利用して,はいはいや寝返りができる赤ちゃんロボットを実現することができるかを調べた [成岡2008]. さまざまな実験を通して,背骨の柔軟性が初期のロコモーションにとって重要であるという結論に至り,これに従って,柔軟な背骨を持つ赤ちゃんロボットPneuborn 7Ⅱを開発した [成岡2009a] [narioka2009]

図2 四肢に配置されたCPGとそれらの間の位相差

ヒトの歩行などのロコモーションは,リズム生成系と筋緊張制御系を介して生成されることが知られる.リズム生成系は網様体脊髄路および脊髄CPG(Central Pattern Generator),筋緊張制御系は脳幹網様体から構成される. 赤ちゃんのロコモーションの発達プロセスを考える際にも,運動をリズミックかつ全身協調的なものとして捉え,リズム生成系と筋緊張制御系の両者を考慮することが重要であると考えられる.このような観点を踏まえ, 開発した赤ちゃんロボットPneuborn 7Ⅱを用いて,初期ロコモーションの一つであるはいはいの獲得実験を行った.まず,ロボットの四肢および体幹の各関節にリズミックな運動を生成する振動子(CPG)を配置し,それらの振動子間の位相差を, ロボットの前進量を最大化するように学習させた.CPGのパラメータの探索方法はPowell法を用いた.Powell法とは,関数の勾配情報を必要とせずに最大値を探索する手法で,確率論的な最適化手法に比べて収束速度が大きいため,実環境でのオンライン学習に適している.この学習則によってはいはいの学習が可能であることを示した [成岡2009]

図3 3つの脊椎姿勢

次に,ロコモーションと姿勢筋の緊張の関連を調査するために,3つの脊椎姿勢(弛緩,屈曲,伸展)について学習実験を行い,ロボットのふるまいを比較した [成岡2010].学習に伴う移動速度の変化を図4に示す.屈曲状態の場合には,赤ちゃんロボットは前進せず,後退する. 弛緩状態でも前進運動は学習可能であるが,伸展状態に比べると,前進速度は小さいのが分かる.図5に,学習中の肩―体幹,股―体幹の位相差と,その位相差でCPGが駆動されるときに,どのくらいの前進速度であるかを色で表したものを示す. 体幹が弛緩,屈曲している場合には,探索の範囲が非常に限られるのに対し,体幹が伸展している場合には,広い範囲で前方に進むパラメータの組があることが図から見て取れる.

図4 学習に伴う移動速度の変化

図5 学習中の位相差(縦,横軸)と移動速度(色)

赤ちゃんロボットは,柔軟な身体を持ち,実際に環境内を動きまわることによって学習を積み重ねる.身体が柔軟である場合,地面との相互作用はあらかじめ数理モデルに書き下すことが非常に難しく, ロボットによって実験することによりデータを収集することが効率的,かつロコモーション学習の本質を見失いにくいと考えられる.また,空気圧を駆動力として用いることにより, 長時間の実験にも熱によるトラブルが起きず,ライフタイムの実験が可能となるのも,このプラットフォームの大きな特徴である [成岡2010]