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  3. 未成年者のネットリスクを軽減する社会システムの構築
写真:鳥海 不二夫

鳥海 不二夫東京大学
大学院工学系研究科 教授

未成年者のネットリスク軽減に向けた
技術や教材の開発

ネット上で生じる誘い出しやいじめなどは実態が把握しづらいため、SNS事業者と協力してリスク検出技術を開発するとともに、学校で利用できるネットリテラシー教材を制作しました。

概要

現在、未成年のネット利用が普及した結果、誘い出し被害や児童ポルノ(自撮り被害)、ネットいじめなどが社会問題化しています。
本プロジェクトでは、未成年者が抱える、観測困難なネット利用リスクを軽減するためのネットリスク事前検出法の確立と未成年者自身に気づきを与えるシステムの実現を目指し研究を行いました。特に、誘い出し、ネットいじめなどの実態を把握しづらいネット上で生じる未成年者が晒される危険性の高いリスクを対象とし事前検知手法を開発しました。またネット空間で発生する事象に対して公的強制力の発動は困難であるため、適切な情報提供により、未成年者本人及び保護者の自主的な対応力の強化のための教材を開発しました。

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研究開発の成果

誘い出しやネットいじめといった未成年者のネットリスク検出技術に関しては、SNS事業者及びフィルタリングソフト開発会社と共同でネットリスク検出技術を開発し、その精度評価を行いました。
ネットリスク教育法に関しては、利用されるデバイスやアプリに変化があっても対応できる力を身につけることと、教員側に特別の研修がなくとも実施が可能であることを念頭に教材および教員用マニュアルを制作しました。
また、未成年者保護システムの社会への導入に関しては、初年度に実施した事業者へのヒアリング調査の結果、SNS事業者自身の利潤最大化動機と整合的なシステム導入は困難であることが分かり、社会全体としての費用負担意向の計測に切り替え、個人による費用負担に着目し具体的な支払意思額の推計値を得ました。

研究開発のアピールポイント

ネットリスク検出技術と未成年者保護システムの開発・実装

複数のSNSにおいて、誘い出し検知アルゴリズムの開発を行いました。個人情報や通信の秘密に考慮した言語情報を利用しないアルゴリズムを開発し、ユーザのデモグラフィック属性やメタデータ、ユーザ関係ネットワーク構造など、様々なデータを統合的に利用して、計画的に誘い出し行為を行っているユーザを検出する技術の開発に成功しました。

実効的なネットリスク教育法の開発

ネットリスク教育法に関しては、利用されるデバイスやアプリに変化があっても対応できる力を身につけること、また、教員側に特別の研修がなくとも実施が可能であることを念頭に、教材および教員用マニュアルを制作しました。これらは、朝などの自習時間や一般の教科の授業内で利用できたり、生徒の実情を浮かび上がらせる教材では特別の知識がなくとも授業が可能であったりといった特徴を持つ教材となっています。

リテラシー教育、規範意識、ネットトラブル発生確率の関係性調査

ネット利用実態調査から、未成年がネットいじめ(6.74%が経験)や、知らない人からのメッセージの受信(41%)などのリスクにさらされている実態が分かりました。さらに情報リテラシー教育の効果も限定的で、ネットいじめの被害経験などには差が見られませんでした。これは、ネットいじめやメッセージ受信が受動的な被害であり、教育を受けたことによる能動的な行為だけではリスクを軽減できなかった可能性がありますが、従来の情報リテラシー教育の中容などに課題があり、十分な課題解決につながっていないことも示していると考えられます。

成果の活用場面

ネットリスク検出システムは未成年者が利用するSNSに導入することで、未成年者の誘い出しなどをたくらむ大人の早期発見ができるだけでなく、リスクの高い未成年者に対して事前にアラートを出す、高リスクな大人と高リスクな未成年者との接近を防ぐなど、リスクの発生を未然に防ぐ対策に利用することが可能です。
また、教材は中学校や高等学校の授業時間内、自習時間内にて利用します。数学教材やワークシート教材は、ネットリスクに関する知識を確認するものであり、マンガ教材やゲーム教材は、さまざまな考え方や生徒たちの状況を教室内で浮かび上がらせ、互いに理解するきっかけとすることができます。

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成果の担い手・受益者の声

担い手
未成年への事犯という重要かつ困難な問題に対して、問題の背景や行為者の性質を踏まえた問題の整理とアプローチの立案、さらには稼働し続けるためのシステム開発まで、一気通貫の体制で取り組んでいただきました。(SNS事業者)
開発された教材は中高生のリアルな学校生活にフォーカスし、主人公が被害者/加害者ではなく傍観者として描写されている。そのため、十人十色な解釈やコメントが期待でき、多様な視点から情報モラルを主観的かつ客観的に学べる点が有意義であると考える。(情報モラル教育 研修講師)
受益者
このシステムは従来の対策を回避する巧妙な「未成年に対する性的加害者候補」を抽出するものです。これは現在の対策を補完するアプローチであり、ユーザの皆様の安全確保につながるものであると考えています。(SNS事業者)
数学教材によって、短時間でこんなにも多くの人に拡散させるとは感覚だけでしか知らなかった生徒が驚いていた。(中学校教員)

目指す社会の姿/今後の課題

SNS事業者やフィルタリングソフトの開発、リスク教育教材の利用により未成年者の安全を向上させた社会の実現を目指します。一方で、SNSのリスクは統計上の件数が少ないために交通事故などに比べて危険が認知されていないため、プロジェクトで開発した成果が十分に活用されない可能性があります。リテラシー教育を一般教育に組み込んでいくことで自然な教育を実現するとともに、利用者にとって利益のある行動が安全を向上させるような仕掛けをシステムに導入すること、未成年者本人だけでなく、保護者や教員、SNS事業者やシステム開発者等、利害関係者全体にリスクを正しく理解してもらう活動を行うことなどを今度行う必要があります。
また、このような取り組みを特定のSNS事業者だけで導入するのでは十分な効果が見込めません。国内でサービスを展開するすべてのSNS事業者に導入を促す働きかけが必要です。

研究開発の関与者

  • 東京大学
  • 関東学院大学
  • 中央大学
  • 多摩大学

内容に関する問い合わせ先

東京大学大学院工学系研究科
[連絡先] tori[at]sys.t.u-tokyo.ac.jp ※[at]は@に置き換えてください。

事業に関する問い合わせ先

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)
[連絡先] pp-info[at]jst.go.jp ※[at]は@に置き換えてください。