2017.04.14

募集・選考にあたっての國領二郎領域総括の考え方

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本領域の活動も2年目を迎えました。初年の学びを踏まえて、新たなメンバーをお迎えし、さらに充実した活動を進めていきたいと願っています。

根幹の問題意識は不変です。近年急速に発展する情報技術に対して、社会的にその利便性に対する大きな期待がある一方で、その潜在的な負の側面に不安感が持たれている課題に応え、技術が社会と「なじみ」ながら、ともに進化していく状態を生み出すことです。そのサイクルを実現するためには、技術の持つ潜在的な社会的含意を早期に発見し、初期段階で開発者にフィードバックを行うことで、より社会的に「筋のよい」技術を育てることが必要です。逆に、技術の側からも、子供を含む一般の人々、政策担当者、企業経営者などに技術の特性に対する正しい理解を深め、その安全な活用の仕方について能力を高めていただく努力が必要です。昨年はこのことを「技術をめぐる多様なステークホルダーの間に、技術の萌芽段階から有効な対話を行うことで、情報技術を人間に真に貢献するものとして進化させることが可能だろうと思っています。また、逆に社会に向けて各種技術に関する情報提供(リスクコミュニケーションも含め)や技術リテラシー教育を進めることで、社会として技術を受け入れたり、活用したりする能力や意識も高めることも可能だと考えます。つまり人も技術も相互作用しながら変化を続けるものであることから、その双方への働きかけが可能であるというのが基本認識です。技術を社会的に配慮あるものにする努力と、人間の技術を活用する能力の向上の2つが合わさって、人間と技術が『なじんだ』状態を作ることができれば」と表現させていただきました。この基本的な考え方は踏襲いたします。

そのような技術と社会の「対話」を言うのは易いのですが、現実にはさまざまな困難が存在します。対話の基盤となるコミュニケーションのための言語や方法論が必ずしも整備されていないからです。たとえば、AIがもたらす正負の帰結がありますが、その果実に対する「権利」や、災禍への「責任」などを考えないといけません。そのためには権利とは何か、責任とは何かが理解されていなければいけませんし、技術にどんな仕組みを持たせれば、それらが担保されるか、技術側と社会側が共通の理解をもっていないと議論が成立しません。また、技術、社会の双方に対話の訓練を受けた人間を育てる必要もあるでしょう。そんな対話の課題をさまざまな取り組みを通じて解決していくのがこの領域の使命だと考えています。

基本路線を堅持する一方で、昨年の募集活動や事業推進の経験と反省を踏まえて、来年度の募集にあたっていくつかの改善を試みます。

第一は検討の対象とする技術と社会課題の明確化です。昨年、あいまいさを残したことで、せっかく素晴らしい提案をいただきながら不採択になってしまったものがありました。そこで、本年度は「AIなどの情報技術を使った機械が製作者たる人間の直接的介在なく自律的に学習・判断・自己再生産などを行うと考えられる範囲が拡大し、機械と人間からなるシステムにおける人間の役割の根本的再検討が求められるようになってきていることに伴う社会的課題への対応」に焦点を絞らせていただきます。なお、「製作者の意図から独立した機械の自律性は存在するのか、そもそも自律性とは何か」といった根源的な問いについては、否定する議論、肯定する議論を含め様々な議論が存在します。このような問いに関する概念の構築や、その技術的・社会的含意の検討も本領域の対象に含まれるものとします。

第二は欲しいアウトプットの明確化です。昨年は抽象的に「共進化プラットフォーム」と表現したために、領域全体としての何を具体的に残すことを目的としているのか、少し不明確になってしまいました。そこで今年は、共進化プラットフォームの具体的な要素で、領域として特に開発を行いたい次を特定させていただきます。すなわち「情報技術の開発に社会的要請をフィードバックするための方法論」、「リテラシー向上のための方法論」、「技術進歩に政策立案者や経営者が対応して制度設計・経営を行う仕組み」、「技術と社会の対話に参加する人材のコミュニティ」、「技術と社会の対話の共通基盤となる概念の構築」です。それぞれについて、技術開発の実践を通じて行っていただくことを歓迎いたしますが、目的はあくまでも汎用的なモデルとして共進化実現の方法論や道具を後に残していただくことになります。

第三は昨年、少しカバーが薄くなったテーマの重点的募集です。より具体的には、例えば、大きな関心事になっている雇用や経済、経営に対する影響やそのような影響への対応について扱うプロジェクトの採択が手薄になったこと、リテラシー向上のためのプログラムの開発などがないことなどがあげられます。また、基盤的な概念構築(メタ知識)という観点では、宗教学的なフィードバックメカニズムも重要でありながら手薄になっている観があります。さらには、対話に参加して下さる研究者(特に人社系)のコミュニティ形成が引き続き課題だと認識しています。これら以外の提案ももちろんお受けいたしますが、それら手薄になっている提案は若干有利になるかと思います。

なお、本研究開発領域においては、個々の研究開発プロジェクトは、自ら設定した個別の課題に取り組むとともに、他の研究開発プロジェクトや領域全体の共進化プラットフォームと相互作用することで、新しい秩序を生み出す活動に参加していただきます。そのためにも、本研究開発領域では、領域総括および領域アドバイザーが研究開発の進捗状況や成果を常時把握し、研究代表者らと一体となって活動を行うことで、ダイナミックで機敏なマネジメントを実施していきます。この点も他の補助金制度による助成とは異なりますので、ご理解の上ご応募いただくようお願いいたします。