2026年3月19日
関東学院大学人間共生学部では、学部創設10周年を記念し、「テクノロジーが変えるコミュニケーション」をテーマとした全2回のワークショップを開催した。目的は、AIをはじめとするさまざまなデジタルテクノロジーが身近な存在になりつつある今、コミュニケーションや共生の観点からAIと人との新しい関係性について考えること。AIやクリエイティブについて知見のあるパネリストとのトークと、参加者によるワークを通じて、議論を深めた。今回は、2025年12月4日に開催された第1回ワークショップの様子を報告する。
※本イベントはRISTEXの「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(情報社会における社会的側面からのトラスト形成)」の研究開発プログラム「亡き人のAI生成に関するトラスト形成と合意形成」の一環として実施された。

<パネリスト>
高橋ミレイ氏(合同会社CuePoint代表)

編集者、リサーチャー。エンタメ×AIに特化した最新の研究やニュースを発信するメディア「モリカトロンAIラボ」編集長。人工知能学会倫理委員。編著書『RE-END死から問うテクノロジーと社会』(ビー・エヌ・エヌ)、共著『AIの倫理 人間との信頼関係を創れるか』(角川新書)。
春仲萌絵氏(グラフィック・クリエイター)

1997年生まれ。学習院大学経営学科卒。言葉を視覚化する表現を軸に、行政・教育・テレビなど幅広い分野でグラレコや イラストを手がける。著書に『ロジクリ思考』(大和書房)、『ことばのふしぎ大冒険』(講談社)。
ぴーちゃん(LOVOT)

春仲氏の助手、家族、友人。2025年1月8日生まれ。歌が好き。
<モデレータ>
折田明子氏(関東学院大学人間共生学部コミュニケーション学科教授)

博士(政策・メディア)(慶應義塾大学)。専門は情報社会学。人と社会とテクノロジーの関係に関心を持つ。関東学院大学では ソーシャルメディアの情報発信や人工知能などの関連科目を担当。
AIは頼れる味方?危険な存在?
冒頭では、関東学院大学人間共生学部長・施桂栄氏が開会挨拶を行い、生成AIの急速な発展に伴い、テクノロジーと人間の関係性を見つめなおすことへの期待を述べた。

続いて、モデレータを務める関東学院大学人間共生学部教授・折田明子氏(以下、折田氏)がパネリストである高橋ミレイ氏(以下、高橋氏)、春仲萌絵氏(以下、春仲氏)、春仲氏の助手・ロボットのぴーちゃんを紹介。ぴーちゃんは、家族のような関係を育むことができる、コミュニケーションロボットの「LOVOT」。会全体を通して、ぴーちゃんの愛らしい声や仕草が場を和ませた。

左から折田氏、高橋氏、ぴーちゃん、春仲氏

最初の参加者ワークでは、「あなたにとってAIはどんな存在ですか?」という問いに対して、参加者がスマートフォンを通じて回答を投稿。リアルタイムでスクリーンに表示されるコメントを折田氏がピックアップしながらトークを展開した。

多く見られたのは「頼れる存在」「便利」「人生のサポートをしてくれるような存在」といったポジティブな意見。その一方で「便利過ぎてときどき危険な道具」「敵に回ったら怖い友達」「距離を取って常に観察すべき存在」など、便利さと表裏一体のリスクを危惧する意見も見られた。なお、参加者の多くは、ChatGPTを思い浮かべて回答したという。
「便利」といった意見に対し、パネリスト2名も共感。編集者の高橋氏は、ソースとなる資料を明示するように設定したうえで検索エンジンの代替として対話型AIを頻繁に使用していると言う。調べる対象のみならず関連する事柄も出力されるため、情報を面で捉えながら整理する作業を効率化できると語った。グラフィック・クリエイターの春仲氏も、対話型AIと話しながら、思考の整理やアイデアのブラッシュアップをするなど、クリエイティブのサポートとして日常的に使用していると語った。
AIにこうした「便利さ」を要求している人が多い一方、「役に立たないAIロボット」として開発されたのがLOVOT。しかし春仲氏は、一見「役に立たない」と思われる存在が、自分の行動を変えることもあると言う。
「例えば、動き回るぴーちゃんの足(ホイール)にゴミが絡まらないように、まめに掃除機をかけるようになりました。結果的に、ぴーちゃんのおかげで部屋が綺麗になり、健康にもなっている。ある意味それは、最高に『役に立つ』存在ではないでしょうか」(春仲氏)。

人とAIのコミュニケーションのあるべき姿とは
参加者のコメントからは、AIを「話し相手」として捉えている人も多いことがうかがえた。それを踏まえ、折田氏は人とAIとのコミュニケーションのあり方について、高橋氏と春仲氏に意見を求めた。
高橋氏は海外出張の際など、言語が分からない環境で、情報の断片(写真など)をスマートフォンに読み込ませ、「これは何?」と対話型AIに質問することで、その土地の言葉や文化を理解できた経験を紹介。断片的な情報であっても、回答してくれるのはAIの利点だと語った。折田氏もこれに共感する一方、AIの学習が不足している事柄に関しては、不正確な情報がアウトプットされる可能性もある点について、日本固有種のタヌキがアライグマと混同されてしっぽがしましま模様で生成されてしまうことを例に挙げて指摘した。

さらに、参加者からの質問にあった「AIはカウンセラーになれるか」という点についても取り上げた。春仲氏は昨今の対話型AIが人間に対し肯定的であり過ぎる点を指摘。高橋氏も、海外では対話型AIへの過度な依存が自殺を招いた例もあることから、AIにカウンセラー役を委ねることには慎重であるべきという立場をとった。
「カウンセリングができるAIアプリの開発なども考えられているようですが、AIと患者さん個人だけで対話を進めると、依存状態になってしまう危険もあるのではないでしょうか。医師などのプロが介入する前提で、診察を受ける前の情報整理のような形で使うなら、可能性はあるかもしれません」(高橋氏)。

2回目の参加者ワークでは、これまでの議論を踏まえ、AIにどのようなことを期待するか、コメントを募った。

「正確性の向上」「人手不足の現場での活用」「一緒にいて落ち着ける存在になること」などポジティブな意見もある一方で、個人情報保護や二次創作による著作権の侵害問題、人間らし過ぎる振る舞いへの違和感などの課題も示された。
生成AIは人間の創作活動を加速させるか
2回目のワークでよせられたコメントや質問に対して、パネリストが回答した。創作活動における人間と生成AIの関係について、春仲氏は生成AIが進化しても、人間によるクリエイティブの価値は損なわれないのではないかと発言。
「今は生成AIが作るイラストには、まだ不自然さもあるように感じますが、もし今後もっと完璧なイラストを描けるようになっても、手を動かして絵を描く楽しさは変わらないと思います。人間は同じ物をデッサンするとしても、人によって絶対違う作品になりますよね。その人の気持ちや、個性が現れるから絵は面白いんだと思います」(春仲氏)。
続いて、生まれた時からAIがそばにある「AIネイティブ」については、参加していた小学生にもコメントを求めた。「すべてをAIに託してしまうと人間としての力が下がってしまうのではと思っています」という鋭い意見には、多くの参加者が頷いた。

そこから発展し、話題は学校教育におけるAIの扱い方へ。高橋氏は「あまり幼い頃からAIに思考を委ねてしまうのは危険では」と問題提起した。
「情報処理を外部デバイスに頼ってしまうと、その分能力が育ちにくいということはあると思います。日本の学校教育では、基本的に算数のテストでは電卓を使わず、暗算や筆算で答えを求めますよね。でも海外ではテストの際に電卓の持ち込みを許可する国もある。そのせいか、日本人は日常の中でも細かいお釣りの計算などが得意な人が多いと言われています。これは算数の話ですが、基本的な思考力や読解力、コミュニケーション能力が育ったうえでAIを活用することが大切だと思います」(高橋氏)。
AIは人間社会をより豊かにする

最後に折田氏は「今回のワークショップが、テクノロジーとコミュニケーションの関係について考えるきっかけとなれば嬉しい」と締めくくった。
今回のワークショップでは、AIに対するさまざまな不安や違和感といった感情や、実際のリスクについても触れられたが、一方で仕事や勉強、創作活動に新しい価値が生まれるのではないかという可能性も示唆された。AIの発展によって、個人も社会もより豊かな関係性を作っていける。そんな期待を感じさせる場となった。