トピックス

World BOSAI Forum/防災ダボス会議@仙台 2023にてセッションを複数開催

国際部(事業実施グループ 日米研究交流)

https://www.jst.go.jp/inter/program/kiban/gather/usa.html

社会技術研究開発センター(RISTEX)

https://www.jst.go.jp/ristex/

「科学と社会」推進部

https://www.jst.go.jp/sis/

2023年3月10日(金)~12日(日)の日程でWorld BOSAI Forum/防災ダボス会議@仙台 2023(主催:WBF国内実行委員会及び国際実行委員会/会場:仙台国際センター)が開催されました。このフォーラムは、東日本大震災を経験した東北の地で「災害で悲しむ人々をこれ以上増やしたくない」との願いを込めて始まったもの。JSTも科学技術による防災・減災への貢献を目指し、国際部・社会技術研究開発センター(RISTEX)・「科学と社会」推進部が出展しました。

  • 1.「災害レジリエンス研究 - 国際協力で拓く新しい可能性」(国際部)

    国際部では『災害レジリエンス研究 - 国際協力で拓く新しい可能性(Disaster Resilience Research - Unlocking New Potential through International Collaboration)』と題したセッションを主催しました。

    このセッションでは、まず、国際科学技術協力基盤整備事業の「災害レジリエンス」分野で2022年から米国との研究交流を実施した研究者5名が登壇し、それぞれの研究成果を発表しました。

    本分野では、「人間中心のデータを活用した災害レジリエンス研究」という視点を中心に据え、これまでの物理的側面を重視した理学・工学的見地からのアプローチよりも、人間的側面への理解を深めつつレジリエンス(復元力)の向上を目指す研究を支援しています。

  • 終始なごやかな雰囲気でディスカッションも弾みました

    終始なごやかな雰囲気でディスカッションも弾みました

  • 西川智さん(名古屋大学)は、災害時に求められる病院機能の継続性に着目し、病院を中心とした地域を面と捉えて事業継続計画(BCP)を考える、先例のない新たな研究をおこないました。近藤民代さん(神戸大学)は、日米両国の被災地における土地利用や、場づくり(プレースメイキング)に関する研究を、両国での豊富なフィールドワークを通して実施し、次につながる新しい知見を得ています。清水美香さん(京都大学)は、システムズアプローチを用いて、事前に被災後の復興を考えながら準備する「事前復興」のためのガバナンス枠組みと実践モデルを検討し、両国のさまざまなステークホルダーとのワークショップ等をおこないました。

    セッションの後半では、災害に関する取材や執筆経験が豊富なフリージャーナリストの飯田和樹さんを座長に迎え、パネルディスカッションを行いました。それぞれの研究者の研究活動や得られた知見に触れながら、とくに防災においてよく問われる「誰一人取り残さない」「自助、共助、公助」といった考え方、トップダウンの防災対策のあり方、防災研究の成果とは何かなど、実社会に根差した問題意識について多くの意見が交わされました。

    なかでも、コミュニティとは地縁の人々だけではなく、他の土地からやってきて集う人々も含まれるという見解や、復興とはより良く作り直す、作り替えることと捉えられがちのところ、場や活動を守り、継承することも大事である、という見方は、まさに本分野で意図した人間や社会的側面からの視点といえます。今後の研究の更なる展開に期待を寄せる、総括となるディスカッションになりました。

    <セッション概要ページ>

    https://worldbosaiforum.com/2023/news/detail---id-321.html

    2.「サイエンスアゴラ in 仙台~生活視点の防災と女性」(「科学と社会」推進部)

    「科学と社会」推進部は、東北大学災害科学国際研究所(IRIDeS)及び一般財団法人世界防災フォーラムとの共催で、『サイエンスアゴラin仙台~生活視点の防災と女性』というセッションを開催しました。 “女性”が災害時に“弱者”となりがちであることを踏まえた防災研究の意義を伝える企画で、「科学と社会」推進部長の荒川敦史からの趣旨説明後、5名の女性登壇者がそれぞれの活動を紹介しました。

  • 左からファシリテーターの中鉢さん、韓国の朴さん、バングラデシュのカビルさん、ジンバブエのキセピレさん、日本の柳谷さんと大草さん、JST「科学と社会」推進部長の荒川

    左からファシリテーターの中鉢さん、韓国の朴さん、バングラデシュのカビルさん、ジンバブエのキセピレさん、日本の柳谷さんと大草さん、JST「科学と社会」推進部長の荒川

  • NPO法人natural science理事の大草芳江さんは、仙台をベースに17年間にわたり科学教育活動を行ってきました。そして答えがひとつではない社会では、意思決定をして進める能力と、その基礎になる科学的に考える能力を育てることが防災に役立つと述べました。仙台市職員で「片平地区まちづくり会」の柳谷理紗さんは、東日本大震災の経験と教訓を残す震災メモリアル事業に携わり、防災マップづくりや訓練を行ってきました。その経験から、住民自身が家や地域のリスクを知り、いざというときに助け合える関係性をつくり、適切に情報が伝達されることが大切だと話しました。

    国際開発コンサルティングを行う韓国・JHSUSTAIN創業者兼CEOの朴志玹さんは、家父長制のもとで女性に育児や介護の役割が偏ることで女性の防災スキルや社会的スキルが低くとどまり、犠牲が増えると指摘。政策立案や防災トレーニングにおけるジェンダー・クォーターの必要性を主張しました。NGOバングラデシュ災害対策センター・マネジャーのカビル・ライラさんは、家族や地域コミュニティ、モスクで、災害リスク削減(DRR)啓蒙活動とトレーニングを行っています。同国では女性が避難するには家長の男性の許可がいることや、98%がイスラム教徒であるため宗教的リーダーの役割が重要であるといった事情について話しました。ジンバブエ出身で京都大学防災研究所博士課程のヌクルベ・ノンブレロ・キセピレさんは、災害時に女性が犠牲になる割合が高い原因は立場の弱さにあること、災害管理上のステークホルダーとして重視されてこなかったのはグローバルな傾向であることを指摘しました。

    パネルディスカッションでは、犠牲になりやすいジェンダー以外の属性についても議論がおよび、進行役の東北大学IRIDeS特任准教授の中鉢奈津子さんは、災害時における女性の問題は女性だけの問題ではないと指摘しました。女性の犠牲の「なぜ」が、災害による被害全体量を減らし、誰も取り残さない防災につながると気付かされたセッションでした。

    <セッション概要ページ>

    https://worldbosaiforum.com/2023/news/detail---id-310.html

    3.CHANCE連携「防災・災害支援アップデート研究会」(「科学と社会」推進部)

    JSTが産官学民の17機関とともに賛同する「未来社会デザインオープンプラットフォーム(CHANCE)構想」では、NPO法人ETIC.などと連携した「防災・災害支援アップデート研究会」名義で『誰一人取り残さない災害支援~企業協働型支援めざして~』と題したセッションを開催しました。

    本研究会は“誰一人取り残さない災害支援”を目指す企業やNPO、そしてJSTによる7者の枠組みです。「災害時に組織の枠を越えてどのような支援が行えるか」をテーマにした研究会を毎月実施し、JSTからもRISTEXでインクルーシブ防災に取り組む立木茂雄さん(同志社大学)が講演を行うなど、各機関の知見や技術を生かした「防災におけるコレクティブインパクトの創出」を目指してきました。

    今回のセッションでは、各機関が過去の災害支援現場などで得た教訓や課題などを紹介。誰一人取り残さない災害支援を実現する鍵として“平時のつながり”をより一層深め、防災支援をアップデートすることを目的に臨みました。

  • 左からJST「科学と社会」推進部調査役の古屋美和、株式会社フェリシモの三浦卓也さん、NPO法人ETIC.の山内幸治さん、株式会社エスプールの北山剛さん、このほかにオンラインから一般社団法人Smart Supply Visionの河野良雄さんが参加

    左からJST「科学と社会」推進部調査役の古屋美和、株式会社フェリシモの三浦卓也さん、NPO法人ETIC.の山内幸治さん、株式会社エスプールの北山剛さん、このほかにオンラインから一般社団法人Smart Supply Visionの河野良雄さんが参加

  • 異口同音に語られた課題の1つが、支援ニーズの多様化。例えば、避難所に届けられる物資は食料や衣類などベーシックなものが多い一方で、現場では哺乳瓶の口や人工肛門など個別具体のニーズに直面する場面も少なくないといいます。支援者の「力になりたい」思いと、個別のニーズを橋渡しする仕組みの重要性が共有されました。

    他にも「行政も被災者であること」が見落とされがちな観点として指摘されました。過去の災害現場では自治体が避難所運営などで疲弊し、より優先すべき事態への対応が遅れたり、不十分になったりする場面もあったそうです。避難所運営を民間事業者が担うことなどを通じて、自治体が本来期待される役割を全うできる体制づくりも必要との意見が示されました。

    さらに復興を中長期的に捉えた場合、自治の再建こそが最大のテーマだとする声も。復興の過程では、学童保育の問題など行政や社会福祉協議会等の公的支援が及びにくい「隙間」のニーズが生じるといいます。そうした隙間をコーディネートする存在である「中間支援組織」をNPO法人が担っていきたいといった意欲も語られました。

    アカデミアに対しては、こうした個別の教訓などを一般化するために連携を強化したいとの期待が寄せられました。今後も本研究会では、訓練などの実践活動も交えながら平時のつながりをより強化し、災・減災への貢献を目指します。

    <セッション概要ページ>

    https://worldbosaiforum.com/2023/news/detail---id-322.html

    このほかにも、今回のフォーラムにはRISTEXの「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(SOLVE for SDGs) シナリオ/ソリューション創出フェーズ」より以下の2プロジェクトが出展。JSTにおける防災・減災に資する研究開発の成果などを紹介しました。

    プロジェクト名:最後の一人を救うコミュニティアラートシステムのモデル開発および実装
    研究代表者:小野裕一さん(東北大学)
    開催セッション:インクルージョン×防災 全ての人が自分らしく生きられる世界の実現を目指して
    https://worldbosaiforum.com/2023/news/detail---id-269.html

    プロジェクト名:福祉専門職と共に進める「誰一人取り残さない防災」の全国展開のための基盤技術の開発
    研究代表者:立木茂雄さん(同志社大学)
    開催セッション:誰ひとり取り残さない防災:3年間のRISTEXプロジェクトの総括
    https://worldbosaiforum.com/2023/news/detail---id-328.html

    ※記事内の役職等はいずれも開催日時点

    関連リンク
    World BOSAI Forum/防災ダボス会議@仙台 2023ホームページ
    サイエンスポータル:イベントレポート【前編】
    サイエンスポータル:イベントレポート【後編】